台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

道を渡るのもタタカイだ

2011/9/25 高雄

 道路を渡るのがコワい。べつに高速道路のど真ん中を何かの罰ゲームで渡ろうというんじゃない。どこの街にもあるごくごく日常的な横断歩道の、横じま白ペンキのうえを信号機が青になってスタコラ歩こうというだけのはなしである。

 原付をちょっと大型にしたようなバイクがいつでもウンウンと唸っていて、すぐにでも最高速度でかっ飛ばせる準備で満タンだ。車だって、いつ横断歩道を曲がってくるか分からない。気が付いたら数十センチ目の前を横切っていたりする。彼らは、僕ら弱小ニンゲンが横断歩道を渡り終わるのなんて待ってくれないのである。

 やっかいなのは見えない方向から走りこんで来るバイクと車だ。真後ろとか斜め後ろとか、交差点の死角になったところからヌッと現れる。目ん玉は顔の前にしかついていないから困ったもんだ。いつどこから攻撃をしかけてくるのか分からない。見えない恐怖におびえて、いつも道路の真ん中でチビっているから、もう替えのパンツはない。

 そんなとき、たいてい救世主が現れる。とめどなくあふれるバイクと車の洪水のなか、ひとり歩道の隅っこで戦慄していると、どこからともなくやって来て、事が済むと何もなかったかのように去っていく。彼ら、彼女らはゲンチジンと呼ばれていて、その土地の交通事情に関してたいへんに詳しい知識を持っている種族なんだそうだ。

 ゲンチジンは、ランダムに動き回るカオス理論のような凶暴キカイ装置の行動をすべて予測していて、ときには攻撃的な前進をしかけたり、またあるときは保守的に回避しながら、可憐な身のこなしで渡り歩いていく。それはまるで相手の心理を熟知しているような振る舞いである。僕はというと、ゲンチジンの背後にピッタリと身体を張り付けていて、彼ら、彼女らが立ち止まれば立ち止まり、歩き出せば歩き出すという、純情なコピーロボットに変身する。

 だから僕は、横断歩道を渡るときはいつも、自分と同じ方向に歩き出しそうなゲンチジンを探している。信号機が青になるのをただ見て待っているよりも、いっしょに歩いてくれるゲンチジンを探すことのほうがより重要性が高いんである。信号機よりもゲンチジンのほうがはるかに信用できるため、安全確実に道を渡ることができるのである。

 それでも学生くらいの頃は、東南アジアのルール無視車ビュンスカ道路でも怖がることなく平然と歩いていたんだっけなあ。どういうわけか年を食ってちょっと保身的になってしまったようで、なんだか寂しい。なんだかんだ言ってみても歩行者優先じゃないのことのほうが世の標準なんだから、歩行者優先の日本ローカル文化は外国では忘れたほうが身のためなんだよなあ。

 ようやく凶暴キカイ装置の魔の手から脱出して、今は駅の裏のレストランにいる。漢字の画数を倍くらいにしたような繁体字から料理の絵を想像して注文したら、予想どおり想像したものと違う料理がでてきたので、やっぱり予想は間違っていなかった。

 横を見て食っていたものを吹き出しそうになった。みんな店の冷蔵庫にある飲み物を勝手に出して勝手に飲んでいる。たぶんみんなお店の友達か知り合いかなんかだろうと勝手に解釈して納得したんだけど、実は台湾ではセルフサービスの一環として各自で飲み物をテーブルに運ぶという習慣はよくあることだった。

 高雄は今回が初めての旅行となったので、いろいろなトラブルに見舞われたけど、まあなんとか友人に会うことができたし、思い出に残る楽しい一日を過ごすことができたと思う。バイクの後部座席で風をきって駆けめぐった夜の高雄は、夏ということもあって、エキサイティングでそれはそれで印象的な風情があった。

 それにしても軽い朝食のつもりで注文した料理は、どう考えてもヘビーだった。前の晩も夜市で食い倒れていたので、胃の中はいつになってもキレイにならない気がしている。こうなったら胃に食い物をできるだけ詰め込んでおいて、日本に帰ってからときどき反芻してみれば、しばらくは台湾気分が味わえるのではないか、なんてアホなことを考えたりしていた。


道を渡るのもタタカイだ



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おもてなし夜市ホロリ紀行

2012/1/7 基隆

 友人の家はバスを降りてすぐのところにあった。歩道に面した1階は美容室として整理されている。サンダルのようなスリッパを渡されて2階に続く階段を上った。建物はその外観から想像するよりもはるかに奥行きがある。タイルの床はひんやりとした質感があって、暑い日に裸足で歩けばさぞかし気持ちがいいんだろう。でも部屋の中で着るダウンジャケットとの組み合わせがちょっと微妙だ。台湾は温暖とはいえ1月は寒いのである。暖房設備のない台湾では冬は家の中で上着をはおるのが一般的だ。

 私のジーンズは一日降り続いた雨でずっしりと重く湿っていた。それに気が付いた友人は、私にスウェットパンツを穿くように勧めてくれた。私はもともと長居するつもりはなかったので、これくらい大丈夫だとお断りした。それでも風邪を引くからと言って聞かない。乾燥機が回転しているあいだ、私は友人の弟さんの、太ももが妙にフィットするスウェットパンツで過ごすことになった。

 案内されたテーブルの上には青野菜の炒め物や、大根の入った卵焼き、表面をカリカリに揚げた、薬膳のスープなどが、色とりどりに並んでいる。こと台湾に関しては、屋台やお店の料理しか目にする機会のない自分にとって、肩を張らない家庭料理の自然な組み合わせは、ずいぶんとあたたかいものに思えた。私は友人の家族と円になって座った。家族にとって私は突然の訪問者である。さらに友人と会うのも今日が初めてである。ほとんど見ず知らずの相手と言ってもいいくらいの関係で、ここまでのおもてなしを受けてしまってよいものなのか。そんなことを考えながら、でも家族そろって食事をするのはいいもんだなあと、なんだか懐かしい気分になった。

 食事が終わると、友人は夜市に連れて行くと言った。私を夜市を案内したいという好意からだった。近くのバス停に行き、友人の母親に見送られながら、基隆廟口夜市に向かった。

 雨が降る路上には屋台がひしめき、露天には多く人であふれていた。傘どうしがぶつかるたびに背中に冷たい水が流れた。道の途中でグァバという果物を食べた。うすい緑色の切り身を竹串に刺して酸梅粉という砂糖をつける。ゴリゴリした食感で、梅の甘酸っぱい風味と混じって果汁が口の中に広がる。それほどフルーツ然という感じはしないものの、噛むほどに妙な魅力があり、次々と口に入った。

 通りに揚げ物を売る屋台があった。素材を選んでその場で揚げてもらう方式である。友人の説明を聞きながら、私はたくさんあるうちのいくつかを選んだ。まだ湯気たちのぼる熱い袋を持ったまま、三兄弟というお店に入った。カウンター上のボードには豆花と書いてある。友人は揚げ物の紙袋を破いてテーブルに広げた。外から持ち込んだ食べ物を、店の中で食べてよいのものなのだろうか。店員はその様子を知ってか知らずか、注文を聞き終わると何も言わずに調理場のほうに行ってしまった。非常に寛容である。

 今までいっしょにいたはずの友人の妹さんが見えない。家族へのお土産でも買いに行っているのだろうか。よそのお店で買ってきた揚げ物を食べながら、これほど豊富な種類の揚げ物が日本でも気軽に買うことができたら、どれだけ楽しいだろうかと考えた。居酒屋文化が発達した日本であれば、今ごろはきっと、ヤキトリと並ぶツマミとして最高峰に君臨しているに違いない。私は友人の家で夕飯をご馳走になったことを忘れて、また食べた。

 ようやくして妹さんは戻ってきた。手には大きな袋を持っている。三人揃ったところで豆花が運ばれてきた。タピオカがぷかぷかと浮かんで、その他に小豆などが入っている。白いものは豆腐だった。ふだん醤油とネギと鰹節で食べている豆腐が、甘い汁のなかを泳いでいる。豆花について、この頃の私は「甘くて奇妙な豆腐」といった程度の印象でしかなかったが、台湾旅行を重ねていくにつれて、最初の印象が次第に誘惑の炎となり、私の心を虜にする狂気のスイーツに変貌するのであった。

 友人は私を駅まで送ると言った。基隆駅までは歩いていける距離だからと、傘を広げて三人で歩いた。夜市の電灯が、雨に濡れたいろんなものに跳ね返って、周りの景色がきらきらと輝いて見えた。

 駅構内の電子掲示板には30分後の台北行き電車が表示されている。三人は改札前の待合のベンチに腰掛けた。夜も遅いこともあって、二人には家に帰るように言った。それでも電車が来るまで待っているという。待っている間に、勉強のことや、将来の夢になどについて語り合った。姉妹はそろって大学生である。二人とも進路を決める大切な時期にさしかかっている。そんなとき、目の前でおじさんがひっくり返って頭の帽子が転げた。二人はすぐに飛んでいっておじさんの身体を起こして帽子をかぶせた。おじさんは大丈夫だった。フラフラした足取りであったため、おそらく酒に酔っていたんだろう。

 電車は発車時刻の10分前になるとホームに入ってきた。乗客が一通り降車すると改札前は再び静かになった。発車までに時間はあったが、私はすぐに乗ることを選んだ。そのとき、妹さんはそれまで自分の手に持ち続けていた袋を私の手に渡した。悠遊カードで改札内に入ると、私は振り返り手を振った。改札の向こうに立つ二人は、私が電車の中に消えるまで見送っていた。

 袋のなかの包み紙にはパイナップルの絵が描かれている。台湾名菓パイナップルケーキだった。一日の出来事を思い出したら頭がいっぱいになった。初めて出会ってから、友人からいろいろなものをいただいてしまった。ヒトがもたらす感動というものなんだろうか。言葉で言い表すことのできない、得体の知れない何かが、じわじわと胸を締め付けた。走り出す電車のなかで、泣きたくなる気持ちを抑えることができなかった。


人情城市2



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貸切タクシー日月澤へ行く

2014/1/2 日月潭

 ひとり台中駅のバス停のベンチに座っていると、どこからかオジサンがやって来て、どこ行くのかと聞いてくる。日月澤(にちげつたん)だと言ってやったら、俺の車に乗って行けとやけに高い金額をふっかけてきた。オジサンはタクシーの運ちゃんらしい。ちょっとあやしそうだなあと思った僕は、言葉が分からないふりをして、どうにかその場を振り切ったんだけど、しばらくすると今度は学生と思しき二人の若者を連れてやって来た。運ちゃんは三人で乗ればひとり1000元でいいよとさっきの半額以下の金額を提示してきたので、僕よりも年下の大学生が乗ることだし、社会人の男がお金をけちって乗らないのもカッコ悪いと思って、一緒に乗って行くことに決めたんだ。

 運ちゃんはさらに、日月澤のいろんなスポットに車を停めながら、やがては湖を一周して、夕方には僕たちみんなを台中駅に届けてくれるとまで加えた。バスを降りてからその後どうやって移動したらいいのか全くもって無頓着でいた僕にとっては非常にラクだと思えたし、台湾人二人がいっしょに乗ってくれることがとても心強く、何よりもひとりで行くより楽しい旅になるかもしれないといったワクワクするような冒険心があった。

 大学生は後ろの座席に乗り込んで、僕は助手席に座った。1月とはいえ台中のあたたかな快晴の空のもと、僕たちの貸切タクシーは元気よく出発した。大学生は一人はの人で、もう一人はの人だった。運ちゃんと大学生はなんだかいろいろと世間話をしているみたいだったけれど、僕には何を話しているのかさっぱり分からなかったので、自分は分からないなりにガイドブックを開いてこれから行きそうな場所について検討をつけたりしていた。その様子を見た運ちゃんが僕に日本人かと聞くので、日本人だと答えたら、後ろの大学生が興味深そうに僕のガイドブックを覗き込んだ。どこにでもある地球の歩き方台湾編(2012~2013)である。大学生は片言日本語で、僕がいつ台湾に来たかとか、どこを観光してきたかとか、いま何歳とか、いろいろな質問をしてくる。僕は知っている限りの台湾語で適当な答えを返していたんだけど、いつの間にか車内は笑い声であふれて、初めて会うもの同士のどこか遠慮するような緊張するような空気なんていうのは、もうどこ吹く風の有り様だった。

 タクシーは、高速を飛ばし、くねくねの坂道を登り、緑いっぱいの山を越えて、あっという間に日月澤に到着した。雲ひとつない空はどこまでも高くて、湖は遠くまで青く広がっている。タクシーから降りると、1時間したらに迎えに来るからと、運ちゃんは船のチケットを三人に渡して、どこかに行ってしまった。船の名前は日月之星。僕は大学生にくっ付いていくように船に乗り込んで、でも二人にはちょっと距離をおいて、ひとり船のデッキで湖面の風を浴びていた。

 船は水社碼頭と向こう岸の玄光寺碼頭との間を何度か往復しているようだった。船内のスピーカーからは

 對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。 

の歌が流れている。對啊は相槌のうんとかそうといった意味である。要するに うん そう を、サビの部分において、ただひたすらに繰り返す歌なのである。すると何を思ったか、それまで船のデッキでガイドしていた兄ちゃんが、持っていたマイクで突然歌い始めたのである。


 ト~ヤ、トヤ♪ ト~ヤ、トヤ~♪ ト~ヤ、トヤ♪ ト~ヤ、トヤッアッア~~~♪


 それを聞いてからというもの、歌のフレーズが耳に焼きついてしまい、對啊の歌は、当分のあいだ僕の頭から離れなくなってしまったんである。

 玄光寺碼頭に着いてから、11時に待ち合わせをしようと約束して、大学生と別れた。初対面の僕に気を使ったんだろうし、僕も二人の楽しいデートを邪魔してはならないと思っていた。玄光寺の周りはそれほど広いというわけでもないらしく、見晴らしのいい場所に上って写真を撮ったり、トイレに寄ったりしていると、ところどころで大学生と顔を合わせた。お互い照れた笑いを交わしながら、そのうちにあえて別々に行動しなくてもいいじゃないかみたいな雰囲気になり、結局はそれぞれが好きな場所を思いのままに行く気兼ねのない自由な散歩になった。

 玄光寺の石段を碼頭の入り口まで降りきると一軒古びたお店があった。大学生の兄ちゃんが、これを食べるといいよと指差すものがある。大がまの中では、ひび割れた茶色い卵が、ぐつぐつと煮えたぎっている。これは香菇茶葉蛋という名前の、南投県で収穫される霊芝(レイシ)というキノコとお茶の葉で煮込んだ卵で、玄光寺碼頭にある阿嬤e古早味香菇茶葉蛋は、昔から続く名店なんだそうだ。僕は20元払って2つを購入した。

 お店の前にちょっとした休憩所があったので、僕たちは木陰のベンチに腰を下ろした。船の時間までの間、台湾語なまりの英語と、日本語なまりの英語で、とりとめのない会話をして過ごした。兄ちゃんは慣れない外国人を前にして、少し恥ずかしそうだった。袋から卵を取り出す。殻はつるりと剥がれて、中から茶色い顔が飛び出した。黄身のまん中までイイ味が染み込んでいる。ビールがあったらなあ、などと昼間からいやしいことを考えていると、船着場の向こうからお迎えの日月之星が飛沫を上げてやって来るのが見えた。


Sun Lake Moon Lake Ⅰ



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熊のマークの豚足店

2012/6/22 屏東

 高雄から墾丁に向かう車の窓にはが途切れることなく続いている。その反対側、右手の窓の向こうはが広がっている。山の上には霧のような雲がいくつにも重なり、海は河から流れ込んだ土砂で茶色く濁っていた。

 ほんの数日前、私たちの台湾行きに合わせるように2つの台風の襲来が予想されていた。インターネットのウェザーニュースは連日のように台風の接近を呼びかけ、facebookの友人のコメントには台湾旅行への懸念の意見が多く寄せられていた。特に南部の、高雄から墾丁にかけては致命的ともいえる進路が描かれ、南東の海から台湾海峡を抜ける台風の動きは、最後まで変わることのないまま、出発日を迎えた。

 幸いにも、今ここにいる。台風は空港に触れることなく、島をかすめるように進むと、そのまま温帯低気圧になった。友人が運転する車には私を含めて四人が乗車している。台湾人の友人が二人、日本人の友人が一人であった。窓の外には台風の足跡が生々しく残っていたが、友人からもらった あたなたちとてもラッキーね のひと言がとてもありがたいものに感じられ、これからの旅を、隅から隅まで感謝の気持ちで過ごそうと、心の中で思っていた。

 国道沿いの熊家萬巒猪脚という食堂で車を停めた。萬巒(ばんらん)というのは屏東県に属する郷の名前で、その名物料理に豚足がある。熊のマークの扉をくぐると甘いような独特な匂いが鼻に入った。あとで調べたら匂いの元は八角という香辛料であることが分かった。八角はもはや台湾の匂いとまで言われるほど、街のあちらこちらで香ばしい匂いを発している。この匂いをかぐと、私はいつでも ただいま という気分で、台湾旅行のはじまりを予感するのである。

 注文はメニュー用紙に鉛筆で記入する方式だった。友人は慣れた手つきで、数多くの品目の中からいくつか選んで、料理名の横の空欄に、サクサクと数字を書き込んでいった。テーブルの真上でプロペラが回転していて、時折、気持ちいい風を吹き付ける。広い店内では食器のぶつかり合う音が響き渡っている。

 しばらくすると切り刻まれた豚足がお皿に山盛りになって運ばれてきた。ニンニクが漬かる醤油ダレに少しだけ浸してから、ぱくりとひと口食べてみる。柔らかなゼラチン質のがぬるりと落ちると、なかからムチムチした肉が歯にあたって、うまみたっぷりの脂がじゅわっとふき出した。煮汁の濃厚な味が肉の中まで染み込んでいながら、しつこくない。どちらかといえばやさしい味付けだ。さらに豚足特有のくさみはまったくというほどない。

 と、と、が、自由に絡み合ってできた世界は、自分は今まさに肉を食べている、というリアルなヨロコビを表現する。八角や、おそらく何十種類もの漢方エキスで煮込んだコラーゲンは、つややかな光を発しながらも、うまみのエネルギーをいっぱいにため込んでいて、それを壊すたびに、ため込んだうまみの塊を惜しげもなく放出してくる。夜であればきっとビールが足りないに違いがないんだろうけれど、今はお昼なので、ご飯がどれだけあっても足りないように思えてきて仕方がなかった。

 たらふく食べたあとトイレに立った。表の通路の日かげで、白いタイワンイヌが眠っていた。近寄っても目を開けない。すやすやと寝息まで立てている。いくらなんでも無防備すぎなんじゃないかと思えるくらい安らかな顔をしている。それを見ていると、なんだかこちらも安心してくるのであった。腹いっぱいになった満足感と充実感で、自分も友人の車で眠ってしまいそうだ。

 店の外に出るとメガネが一気にくもった。台風が運んだ真夏の日差しが、猛烈な熱気で歓迎している。国道から乗り入れた大型の観光バスと入れ違うようにして、車は再び墾丁に向かって走り出した。


熊のマークの豚足店



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鯉魚潭はくもり空

2013/7/17 花蓮

 いつのころからか、食べ物や自然の風景だけでなく、身近にいる小さな生き物なども、写真におさめるようになった。

 その日は慕谷慕魚(Mukumugi Valley)という未だ手つかずの自然で知られる渓谷を観光する予定でいたが、慕谷慕魚は入山できる人数に制限を設けており、私たちはその制限から溢れてしまった。環境保護のためであろうか、1日の入山は午前と午後の2回に分けられ、人数はどちらも300人以下と決められている。さらに身分証明書と合わせて管理局で「入山許可書」を事前に申請しなければならない。私たちは早起きして来たにもかかわらず、他の多くの申し込みで、その日の入山は適わぬものになってしまった。

 仕方がないので、その足で鯉魚潭(Liyu Lake)に向かうことにした。早い朝の空気は新鮮だった。バイクに吹き付ける風はとてもすがすがしく、澄みきった空は見上げれば見上げるほど青く光ってまぶしかった。

 鯉魚潭遊客服務中心という赤い文字が並ぶ石造りの門の前にバイクを停めた。ヘルメットをはずし、おでこにペタリとしなった髪をかき上げると、門を入ってすぐのところに小さな草むらが見える。目を凝らすと草むら全体がチラチラとして、何だかうごめいているようだ。はじめのうちは、目の錯覚か、もしくは草が風になびいているものとばかり思っていたが、どうやらそうではないようだ。

 友人がカメラを取り出して草むらを撮りはじめた。何をしているのだろうと近づいてみると、いくつもの色をしたが、花の前で羽をゆっくりとすぼめたり、唐突に他の花にうつっていったり、ひらひらとして不規則な方向に飛びまわっている。そのひらひらがひらひらを呼んで、どこが植物で、どこが蝶なのか、少し見ただけでは判別がつかないほど一体然として、まるで草むらが一つの大きな生き物のようにまとまっていた。私たちは、鯉魚潭に来た目的を忘れて、蝶が花にとまる瞬間を写真におさめようと、そうっと近づいては、ぐっと息をこらえて、どういうわけか草むらの前で真剣になっていた。

 草むらの向こうにはが広がっていた。目の前は小さな入り江になっていて、突き出た桟橋の両側には、ペンギンやペリカンの頭を真似したボートが、仲良く並んで波の上にぷかぷかと浮かんでいた。
 
 入り江のほとりに屋根つきの休憩所があったので、木の階段を登りベンチから湖畔を眺めた。さっきまで遠くに白く見えているだけだった入道雲が、灰色の腹をうねうねとうねらせて山の近いところにまで迫っている。空の青い部分はみるみるうちに小さくなっていった。空の機嫌を反映してか、青かった水面は濃い緑に落ち込んでいた。

 友人はリュックから水筒を取り出すと、紙コップにお茶を注いだ。朝いれたばかりの、薄くて黄色のいい香りのするお茶だった。台湾バナナをお茶菓子にして、ぼんやりと湖を眺めていた。するとどこから来たのか、黒い子犬が階段を登ってこちらに近づいてきたので、バナナを少しだけ分けてあげた。湖面からときおり風が吹いた。

 鯉魚潭の風景。晴れた日には、背後に広がる山々を、その澄んだ湖面に反射して、きっと綺麗に見えるに違いなかった。すっかり太陽をなくした灰色の空から、雨がぽつりぽつりと降り始めていた。


鯉魚潭は曇り空



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  1. 花蓮
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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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