台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

ルーガンの迷い方

 クレちゃんと台南から台鐵に乗り込んで、しこたま3時間半かけてやってきた小さな旅は、こきざみに降りつける雨の中からはじまりました。停車を知らせるベルの音からしばらく間をあけてから、あっ、いけね!いま気がつきました。とばかりに、バスはわたしたちの体を慣性の力ではげしくゆさぶりながら、道路のわきに停車しました。バスを降りたところはルーガンという街でした。

 道路をへだてた先に、細い通りが入り口をあけているのがみえました。両端には小さなお店がいくつもならんで、さまざまな色の服を着たおおぜいの人たちが、ざわめき行きかっていました。レンガ造りの茶色い通りで、同じように茶色くて古いレンガの建物が、通りの奥に向かって細長く続いていました。わたしたちは鹿港老街とかかれた標識をくぐって、空のあかりを受けて光っている、湿り気のある小さな通りに入っていきました。

 ちょうどお昼ごはんの時間でしたので、八角の刺激のある臭いが、いつもの時間よりも、あたり一面に色濃く漂っていました。クレちゃんとわたしは、路地の一角にある、間口二間足らずの小さな麵線屋に入りました。ややとろみのついたスープは深みにいくほど舌に熱くさわるのですが、麵線そのものは細くてやわらかいので、ここちよくぽろぽろと口の奥に流れ込んでいきました。

 「ルーガンに来るのははじめてだから、うまく案内できないかもしれない」と、クレちゃんは麵線をうごかす箸をとめてから、いささか困ったような顔つきでわたしに言いました。わたしにとってもルーガンは今日がはじめての旅行でありましたが、「それはむしろいいことだと思うよ、お互いはじめて同士だから知らない街を迷いながら歩くことができるんだ」と、ドンブリの底にあつまった最後の汁をすすりながら、わたしはとっさに思いついた言葉で返しました。

 その日は夏の季節にしては、いやに湿ってなまあたたかい風が吹いていました。そのなまあたたかい風の中で、台湾人の友だちが自分の国の知らない土地を旅行する気持ちと、まったくの外国人で言葉も土地も知らないわたしが台湾を旅行する気持ちとをならべてみて、わたしはなにかあやしくも魅惑的な、それぞれの目に映る風景の違いにも通じるような、ひとりひとりがもっている旅の事情、というものを密かに垣間みたような気がしました。

 ルーガンは台湾文化史に燦然と輝く由緒正しい歴史の街、ということになっておりますが、その土地に住む人々の、よそゆきでない普段どおりの生活が、いたるところからにじみ出ていました。ガイドブックに載っている歴史的建造物の軒先には、まだ洗ったばかりの洗濯ものがぶら下がっていたり、また、厳しく立派な門の前には、個人仕様のバイクがむきだしになってころがっていたりしました。

 夕方に近づいた晩夏の、なんだかぼやけたような薄闇があたりに広がりはじめたころでした。それまで歩いていた路地の幅が、いくぶん狭まってきていて、手を伸ばせばすぐに触れるくらいのところにまで、茶色いレンガの壁が迫っておりました。いままで吹いていたなまあたたかい風も、電気のスイッチを切ったかのように、ぷつりと途絶えていました。ここに来るほんの少し前に、わたしたちは九曲巷とかかれた標識をみかけていましたが、迷い込んだのはどうやら九曲巷らしいということがようやく分かってきました。

 その路地は、東北の風の吹き込みを防ぐ目的のために造られたということですから、風が止まって感じられた理由も自然と納得できるものでした。九曲巷はまるでヘビのようにくねりながら、迷い込んできた旅行者にからみついて離さない、出口のみえない迷路のように果てしなく続いているようにみえました。そしていままで降りつけていた雨も、いつの間にか止んでいました。

***鹿港さんぽ***

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鹿港北上日記

2012/8/18 鹿港
 
 切符に印字された数字の席に座るとキュルルゥともうしわけなさそうな音をたてて窓の向こうのホームが次第に次第にそしてゆっくりと動きだしていった。その土地の観光ルートやおススメの店などをかき集めた「鹿港の歩き方」とでもいうような印刷紙を、クリアファイルの上から眺めていると、友人の残念そうな落ち込んだような顔が、笑えるとも哀しいともつかないマスコットキャラクタの顔の輪郭に重なっては消えていくのであった。

 今日の朝、思いがけなくして起こった社会的な事情から、友人は鹿港への観光を断念せざるを得なくなってしまった。鹿港を案内するはずであった自分が行くことができない、ということが何かとんでもない過ちであるとでもいうかのように、その日は朝早くからホテルやって来て、僕をピックアップするや否やバイクで国道をすっ飛ばし、駅の窓口で彰化行き大人一枚分の切符を僕がまねできないくらいの流暢な言葉でテキパキ取ってくれた。
 
 僕が乗る列車は始発らしく、たくさんあるホームのうちのひとつで扉をあけて待っていた。友人は、指定された座席のところまで僕を連れてくると、インターネットから印刷してきた鹿港の観光地や美味しいお店のホームページに、鹿港の地図を添えて、ハイよと言って持たせてくれた。もし自分がいたら絶対に案内したかった鹿港の醍醐味を一生懸命な想いで凝縮しました、そんな熱い気持ちが込められているみたいだった。いっしょに渡されたタイワン朝飯も、まだまだ熱かった。

 ここまでくると、逆にこっちがもうしわけないような、やるせないような、ありがたいような、せつないような、なんだかよくわからない気持ちになってきて、いつもがいつもそうわけじゃないんだけれど、台湾にいると僕はやっぱりこうしていつもの心地よい幻想的錯乱状態に陥ってしまうのであった。

 その日は友人が運転する車に頼りきっていただけに、列車バス乗り継ぎの旅、というのがとてつもなく心細く心配なことに思えたはずだったんだけれど、これから始まる何が起こるかわからない旅、というものがそれ以上に僕の野生本能を揺さぶって、ワクワクした冒険心が胸の奥からむくむくとふくらんでくるのであった。
 
 莒光号は台湾でいうところの急行列車にあたる。その莒光号に乗って、まずは南部の高雄から中部の彰化まで3時間と20分の移動であった。その挑発的な移動時間にココロ折れそうになりながらも、鹿港を予習する時間、寝る時間、ぼんやり窓を眺める時間と、大まかな時間割をつくって、まずはこれから行く鹿港がどんなところなのか、スマートフォンのGoogleで検索してみた。

 

そのむかし、台湾には「一府」、「二鹿」、「三艦舺」という三つのりっぱな港がありました。そのなかの「二鹿」鹿港と言います。台湾の中部に位置して、多くの文化人を輩出してきました。今でも多くの文化遺産が保存されていて、歴史のある古い都です。



 1時間もしないうちに列車は台南という駅で停まった。降りる人と、乗る人が、同じ数ずつ入れ替わった。実はここでもうひとりの友人と合流して、いっしょに鹿港を観光することになっている。そんな気の利いた手はずを、今日来られなくなってしまった友人が、僕のために整備してくれていたのである。

 もしかしたらこの車両に乗ってくるかもしれない。この車両に乗ってきたらいいな。隣の席が空いているんだから隣に来てくれるといいなあ。半立ち状態で先頭と後方のドアを交互に見張っていたけれど、車両のなかに友人の姿を見つけることはできなかった。

 列車は1分も遅れることなく到着時刻の11時40分ぴったりに彰化駅に停まった。

 ホームに降りるとばったり友人と会った。友人の屈託のない笑顔から、僕たちははじめから同じ車両に乗っていたことに、このときにはじめて気がつくのであった。駅の構内は人でごった返していて、人々は、とつぜん降りはじめた雨に、しばらく避難しているようだった。

 僕と友人は雨から逃げるようにバス乗り場までいっきに走った。発車時刻を調べて鹿港行きの乗車券を買った。53元はたぶん150円くらいである。

 バスの中で、友人は近くのおじさんに下車する場所を聞いていた。台湾人でも道がわからなければ人に聞くんだなあ、などとヘンなことに感心していると、バスは友人が押すブザーの音で停車した。降りたすぐ近くに案内板が立っていて、茶色の板に白の文字の観光場所を、矢印の先にいくつも示していた。


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台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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