台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

はるのぬけみち

 八卦山大仏を見上げる半円状の九龍池広場の左手にいっぽんの小道があった。

 眼下に広がる彰化平原から吹きつけるぬるい風を半身に受けながら小道を歩いていくと通りのかたすみにコンクリートのほそい階段が降りている。

 どこにつながっていくのかな。

 階段を降りていく途中で水のしぶく音にまじって銀橋飛瀑とかいた案内碑が人口滝のまえにたっているのがみえた。

 碑のまわりにあつまった水は、そこからさらに石でかためた水路を流れおちて、ちょうど勾配のおわる苔むした石橋の下でとぐろを巻いて休息していた。

 気がついてみると辺りは一変して、木々の梢が連なるうすぐらい森になった。

 ここはいったいどこなんだろうか。
 
 冬だというのに空気は湿り気をふくみ、濃い土のにおいがする。草はみずみずしい緑色のひかりに照らされ、木の葉からこぼれおちる風が気持ちよかった。

 日本にかえったら灰色の真冬に逆戻りだなあ。

 そのとき足首のあたりにチクチクとした違和感をおぼえた。手でさすってみるといくつかの肉がぽっくらとボタン状に膨らんでいる感触があった。

 蚊だ。

 冬のこんな時期に蚊に刺されるなんていうことは、台湾ではほぼ一年を通して蚊がとんでいるということになるんじゃないか。

 すくなくとも寒気がおしよせる時期はいないにして、11ヶ月くらいの間はなんらかの形で蚊がとびまわっていることになるんじゃないか。

 今回はジーンズにスウェットの服装をしているので、夏場のTシャツ短パン姿にくらべたらそこまでの被害はない。それでも足首や手首など若干の露出のきざしがあればヤツらはそこを集中的に攻撃をしかけているはずで、そうしてやっぱり、限定された範囲のかゆさは極度に濃厚だった。
 
 でもよくかんがえたら露出が限られているぶん弱点も限られているわけで、裏をかえせば、特定された脆弱な部位だけ気にしていればよい、ということでもある。

 うーむ。

 森のなかはときどき普段着姿で歩く地元の人たちとすれ違うことがあった。けれども視覚にはいってくる人間は滅多になかった。

 すこし空がひらけた空き地の大理石のベンチに腰を降ろして、八卦山の入り口で撮った地図の写真を拡大してみると、どうやら文学歩道という場所にいるらしいことがわかった。

 文学歩道は、うららかな春であり、そしてかゆい夏でもあった。ただひとつ冬があるとすれば、それは腕にかかえたまま所在をなくしているダウンジャケットだった。

***八卦山の文学歩道***

春の抜け道




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座席は奇数の13番

  高雄駅の第四月台から莒光号が金属のこすれるの鈍い音をあげて走り出した。台湾国鉄の莒光号は自強号の次に速いとされる急行列車で、その日の僕は彰化駅の先にある鹿港という街に向かっていた。
 
 チケットに記された13番の座席は窓側にあった。座席が窓側になるか通路側になるかという問題は、座席番号が偶数奇数か、そして進行方向が東側西側かといった複雑な組み合わせの過程を経て決定される、ということをどこかで聞いていたんだけど、そういう難しいことはよくわからないので、僕は何も考えずにただ自分の番号が記された席に座っていればよかったのである。

 列車はいくつかの駅に停まってから、30分くらいして岡山という駅に停まった。日本の岡山と同じ名前だったので、僕は日本にもどってきたようなヘンな気分になった。高雄では比較的大きな駅らしく、それまでに停車した駅よりも多くの乗客が乗り込んできた。僕のとなりの席にも、ひとり、ザックを抱えて哲学的にやや深刻な面持ちをした真面目そうな黒縁メガネの学生君が座った。

 北上を続ける列車の、窓の景色がめまぐるしく移りかわる中で、めずらしく早起きをしたしわ寄せが、眺めている風景の輪郭を、夢とも現実ともつかない曖昧なものにしていった。薄れゆく意識の中で、僕は人の声のようなものが聞こえた感覚で我にかえった。

 となりの学生君が、か細い声で、僕に呼びかけているのであった。なんだろうと右耳に意識を集中してみたものの、学生君が話す言葉が中国語であったため、僕には何を言っているか理解できなかった。僕は中国語が分からないということを、その分からない中国語の単語を使って何とか答えたみたいで、このやり取りは終わってしまった。

 車内はきわめて退屈なものだった。彰化駅に到着するまでに、まだ2時間以上たっぷり残っている。幸いなことにスマートフォンに差し込んだ台湾SIMカードはすこぶる快適で、インターネットが使い放題なうえに、速度もまったくの快調だったので、FACEBOOKでメッセージや写真のアップロードなどが楽しくでき、時間をつぶすのに大いに役立った。

 ときおり販売員が弁当の入ったダンボールを肩に担いで通りかかるので、その度に通路から排骨のいいに匂いが流れてきた。周囲の座席からは絶えず人の話し声があって、車内は常に賑やかな雰囲気に包まれていた。

 それでも、ながい時間も座ったままでいると、やはり人間一回くらいはトイレに行きたくなるもので、僕は通路側に座る学生君にお願いして席を立ってもらい、進行方向の先の連結部分に設置されているトイレに向かった。僕は、的をはずさないように、慎重に筋肉の剛と柔の力を操り、不規則に揺れ動く床を克服して、この一連の作業を遂行した。

 席に戻り、再び学生君にお願いして奥の窓側の席に通してもらった。すると学生君はさっきと同じような調子で、僕に訴えかけてくるのであった。僕は分からないなりに学生君の話を聞いていたが、彼の指先は、さっき僕が出てきたトイレの方角をさしていた。
 
 僕は学生君がトイレは空いているか確認をしたいのだと思い、うんうん空いているよとうなずくと、学生君はザックとトイレを交互に指さしはじめた。僕はこのときになって、ようやく理解したのであった。学生君はトイレに行っている間に自分のザックを見ていて欲しいと言っているのだ。そして、最初に僕に言いたかったことも、これと同じ内容だったのだ。

 学生君はほっとしたような顔をしてトイレに向かった。僕はなんだか申し訳ないという気持ちと同時に、自分が傲慢で勝手で、とても恥ずかしい人間に思えた。学生君のお願いを無視して、学生君の席を空けて、自分だけ悠然とした態度でトイレに行ってすっきりした顔で帰ってきていたのである。

 しばらくして学生君が席に戻ってきた。座るとシェイシェ(ありがとう)と僕に言った。僕はすかさず、知っている限りのごめんなさい言葉を、台湾語も中国語も駆使して、学生君に連発したのであった。

 パイセイ(台湾語のすみません)プーハオイース(中国語のすみません)トイプチー(中国語のごめんなさい)シッレー(台湾語の失礼しました)

 学生君は何でもなかったように手を横に振って気にしなくていいよというふうに言った。学生君は員林という僕が目指す彰化駅の一つ手前の駅で降りていった。

***彰化行きの列車のなか***


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季節はずれな午後は

 山のふもとの歩道のわきには仏像マークの案内板があって、青い地図の真ん中にはちょっと太めの大仏の印がしてあった。坂道の途中の手入れされた花壇のうえに真冬のゆるい太陽がうすべったく降り注いで、その草いきれからは生ぬるい初夏の匂いがもわんもわんと浮きあがっていた。なんだかヘンな気分だった。キリキリ尖った真冬の東京から飛んできたら、角が取れたようなヌルヌル陽気の季節になっていたんだからしょうがない。いきなりゴールデンウィークの季節がやってきた。

 登り坂の空がひらけたところに旅遊服務中心という案内所があった。「中心」というのは「センター」という意味である、ということにこの頃にようやく気がついた。英語の単語をそのまま漢字に訳しただけ、という単純にそういうことなんだけど、僕にとっては驚くべき発見だった。

 ガイドブックを片手に突如あらわれた平日の昼間の珍客に、職員のおばさんは椅子から飛び上がって「日本人?」と訊いてきたから「我是日本人」と答えると、うわあ、と目を大きく見ひらいてとなりで書類の整理をしていたお兄さんの袖を引っ張った。

 お兄さんは僕に紙コップ渡して、壁際のウォーターサーバーを指さした。僕は言われるがままにコップに水を注ぎ、カウンターの椅子に腰を下ろした。それからおばさんは僕に話をしてきたけれど、日本語はあまり上手ではないようだった。おばさんは手にしていたスマートフォンに何かを入力して、翻訳された日本語を僕に見せていろいろと質問した。

 そしておばさんは日本語が上手くなくてごめんなさいと片言の日本語で言った。台湾にいるのに日本語しかできない僕のほうがよっぽどごめんなさいなんだと言いたかったけれど、それを台湾の言葉でどう言えばいいのか分からなかったから、結局なにも言えなかった。
 
 近くまで来たらまたいつでも遊びにいらっしゃいと言われて、おばさんとお兄さんと別れた。案内所にいる間に、空を覆っていたうすい雲はワタアメのようにちぎれちぎれに散らばって、その後ろには真夏のような青い空がさわやかに広がっていた。

 脱いだダウンジャケットを小脇に抱えて階段を昇っていると、どこかで見た顔が降りてくる。しまうま君だった。彼とは昨日まで台湾南投秘境めぐり年越ツアーでいっしょだった日本の友達で、別れたあとにまた台湾で会うということはまったく考えてもみなかったから、僕はびっくりしてしばらく、あうあうあう、となって言葉が出てこなかった。陽気のせいもある。しまうま君はついさっきまで大仏をみていたと言った。

 八卦山の大仏は20メートルと少しの高さがあって、近くでみあげるとけっこうデカイ。案内所で貰ったパンフレットには、1961年に完成したとあって、意外にも最近に造られたものなのだと知った。表面から反射する光が艶やかに輝いてみえるので、奈良の大仏と比べるとものすごく新しいんだあ、という探究的観点で正しく歴史を理解しようと思ったけれど、奈良の大仏はどのようなものであったか、そういえば実際にみたことがあったのか、もしかしたらみたものだと今まで思っていただけなのか、記憶があいまいになってきてしまったので、とうとう真実を知ることができなかった。陽気のせいもある。

 正面の広場のようなところで学生風の2人組みの女子が大仏を背景に交代で写真を撮りあっていた。観光している人はまばらで、そのたびに今日はごくごく普通のどこにでもころがっているありふれた平日である、ということを思い出すのであった。

 大仏が見つめる先は、半円状に突き出した見晴らしのよい舞台になっていて、舞台から眼下に広がる緑の森の向こうには、午後の陽光をうけた彰化の街なみが、まぶしくも静かにたたずんでいた。僕はすぐ後ろのベンチに腰を下ろして、足もとであくびをしている黒いタイワンイヌといっしょに、どこまでも白い午後を眺めていた。

***彰化の八卦山***

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ぶよぶよまみれの衝動

2014/1/3 彰化

 ベッドのうえでガイドブックを眺めている。そういえば彰化にはまだ行ったことがなかったなあなどと、半分寝ぼけた頭で今日の行き先をあれやこれやと思いめぐらすことから台湾の一日が始まる。

 僕は計画を立てることが苦手で、とりあえずどこかしらかのホテルには泊まってはみるものの、その日になってみてはじめて何をするかを決めるのである。だから台湾にいるときの僕はいつも退屈なんである。

 PLAZA HOTEL台中駅改札を出て右側の国光客運台中站バスターミナルを抜けた建国路沿いにあり、一泊だいたい1,400元(たぶん4,500円くらい)で泊まれて、その値段のわりに部屋はとてつもなく清潔で整頓され、洗濯機と乾燥機がいつでも使えて、机の上のアメニティセットにまぎれてうまい棒がひそかに2本備え付けてあるので、僕はたいそう気に入ってしまった。でもこのウワサが広まったらみんなこぞってやって来てハイシーズンなんかだと予約が殺到して泊まれなくなる可能性があるので、これは僕だけの秘密である。

 ホテルから歩いて1分もしない台中駅から電車に乗って気楽にいける場所であったし、もしかしたらまだ行ったことのないような気もしたので、よく分からないけれどまあ行ってみればあとはなんとでもなるっしょ、といういつもの行き当たりばったりなノリで、その日は彰化に行くことに決まったのであった。

 台中駅から彰化駅までは20分足らずで着いてしまった。正月三が日といってもそこには正月気分なんていう風情はなく、勤め人も学生もタイワンイヌもみんないつもの顔してさっそうと歩いている。新正月と言われる僕らが知っている正月は台湾ではごくごくふつうの平凡ありきたりな日なのである。

 地球の歩き方の彰化のページに肉圓(バーワン)のお店が紹介されている。よく見ると紹介されている3つのレストランのうち2つがバーワンのお店であった。今日は3分の2の確立でバーワンにあたるんだろうなあ、などと地球の歩き方しか世界を知らない僕はただそんなことばかりを考えて歩いていた。

 バーワンといえば挽いた肉の塊に、シイタケタケノコタマネギを混ぜ込んで、粉ものを練りまわしたぶよぶよの炭水化物で豪快に包み込んでしまう、というデブがいかにも好みそうな食べ物である(僕だ)。さらに彰化のバーワンは蒸す、などとというお行儀の良い調理方法ははなっから放棄していて、どうするのかというとぶよぶよに丸めたソレをあぶら跳ね散る大なべに放り込んでぶちぶち揚げてしまうものだからたまらない。まさに炭水化物あぶら大好きデブには感涙ものなのである(僕だ)。
 
 駅前の大きな通りを渡って3分も歩いていると2軒の肉圓店があった。阿璋肉圓正彰化肉圓である。2つの店は一本のそれほど広くない道を隔ててはす向かいに並んでいる。そのとき立っていた場所にたまたま近かった阿璋肉圓に入った。僕は35元(たぶん100円くらい)をおばちゃんに渡すと、でてきたでてきた。湯気たちのぼるぶよぶよの肉塊、というかむしろ炭水化物とあぶらの塊。そのあぶらが素敵な感じに染み出ている。ヨコには正体不明の赤いタレがかかっていて、パクチーの緑がいいアクセントになっている。

 できるだけいっきに食ってしまおうとおもいっきりでっかい口でかぶりついた。サツマイモの粉で練られたというデンプン質たぷたぷのぶあつい皮の中からあっつい豚肉が飛び出して、アヒィアヒィアヒィとなっていると、同じカウンター席のとなりにスープを手にしているおっさんを発見。ガラスの向こうにセルフサービスの巨大ずん胴がどでんとすわっていた。豚の脳みそスープを飲みながらぶよぶよのなかのモノモノが冷えるのを待った。

 彰化をあとにしようと駅前に戻ると、駅舎の様式と噴水のたたずまいがすっきりと正面に入った。行ったことがない、と思っていた彰化であったが、以前にも来たことがあった、ということをこのときはじめて思い出すのであった。


ぶよぶよあぶらまみれの衝動



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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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