台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

断崖!断崖!また断崖!!

 ポジティブでアグレッシブなチョウさんはそのほそい体で崇徳隊道からつづくけもの道をひょいひょいと登っていった。

 草と小枝がからみあう藪の向こうからはいつ蛇が飛びでてきてもおかしくなかったし、ながいあいだ人びとが歩いてこなかったことはその荒れ方からしてあきらかだった。

 そのためか、かろうじて一人がやっと通れる狭い道は、蜘蛛の巣がいたるところに張りめぐらされて、それがいつも顔や首にペタペタとひっかかった。

 このままいったらいつか蜘蛛の巣ニンゲンになるんじゃないかと心のどこかでメランコリーになっていると、チョウさんも同じことを心配していたのか、ちかくにころがる棒切れを拾いあげて、そいつをボキボキへし折り、ほどほどのながさにして、顔の前方あたりでぶんぶん振りまわし振りまわして歩みを再開した。

 それにしても暑い!暑いったらない!けもの道には湿気と熱気がとぐろのように渦まいているようでとにかく暑かった。メガネは汗でずるずると落ちるし、そのうえ暑さでもうろくした頭で歩いていれば、いつか足を滑らせ底までころげ落ちてしまうかもしれなかった。首にかけたタオルはひとしぼりするだけで、ペットボトルがいっぱいになるんじゃないかというほど、僕の汗をやたらめったに吸収していた。

 藪をぬけると石が階段状に積みあげられた場所があらわれて、その石段を登っていくと、石と岩ばかりがゴロゴロころがる無機質なひろい傾斜地にでた。草は数えるほどしかなく、木々ははるか先のほうまで生えていなかった。

 傾斜はとちゅう幅1メートルくらいの歩道にいったん分断されて、下方の海岸に向けてその勾配をさらにきつくしてくだっていた。

 風は今までとうってかわってよく通り、額や首の汗水を小気味よく乾かしはじめた。

 僕がちょっと立ち止まってひと息いれているあいだに、チョウさんはずんずん歩いていった。僕はあっというまに取り残された形になった。僕のいる場所からはチョウさんの姿がどんどん小さくなって、豆粒のようになってしまうのがみえた。

 チョウさんを追って足元の石ころに力をこめて急ぎ足で歩いていくと、ふいに斜面が尽きて、午後の陽のなかにおそろしいほどの蒼さでひろがる海がみえた。そして海面につかるように、切り立った崖が、自然のつくりだした巨大な要塞のように黒色の層と白みがかった色の層を交互にしてどこまでもつづいていた。そこが石硿仔古道からみた清水断崖だった。

 崖が急角度で落ちるこのあたりの海は深く、岸からすぐ近くで深海になっているため、マンボウがたくさん捕れるんだということをなにかの本で読んだことがある。深海に住むマンボウはその巨体に似合わぬ弱い魚で、さわれば手形が残り、おどろいて壁などにぶつかればたちどころに死んでしまう。そんなひ弱でおくびょうなマンボウが、こんな険しくも厳しい難所で、のんきな顔とあの小さな両ヒレで今日もピヨピヨと泳いでいる姿を想うと、なんだかおかしかった。

 頭上にはいつの間にか雲があつまって、ぱらぱらと雨が落ちてきた。岩と石だらけの開けっぴろげな斜面には身を隠すものなどまったくない。僕たちは岩場を降り、もと来た道を引き返した。

 海岸に隣接する広場につながる坂道をくだっていく途中で、チョウさんは僕の異変に気がついてしまった。この数日のあいだ、蚊やヌカカたちに喰われつづけてきた僕の両足はいたるところに赤い円形状のふくらみができて、そのちょうど中心の刺されたあたりは黄色い体液がにじみ、外気にふれていくつもかさぶた状に凝固しはじめていた。

 チョウさんは、水で洗えばよくなると言って、浜の近くにあった水場で足を清めることをすすめた。僕はズボンの裾を股までたくしあげると、蛇口をひねり、びしゃびしゃと水道水を足にかけた。水は思いのほかひんやりとして、かさぶたもかゆみもいっしょに流れて落ちていく気がした。そして、それまでのむくんでほてった感じもスーッと引いていくようだった。

 浜では黄色いラインがはいったトカゲがたくさんいた。このトカゲはどこかでみたことがあった。それはいつの日か墾丁の海岸でみたのと同じ種類のトカゲだった。そんなことを、とおい花蓮の断崖で思いだしたりしていた。

***石硿仔古道から清水断崖をみた***


断崖!断崖!また断崖!!




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崖下のへび

 午前中に太魯閣長春祠を散歩してからその足で清水斷崖に向かった。

 清水斷崖というのは、聞くところによると清水山という標高およそ2,400メートルの山のてっぺんから、4,000メートルほど進んだところでストンと海に落っこちる、いわゆる断崖絶壁のことをいうそうだ。

 数字だけみてもあまりピンとこないがこれは結構すごいことらしい。というのも、中学校のときに社会科の地理の教科書でノルウェーのフィヨルドというのがあったけど、そんな有名どころでもせいぜい1,000メートルあるかないかの高さというから、どうもこれはほうってはおけないということになった。

 チョウさんの運転するバイクは、今日もとばし過ぎずのゆっくり過ぎずのポポアな感じだった。あっ、ポポアは台湾語で「まあまあ」って意味ですね。

 台湾東の宜蘭花蓮を南北につなぐ蘇花公路という国道をひたすら走った。道路はクネクネと曲がりくねりながらつづいて、大型トラックやダンプカー、それにたくさんの観光客を乗せたバスが、排気ガスをぶんぶん吹きちらしながら隊列を団子にしたり離したりして、日本の原付とさしてかわらない僕ら二人乗りのバイクといっしょに、おたがいに伸縮をくりかえしながら進んでいった。

 長春祠を発って30分くらいそうした風景がつづいていたんだけど、やがてトンネルを抜けでるときがあって、視界にふたたび白い光がもどってきた。それと同時に、左方面には黒々とした鋭い崖が、右方面には陽光をいっぱい浴びた水色の海があらわれた。

 海は崖の下にあって、いま走っている道路こそ水平を保っていたものの、崖は左上の山から右下の海岸まで、そのままの傾斜でいっきに切れ落ちる絶え間ない連続だった。海岸では激しい波が岩にぶつかり、白い泡となって砕けているのがみえた。

 バイクを降りたらひさしぶりの地面の固定感にホッとしてかるく伸びをした。ちかくには清水斷崖とかかれた案内石があった。ついでに太魯閣國家公園も併記されて、これも太魯閣の一つであるんだなとこのときはじめてわかった。

 ちょっと気になったのでスマホで現在地を調べてみたら電車でも来れることがわかった。最寄りは崇徳駅で各駅停車しか停まらないんだそうだ。さらに駅を降りて蘇花公路を歩いくとあったので、僕はとっさに大型トラックやダンプカーや観光バスがひっきりなしにビュンビュン走るあの国道を思いかえした。

 これは小心に小心を重ねたうえでココロして挑まないと、ちょっとした油断の欠落でいったい自分の身にどんな災難がふりかかって来るかわからないぞ。あっ、ちなみに小心は「気を付けろ」のことですな。

 チョウさんは「あんたね、ここはまだほんとうの清水斷崖じゃあないんだよ。実はこの先に取っておきのところがあるんだからね」と言った。「えっ!?ここが清水斷崖じゃあないっていうんかい?はい、そうかい、わかりました。でも僕にとってはこれでもう十分すぎるほど断崖絶壁じゃないのかよ。するってえとあれかい?オソロシイにもほどがあるじゃあないか!」僕はチビりそうになった。

 チョウさんは無言のまま、崇徳隊道の崩れかけたトンネルの脇にある石ころだらけの未舗装のけもの道へ歩いていった。そして赤いDANGERの文字との絵がはいった立入禁止の札がついたロープを何もなかったようにひょいと飛びこえて、藪に包囲された傾斜をぐんぐん登っていってしまった。チョウさんはうしろを振りかえることはなかった。僕はただもうだまってチョウさんのあとについていくしかなかった。

***清水断崖へ***


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佐倉歩道の白い牙

 チョウさんの運転するバイクは松園別館をはなれていつしか佐倉街にはいっていた。後部座席の絶え間ない風の直撃にしばたたきを繰り返す両眼のすきまから、日本の田舎とさしてかわりのない民家の風景が、道の脇にいくつも後退していくのが見えていた。

 その連続したうつりかわりのなかで、放し飼いにされた一匹の小型犬が、数軒先の道の真ん中に犬座りしている姿があった。

 バイクがその手前にさしかかるかしないかのどこか境界付近で、それまでおとなしく座っていると思われた小型犬が、いままで獲物でも待ちかまえていたかのように、突然、ものすごい剣幕で吠えはじめた。

 その眼は血走り、耳は尖り、鼻面はひきつり、しまる歯茎のうえは鋭利な牙がむきだされ、喉の奥からウォンウォンとドスの効いた低音をとどろかせる、ただ怒り狂うだけの獰猛な獣のかたまりに豹変した。
 
 こんな小さな体のいったいどこにこんな力が潜んでいたのか、まるで上半身が裂けた口そのものといったような、凶暴性と残忍性とを兼ね備えた暴虐の怪物だった。

 はたしてバイクの走る速度に勝てると思っているのか、その小さな怪物には、どこまでも追いかけてくる意志と執念があった。バイクに追いつき追いこすことにまったくの自信と余裕とをもっていた。そしてすきさえあれば飛びかかりその力のこもった大きな口で押さえつけたい欲望があった。バイクの速度がすこしでも落ちることがあるとするならば、それは確実にかみ殺されることを意味した。

 逃げつづければ逃げつづけるほど、あちらこちらの民家の傍らからよだれを垂れながす仲間たちがわらわらと加わり、その数は絶望的なまでに不気味な増殖を繰り返していった。

 チョウさんはハンドル下にある前輪ポケットから「これをこれを」と折りたたみ傘をだした。私は素早く受け取り、アルミの柄をひきぬき、ほどよい長さにすると、並走する先頭の犬の背中めがけて振り落とした。もはや武器となった傘であったが、その先端はあっけなくかわされ、その一撃は空振りにおわった。しかしどうしたことか、犬はキャヒヒ~ンと急に弱い声でひと鳴きすると追いかける速度をゆるめた。打たれたら痛い、ということをまるでわかっているかのように。それから、犬の集団はつぎつぎにバイクからはなれていった。

 私は極度の恐怖を感じたとともに本能のたくましさを感じた。それはある意味野生が持つ力強さと美しさの両立ともいえるものだった。

 以前に台湾の友人に飼い犬は野良犬よりも凶暴だから気をつけろと聞いたことがある。飼い犬は主をまもるために飼いならされ、ときには攻撃もためらわない。その日その日を呑気に生きる野良犬よりも好戦的になる場合がある、ということだった。

 佐倉歩道の入口に着くと偶然にもチョウさんの友人がいた。その友人のバイクに隠れるように、一匹のぶち犬が舌をだしてこきざみに呼吸していた。それからゴムマリがはずむみたいにバイクのステップに昇ったり降りたり嬉しそうに繰り返した。

 佐倉歩道花蓮駅から北へ数キロのところにあるハイキングコースである。片道4キロほどのやや勾配のきいた林道で、てっぺんに行けば花蓮の海岸から市街地までが一望できるといわれている。

 頭上にはカシやクヌギに似た大木がそびえ、その間を雑木が埋め、ツタやツルが張りめぐらされていた。木の幹にはカナブンや名も知れぬ虫がくっつき、草むらには蝶が飛びかっていた。

 林道はむせるほどの暑さであった。しばらく進むと木の枝がばさばさと揺らされる音がして、すぐあとにキィーという動物の鳴き声がした。見上げるとこちらに鋭い視線を投げつけるものがあった。猿だ。どうやら私たちは歓迎されている様子でないようだ。ザックにしまった折りたたみ傘の突起の感触を右手に確かめると、私はふたたび戦闘態勢に移行した。

***花蓮の佐倉歩道***



佐倉歩道の白い牙




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  1. 花蓮
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むくむぎバレーは緑なりき

  ひょんなことから宜蘭のホテルで台中出身の兄ちゃんと友だちになって、その兄ちゃんから近所のお店で働いている宜蘭の友だちを紹介してもらって、さらにその宜蘭の友だちから紹介してもらったのが花蓮のチョウさんだった。

 宜蘭のあとに花蓮に行こうということはうすうす計画していたものの、花蓮に行ってから何をするのかまではまったく予定をしてなかったのであるが、僕の知らないところで偶発的突発的な人間関係の複雑な要因がからみにからみあって、当初無目的であった僕の旅はにわかにも急速な展開を見せはじめていたのであった。
 
 チョウさんのバイクの後部席にまたがって花蓮市内から慕谷慕魚(Mukumugi Valley)にやって来た。実は昨日、僕たちは山の入口にある派出所、いわゆる管理所のようなところで300人以下という入山制限の枠組みからあっさり外れてしまって、今日はそのリベンジの日となった。昨日と同じ派出所で、入山許可書に必要事項を記入して提出する。僕は外国人だからパスポートも添えて入山許可を待った。午前7時前であった。
 
 近くにひとり困っていそうな男がいた。チョウさんは彼に近づいて話しかけると彼の顔はみるみると安心したような顔になった。チョウさんは花蓮のいたるところに散在する自然地帯を知り尽くした大ベテランだった。彼女のFacebookでは、アウトドアな仲間たちと岩山での登山や滝の下でのダイビングなどといった数々のアグレッシブな写真を見ることができた。彼女いわくそのすべてはここ花蓮で体験したものである、ということだった。すっかり安心しきった彼の名前はファンニンと言った。会社を休んでマレーシアから遊びに来たと言う。僕はふたたびチョウさんのバイクにまたがり、三人と二台のバイクは川の上流に向かって走り出した。

 慕谷慕魚は馨憶精緻民宿のおじさんから聞いていたとおり、ほとんど観光地化が進められていない様子だった。太魯閣渓谷のように大型バスの排気ガスや観光客の喧騒というものがほとんどというかまったく存在しない。あきれるくらいに自然をむきだしにしたところだった。

 奥地に進むにつれ、見下ろす川の色が次第に青色にかわってきた。どちらかと言えばターコイズブルーのような青さで、それはまるで自然が作ったプールのようだった。それだけ透明度が高いということなんだろう。赤色の鉄橋を通り過ぎ、しばらく進んでから路肩のように少し広がりのある場所で僕たちはバイクを停めた。

 小雨に湿った岩に何度も足を滑らせそうになりながら川岸に下りた。僕は大理石の岩の上に座り、靴と靴下を脱いでからその足を水に浸した。キュッとつめたい感覚が伝わり、足の先に気持ちのいい流れを感じた。水の中には石と同じ色をした魚が何匹も群れになって泳いでいる。頭からしっぽにはしる黒色のストライプが遠くからくっきり見えた。岩の上に吹く風が新鮮な冷たい空気を運んで、チョウさんもファンニンも僕も、真夏であることをすっかり忘れた。

 途中で車一台がやっと通れるくらいの細い道がいくつもあった。車どうしすれ違いざまに運転席から顔を出しているおっさんなどをよく見かけた。お互いに声を張り上げながら譲り合っている。台湾ではこうした緊張するシーンに出くわしても、お互いに気を使わなくてもいいというようなゆるやかな空気が全体に流れている感じがあっていい。

 お昼近くに休憩所のようなところが見えたので、僕たちはしばらく休んでいくことにした。雨にぬれてところどころ変色した木の看板には烤小米麻糬山豬肉香腸があったので、それぞれ三本ずつ注文した。烤小米麻糬は、きな粉をまぶした餅に串をさしたもので、噛んだら中から少し甘くてとろりとしたミルクがとけだした。新感覚の意外な組み合わせだったがこれがなかなかいける味だった。山豬肉香腸はその名前のとおり猪肉のソーセージであったが、僕は見事にビールが飲みたくなった。ほとんど野外のような造りの店内からは、風鈴の音と、雨露に濡れてざわめく山々の音が聞こえた。
***花蓮の渓谷で***


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青い海の再訪記

 2013/7/15 花蓮

 花蓮で知り合ったばかりの姉ちゃんが、僕に、自分が運転するバイクの後ろのシートに乗るよう言っている。僕の知っている限りの、バイク二人乗りの図というのは、両腕をわっかにして運転手の胴体に抱きつく体勢というイメージがある。身体に密着するような姿勢を、僕が、この姉ちゃんに対して行ってもいいのだろうか。。。

 そういえば!と、ここで僕はちょっと変なことを思い出した。台湾人は日本人男性に対してスケベという強烈な印象を持っているという。何かの本で読んだことがあった。

 そんな懸念もあったので、僕はどうしたもんかとその場でモジモジしていたんだけれど、乗れと言われて乗らないわけにもいかないので、スケベだと思われないように気をつけながら、姉ちゃんからなるべく離れるようにして、シート後ろのスレスレの位置に、尻を突き出すような格好でまたがった。

 ここで姉ちゃんの身体にガッツリとしがみきでもしたら、やっぱり日本人男スケベ説は本当のことだった、なんてことになってしまうんだろうか。置き場のない両手をぶら下げていろんなことを想像していると、尻の後ろの方でなにやら金属質のような感触があった。振り返ると荷物を括り付けるリアキャリアだった。

 もしかしたら、この金属の出っ張りに手のひらを固定しておけば、少なくともバイクから振り落とされるリスクは減るだろうし、何よりも手のあやしい動きも封じられるので、日本人男スケベ説は発現することなしに済ませられるかもしれない。ホッと胸を撫で下ろしたところで、バイクはビーといって加速した。

 バイクは無慈悲にも加速、減速、右折、左折を繰り返し、そのたびに、僕の上半身はおきあがりこぼしのようにゆらんゆらんと上下左右に運動した。それでもニンゲンの適応力というのはおそろしいもので、暴れバイクの気まぐれ重力移動に体がバランスを失うと、両手のひら一点にからだ中の全ての意識が集約されて、尻をうまいぐあいに座席と一体化させるテクニックが身についてくる。最後のほうになると、手のひらに込めるべき力の量を、1から5までの5段階に無意識のうちに調整できるようになっていて、握力の無駄な消費を抑えてエコで快適なドライブができるまでに至った。

 大きな交差点で信号待ちをしながら、熱くなった手のひらを休憩させていると、頭のすぐ上を戦闘機が通り過ぎて、ごうごうという音といっしょに気持ちのいい大風を吹きつけていった。花蓮の街を風を切って駆け巡るという体験は、普段の生活ではなかなか味わえないものがあった。新鮮わくわくするような、そしてどこか懐かしい空気を、僕はからだいっぱいに受けとめていた。

 バイクは美崙工業団地を走り抜け、花蓮師範学院を通り過ぎた。車の数が少なくなるにつれて、空はだんだんと大きく見えるようになってきた。大きな石造りの案内板には七星潭風景區と書かれている。海岸は遠くから緩やかなカーブを描いて、湾には青い青い海が広がった。海も青かったけど、それ以上に空が青かった。

 同じ場所は昨年にも訪れている。その日はくもりだったので空は今日みたいに青くなかった。それでも海は青かった。民宿から自転車を借りてひとりで走り出した。南濱公園を抜けて、花蓮港の風に涼み、建設現場みたいなところで迷子になった。寄り道ばかりしていたので花蓮の中心街から七星潭に到着するまで1時間以上かかったと思う。途中に日本時代のものと思われる神社の鳥居があって、そこで日本語を話すおじいさんに会った。おじいさんは今も元気でいるだろうか。

 目の前いっぱいに広がる青い海に、だんだんと夕暮れの顔が近づいていた。既に肉粽(にくちまき)の消化を終えた僕の胃袋にも、腹ペコの時間が近づいていた。


青い空と青い海



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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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