台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

太陽と月の湖で

  大学生の二人組みとは次第に打ち解けていった。ひとりは王君でもうひとりは蔡さんといった。蔡さんは台中に住んでいて、王君はこの日のために桃園から台鉄に乗ってはるばる台中まで来たのだという。僕はそうした彼らとたまたま台中駅のバス停で出会い、そしてタクシーの運ちゃんに出会い、みんなで相乗りして日月潭にやって来たのである。

 王君はいたって物静かな男で、主導権の大半は蔡さんが握っていた。行くところ行くところいつも彼女が王君の前を歩いていたし、そのうちいつのまにか、僕を含めた男二人組みが蔡さんを先頭にして後ろからついて行く図、というものが出来上がっていた。

 僕はもともと彼らとは初対面であったので、別行動をするものと思っていた。しかし、タクシーを降りるところが同じであれば、観光地という性質上行くところはだいたい同じようなものになってしまうもので、せっかくだしみんなで歩いたほうが楽しいよ、という蔡さんのひと声で、三人で行動するという結論が僕らの前に正式に下されたのである。

 日月潭の周囲は観光スポットのようなものがいたるところ点在していて、タクシーは湖をぐるり一周するように各地を各地を停まりまわった。車の窓には、いつも太陽の跳ね返りでまぶしいくらいに光っている湖面が見えた。

 タクシーは日月潭纜車というロープウェイ乗り場に着いた。蔡さんと王君と僕は、ひとり300元の往復チケットをそれぞれ買い、ゴンドラの発着場がある2階までの階段を上った。柵の中には、のゴンドラが、正しい順序と間隔を守って動いていた。僕たちは係員に指示されるままに進み、黄色のゴンドラに乗り込んだ。

 山を登るゴンドラの中からは青い湖とそれを囲むように隆起する緑の山々が、遅い午後のゆるやかな太陽の光に照らされて、浮かんでいるように見えた。僕は刻一刻と刹那的に風景を変えていくゴンドラの上昇に焦りながらも、その瞬間瞬間を逃すまいとして連続して何度もカメラのシャッターを押し続けていた。

 蔡さんはそんな僕の行動の一部始終を見て、写真ばかり撮ることに夢中になって景色をまったく楽しんでないじゃないのよ、と核心を突くような正確無比な本質的な意見を言い放った。本当にそのとおりだと思った。僕はゴンドラに乗っている間ずっと、ファインダー越しという人工的な狭い穴を通してしか風景を観察していないことに気がついた。

 20分くらいしてゴンドラは九族文化村に降りた。“九族”というのは台湾の先住民族の数を意味している。実はその後に紆余曲折な経緯をもって、今では全部で14の民族があるという結論に至ったが、この村がつくられた当時はまだ9つの民族に分類されていたので、九族という名称がそのまま継承されているということである。ここでは台湾の原住民の民芸品や工芸品や、どこか懐かしい感じがするお菓子などの土産物が売られていた。

 村の中をひとしきり見た後で、僕らはふたたびゴンドラ乗り場に戻った。帰りのゴンドラから見る外の景色は、来るときよりもいくらか色が落ちはじめていて、湖や山に反射する太陽の光も徐々に弱まりかけていた。

 僕は二人の邪魔になっていないのだろうかということをいつも気にしていた。気を利かせるつもりでところどころ二人との距離をおいたりしていたが、その度にいつも、二人のうちのどちらかは僕の視界の中にいて、それはどこか、こちらを気にかけてくれているような、初めて会ったけど初めてじゃないような親しみとして感じられていた。二人はいったいどういう関係なのだろうか、考えてみたけれどもわからないままだった。やがてゴンドラはタクシーの運ちゃんが待っている日月潭纜車の発着場に着いた。

***日月潭にて***


太陽と月の湖で


ブログランキング・にほんブログ村へ
台湾ちんほうちゃ日記

テーマ:台湾旅行 - ジャンル:旅行

  1. 日月潭
  2. | トラックバック:0
  3. | コメント:0

赤帽おじさん忘れ物を伝えに来る

2014/1/2 日月潭

 船が着いたのは伊達邵という集落だった。船は日月潭のいくつかの港を結んでいるらしい。タクシーの運ちゃんはやっぱり待っていて、僕らが見えると手を振って合図をした。運ちゃんは一軒のお店に入り僕らも後ろに続いた。土地の民芸品などを扱っているお店で、原住民の衣装や置物、お茶などが所狭しに並んでいる。奥のカウンターにおばあちゃんがひとり座っていた。年輪の描かれた木のきりかぶの椅子に腰を下ろすと、目の前の小さな湯呑みにお茶が注がれた。透き通った茶色のお茶から静かな香りが立ち上った。すると突然、おばあちゃんが僕に日本語で話しかけてきた。

  日本から来たの。じゃあこれをあげるから持って帰って家族で食べなさい。身体にいいんだよ。 

 後ろの冷蔵庫から何かを取り出して僕に見せた。聞くと天然素材の健康的な食べ物らしい。突然のことでもあったし、僕はそもそも保存できる冷蔵庫なんて持ち歩いていなかったので、いいよとお断りをしたら、今度は酒を飲んでいけと言う。ラベルには小米酒と書かれている。原住民の酒である。別の湯飲みに注がれた小米酒をチビリチビリと舐めた。とろっと甘くて乳酸菌のような酸味がある。おばあちゃんはサオ族と言った。子供の時代に日本の教育を受けて育った。

 1時間後に運ちゃんと待ち合わせる約束をして皆と別れた。路地には食堂や露店、土産物屋が軒を連ねている。そのうちの一つに店先で肉を焼いているお店があった。鉄板に放り込まれたぶた肉、ねぎ、ニンニク、唐辛子から蒸気が飛んで、こっちにまでいいに匂いが近づいてくる。僕はぶた肉の鉄板焼きと、ついでに鉄板の上に吊るされている鶏肉炙りを注文した。どこかベンチに座ってゆっくり食べようと思った。

 ビニール袋のなかの熱が手のひらにじんと伝わってくる。船着場の近くにひさしのついた丁度よいベンチが見えたので、そちらに向かって歩いていると、後ろから声をかける人がある。振り返ると赤い帽子をかぶったおじさんが僕に何か言っているようだ。途中、どこかでゴミを捨ててしまって注意されているのかと思ったけれど、僕はゴミを捨てた覚えはない。うっかり赤信号を渡ってしまったのかとも考えてみたけれど、このあたりに信号機はない。僕はまともに台湾の言葉を勉強してこなかったので、何を言っているのか分からないのである。心当たりがないもんだから、自分は何も知らないと首を振って、やりとりを打ち切ってしまった。

 ベンチから眺める湖に正月のやわらかい太陽が反射して、寝そべった犬が気持ちよさそうにひなたぼっこをしている。飼い主は缶ビールを飲みながら仲間と笑いあっている。のんびりした埠頭のお昼の風景に、身も心もゆらゆらと同化しようとしはじめたとき、呼ばれる声で目を覚ました。声の主はさっきの赤い帽子のおじさんだった。おじさんは言葉が通じないもどかしさにやり場のない寂しさを漂わせながら、しかしその目には僕に何かを訴えたいという必死の気持ちが読み取れた。話している内容は相変わらず分からなかったけれど、おじさんの指は僕の持っている食べ物の袋と、僕がさっき来た方向を示していた。

 おじさんについていくと、そこは果たして、ぶた肉の鉄板焼き鶏肉炙りを買ったお店だった。店先のカウンターには持ち主のない袋がぽつんと置かれていて、僕は今になってやっと事の次第を理解したのである。注文したはずの鉄板焼きを持ち帰ってくるのを忘れていたのだ。今手にしているのは鶏肉炙りの袋それだけであった。赤い帽子のおじさんはホッとしたような顔つきになって、ニンマリ笑うと自分の持ち場に帰っていった。お店のおばちゃんは笑いながら鉄板焼きが入った袋を僕に渡した。

 あのとき、僕が行ってしまった後で、おばちゃんは注文を受けたはずの品がカウンターの上に忘れられていることに気がついた。しかし注文の多いお昼の時間である。料理から手を離すことはできない。困ったおばちゃんは、たまたま近くにいたおじさんに声をかけた。 「黒縁のメガネをかけて、くすんだ色のトレーナーを着た、腹がぽっこり出ている男を探してきておくれ」 と。

 おじさんはそれらしい男を見つけたものの、キョトン顔の男には何を言っても通じない。あげくに首を振られてしまったものだから、おじさんはがっかりと肩を落として、もう一度お店に戻り、細かい部分までを注意深く確認した。確信を得たおじさんは、今度こそと、再び僕を探し出して説明を試みたのである。僕は、申し訳ないと思う気持ちと、ありがたいと思う気持ちが入り混じって、しばらくのあいだ、胸の中にモヤモヤしたものがつかえたままだった。

 ベンチに戻り袋から箱を取り出してふたを開けた。ぶた肉ねぎニンニク唐辛子の鉄板焼きは、それぞれがほどよい塩味を染み込ませていて、肉には噛みごたえがあっていい感じに辛味が効いている。これはビールだ。パーツのひとつひとつが、完全にビールと結合する味を構成していた。僕はすぐにふたを閉じ箸を戻して袋にしまった。7-11はさっきのお店の通りで見ていた。台湾ビールの缶には二種類あって、そのうちの大きいほうを選んだ。三度目に腰を下ろしたベンチの上で、プルタブを開ける音がぷちんと鳴った。犬がしっぽを振ってこっちを見ている。


Sun Lake Moon Lake Ⅱ



ブログランキング・にほんブログ村へ
台湾ちんほうちゃ日記

テーマ:台湾旅行 - ジャンル:旅行

  1. 日月潭
  2. | トラックバック:0
  3. | コメント:0

貸切タクシー日月澤へ行く

2014/1/2 日月潭

 ひとり台中駅のバス停のベンチに座っていると、どこからかオジサンがやって来て、どこ行くのかと聞いてくる。日月澤(にちげつたん)だと言ってやったら、俺の車に乗って行けとやけに高い金額をふっかけてきた。オジサンはタクシーの運ちゃんらしい。ちょっとあやしそうだなあと思った僕は、言葉が分からないふりをして、どうにかその場を振り切ったんだけど、しばらくすると今度は学生と思しき二人の若者を連れてやって来た。運ちゃんは三人で乗ればひとり1000元でいいよとさっきの半額以下の金額を提示してきたので、僕よりも年下の大学生が乗ることだし、社会人の男がお金をけちって乗らないのもカッコ悪いと思って、一緒に乗って行くことに決めたんだ。

 運ちゃんはさらに、日月澤のいろんなスポットに車を停めながら、やがては湖を一周して、夕方には僕たちみんなを台中駅に届けてくれるとまで加えた。バスを降りてからその後どうやって移動したらいいのか全くもって無頓着でいた僕にとっては非常にラクだと思えたし、台湾人二人がいっしょに乗ってくれることがとても心強く、何よりもひとりで行くより楽しい旅になるかもしれないといったワクワクするような冒険心があった。

 大学生は後ろの座席に乗り込んで、僕は助手席に座った。1月とはいえ台中のあたたかな快晴の空のもと、僕たちの貸切タクシーは元気よく出発した。大学生は一人はの人で、もう一人はの人だった。運ちゃんと大学生はなんだかいろいろと世間話をしているみたいだったけれど、僕には何を話しているのかさっぱり分からなかったので、自分は分からないなりにガイドブックを開いてこれから行きそうな場所について検討をつけたりしていた。その様子を見た運ちゃんが僕に日本人かと聞くので、日本人だと答えたら、後ろの大学生が興味深そうに僕のガイドブックを覗き込んだ。どこにでもある地球の歩き方台湾編(2012~2013)である。大学生は片言日本語で、僕がいつ台湾に来たかとか、どこを観光してきたかとか、いま何歳とか、いろいろな質問をしてくる。僕は知っている限りの台湾語で適当な答えを返していたんだけど、いつの間にか車内は笑い声であふれて、初めて会うもの同士のどこか遠慮するような緊張するような空気なんていうのは、もうどこ吹く風の有り様だった。

 タクシーは、高速を飛ばし、くねくねの坂道を登り、緑いっぱいの山を越えて、あっという間に日月澤に到着した。雲ひとつない空はどこまでも高くて、湖は遠くまで青く広がっている。タクシーから降りると、1時間したらに迎えに来るからと、運ちゃんは船のチケットを三人に渡して、どこかに行ってしまった。船の名前は日月之星。僕は大学生にくっ付いていくように船に乗り込んで、でも二人にはちょっと距離をおいて、ひとり船のデッキで湖面の風を浴びていた。

 船は水社碼頭と向こう岸の玄光寺碼頭との間を何度か往復しているようだった。船内のスピーカーからは

 對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。 

の歌が流れている。對啊は相槌のうんとかそうといった意味である。要するに うん そう を、サビの部分において、ただひたすらに繰り返す歌なのである。すると何を思ったか、それまで船のデッキでガイドしていた兄ちゃんが、持っていたマイクで突然歌い始めたのである。


 ト~ヤ、トヤ♪ ト~ヤ、トヤ~♪ ト~ヤ、トヤ♪ ト~ヤ、トヤッアッア~~~♪


 それを聞いてからというもの、歌のフレーズが耳に焼きついてしまい、對啊の歌は、当分のあいだ僕の頭から離れなくなってしまったんである。

 玄光寺碼頭に着いてから、11時に待ち合わせをしようと約束して、大学生と別れた。初対面の僕に気を使ったんだろうし、僕も二人の楽しいデートを邪魔してはならないと思っていた。玄光寺の周りはそれほど広いというわけでもないらしく、見晴らしのいい場所に上って写真を撮ったり、トイレに寄ったりしていると、ところどころで大学生と顔を合わせた。お互い照れた笑いを交わしながら、そのうちにあえて別々に行動しなくてもいいじゃないかみたいな雰囲気になり、結局はそれぞれが好きな場所を思いのままに行く気兼ねのない自由な散歩になった。

 玄光寺の石段を碼頭の入り口まで降りきると一軒古びたお店があった。大学生の兄ちゃんが、これを食べるといいよと指差すものがある。大がまの中では、ひび割れた茶色い卵が、ぐつぐつと煮えたぎっている。これは香菇茶葉蛋という名前の、南投県で収穫される霊芝(レイシ)というキノコとお茶の葉で煮込んだ卵で、玄光寺碼頭にある阿嬤e古早味香菇茶葉蛋は、昔から続く名店なんだそうだ。僕は20元払って2つを購入した。

 お店の前にちょっとした休憩所があったので、僕たちは木陰のベンチに腰を下ろした。船の時間までの間、台湾語なまりの英語と、日本語なまりの英語で、とりとめのない会話をして過ごした。兄ちゃんは慣れない外国人を前にして、少し恥ずかしそうだった。袋から卵を取り出す。殻はつるりと剥がれて、中から茶色い顔が飛び出した。黄身のまん中までイイ味が染み込んでいる。ビールがあったらなあ、などと昼間からいやしいことを考えていると、船着場の向こうからお迎えの日月之星が飛沫を上げてやって来るのが見えた。


Sun Lake Moon Lake Ⅰ



ブログランキング・にほんブログ村へ
台湾ちんほうちゃ日記

テーマ:台湾旅行 - ジャンル:旅行

  1. 日月潭
  2. | トラックバック:0
  3. | コメント:0

プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

いろんな場所にいきました。

台北 (10)
基隆 (2)
新北 (4)
新竹 (13)
苗栗 (3)
台中 (7)
彰化 (4)
鹿港 (2)
南投 (5)
日月潭 (3)
嘉義 (4)
台南 (10)
高雄 (11)
屏東 (4)
墾丁 (4)
小琉球 (2)
宜蘭 (10)
花蓮 (10)
太魯閣 (2)
台東 (11)
台湾日記 (1)

ぶろぐ村です。

facebookもやっています。

Twitterはじめました。

メッセージはこちらから☆

mvcos.infini@gmail.com

月別アーカイブ

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR