台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

たそがれ時のかきこみ飯

2013/6/24 嘉義

 七彩噴水池ちかくの50嵐という飲み物屋のまえでひとりタピオカミルクティーを飲んでいる。今日はありがとう、という言葉を残して友だちが買ってくれた。

 ほんの少しまえにY君という友だちと別れた。これからS君とA君という友だちと会うことになっている。台湾では、ぼく以外の友だちはみんな仕事をもっているから、会社を抜けだしてきたY君は仕事にもどり、仕事を終えたS君とA君がやってくる。

 陽はしょんぼりと傾きかけてきて、うす曇の空からのびる明かりが、嘉義の文化路を淡い黄色に照らしはじめていた。

 横断歩道を歩いてくる二人の友だちは、インターネットで見たときと同じ顔をしていたので、ぼくは、はじめてなのにはじめてじゃない気がしたし、ほんものに会ってみると、やっぱりうれしかった。お互いにやあと言った。

 友だちの一人がぼくに腹減ったかと聞いてきて、さっきまで豆花を食べたりお茶を飲んだりしていたから腹はそれほどに減っていないはずだったんだけれど、どうしたものか腹減ったとつい言ってしまったもんだから、じゃあ飯を食おうということになった。

 入ったところは郭家雞肉飯という鶏肉ごはんを食わせてくれるお店だった。まえに嘉義に来たときにも鶏肉飯を食べたことがあって、また今回も鶏肉飯だったから、これはきっと嘉義に来たら鶏肉飯を食べなさいということらしい。

 三人そろって鶏肉飯を注文した。テーブルに置かれた小さなお碗の白いご飯のうえには、ほぐした白い鶏の肉が乗っかっているだけで、なんかカンタンだ。
 
 それでも食べてみてびっくりした。日ごろからびっくりすることなんてそんな滅多にあるもんじゃないんだけれど、食べてびっくりすることなんてもっとないもんだから、これはほんとうにびっくりしたということになる。

 そっけのない見た目とは裏腹に、もっとも鋭い、そして深くて奥ゆきがあるような、控えめに言っても破格な味をしていたからおどろいた。鶏肉はそれ自体からいい匂いをだしている。噛みごたえはあるけどやわらかい。あぶらが入ってもしつこさはなく、塩味もうそをついていない。

 鶏からあふれる肉汁は下の白いご飯にもよくしみこんでいて、ほんのりと甘い。鶏肉が乗っかっていなくても、この汁だけでご飯が5杯は食えそうだ。

 あとから聞いて知ったことだけど、嘉義の鶏肉飯は、ニワトリの肉ではなく七面鳥の肉を使っているんだそうだ。だからというつもりはないんだけど、三人ともペロリと食べてしまった。いちばん早くお碗を空けたのは間違いなくぼくだった。やっぱり、ちゃんと食べるのであれば5杯は食べる、というのが普通なんだろうなあ、ということがこのときようやく分かったような気がする。

 鶏肉飯はひとつ40元(120円くらい)だと思っていたけれど、友だちがいつの間にかぼくの分まで払ってしまっていたから、ほんとうの値段は忘れてしまいました。

 店を出てから友だちは家にバイクを取りに行くと言った。バイクに乗っていっしょに嘉義の街を走ろうというのである。もちろんぼくは後部座席に乗せてもらうんだ。

 人波にかき消されていく二人の友だちの後ろ姿を見送りながら、街灯に照らされて光る七彩噴水池の水のしぶきが、絶え間なく噴き出している音が聞こえていた。


たそがれのかきこみ飯




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ふるさと色の玉井ランド

2012/8/20 台南

 烏山頭水庫を見終わったからつぎのところに行こうと燃えるようなあつい車に乗りこんだ。烏山頭水庫には小さいけれど立派な銅像があって、いっしょに写真を撮ったりしていた。ほかにもいろいろなことがあったけれど、今日は玉井のことを書くからその話はしない。

 車のなかで友人は玉井に行くと言った。玉井はマンゴー故郷であるとまえにだれかから聞いたことがある。だからぼくは、きっとマンゴーカキ氷を食べに行くんだな、とすぐに悟った。
  
 車から外に出ると、でりでり太陽がつぁんつぁんといってよろこんでいる。もういっかいクーラーのきいた車にもどりたい。玉井の町にはあつくて濃厚な空気が四方八方にどっさりと充満していて、目がまわるくらいにめまぐるしいあつさだった。

 ぼくは台湾にいると、いつもあついあついと言っている。ほんとうにあついんだからしょうがない。そんなときに冷気開放とかいたお店をみつけるとすっとんで入りたくなる。冷気開放というのはクーラーがきいて涼しいよ、という意味だと思っている。なかに入るとやっぱり冷えて涼しい。そんな冷気のなかにいるとなんだか開放的な気分になるんだ。

 玉井熱情小子芒果冰館もそんな冷気開放なお店だった。お店のなかにはひとがいっぱい入っていて、にぎやかだ。みんなが座るイスはだいだい色をしていて、それはマンゴーの色そのものだった。さらに見まわしてみると、メニューが、天井にかかる横断幕が、壁のプレートが、みんなだいだい色だった。さっき開いた自動ドアのガラスにもだいだい色のふちどりがあったし、お店に入るときに見た外観にもだいだい色があっちこっちにあったから、ぼくは、このときになってはじめてびっくりした。

 大人も子供もいっしょのテーブルでマンゴーカキ氷を食べている。奥にすがすがしいくらいに空いているテーブルがあったので、ぼくたちはそのテーブルの、だいだい色のイスに座った。友人はメニューを見ると、常連さんのようにてきぱきと料理を選んでくれた。

 マンゴーカキ氷に、マンゴーアイス、それにマンゴープリンと、デザートのマンゴーケーキ。でもぼくにはどれが主菜で、どれがデザートなのかよくからなかった。それでもぜんぶがマンゴーの味だったことは間違いなかった。どれもすごく甘くて、果物のいいにおいがする。マンゴーそのものはやわらかいから、歯をつかわなくても、舌で押すと溶けてなくなってしまう。
 
 台湾では、子供のころからお母さんに、マンゴーを食べすぎるとかぶれるから食べすぎちゃダメよと言われて育った、ということ聞いたことがあるんだけれど、ほんとうだろうか。マンゴーはウルシ科の果物だから、かぶれるというのはほんとうらしい。それでもみんなはゆかいにたのしく食べているから、ぼくもゆかいでたのしい気分で食べた。

 友人はどんどん食べてね、と言ってどんどん勧めてくるから、ぼくはどんどん食べた。おなかがパンパンにふくれあがってきて、ぼくのおなかのなかも、きっとだいだい色でいっぱいだ。

 近くにドライフルーツになったマンゴーを袋につめて売っているお店があった。友人は7個まとめ買いをしようとしていたから、ぼくも7個まとめ買いをしようとした。7個買うと1個がおまけでついてくる。友人はぼくは買わなくていいからと言ったけど、ぼくはやっぱり7個買った。
 
 高雄にかえる車のなかで、友人がお土産だよと言って買ったばかりのドライマンゴーを2個持たせてくれた。だからぼくのザックのなかには、まあたらしい9個のドライマンゴーが入っている。


ふるさとの玉井ランド



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山あいの雨いろの街なみ

2012/1/7 新北
 
 ふたりにはじめて出会ったのは、瑞芳駅の改札を抜けた、小さな広場だった。その日は朝から雨が降りつづき、いままで経験したことのない冷たく湿った空気に、僕はすこしだけ沈んだ気持ちになっていた。そんななかで、僕たちは「はじめまして」と声をかけあった。
 
 僕が台湾に行くことを、Facebookのコミュニティに投稿したら、その日のうちにメッセージを受け取った。そこには、もしあなたが基隆に来たら、ぜひ案内したい。日本人とともだちになって、台湾の観光を手伝うことができれば、たいへんにうれしい、と日本語で書いてあった。これを読んだら基隆に行ってみたくなった。そうして、基隆は、今回の台湾旅行の第一号に加わることになった。

 台北駅から台湾鐵道の區間車に乗って瑞芳駅に出発した。區間車は日本の各駅列車だ。ベンチ式の座席から向かいの窓を眺めていたら、見覚えのある駅名が目に入った。汐止と書いてある。日本の汐止と違うのは、ホームの向こう側に緑の山が見えることだ。このあたりからだろうか、風景は都会のあわただしさから離れ、窓には、ゆっくりとした景色が、しだいに映りこむようになってきた。

 列車が駅に停まるたびに、僕は、ホームに架かっている駅名標を逃がさないよう、目で追いかける必要があった。僕には車内でアナウンスされる駅名を聴きとれるだけの知識も経験も能力もなかった。いま目指している瑞芳のスガタカタチを、駅名標の文字の輪郭に見つける以外に、到着を知る手段はなかったと思う。
 
 降りしきる雨のなかで、傘をさして立つ友人を見つけた。もうひとりは知らない人だったけど、すぐに妹だと教えてくれた。

 駅のまえの道路を挟んですぐのところにバス停が見えた。まわりより少し低くなった道路にはいくつもの水たまりができていて、それらを避けてバス停まで渡った。

 しばらくして現れたバスの電光表示板には金瓜石と表示されている。ステップを上がったところにある四角いキカイのまえに、友人は悠遊カードをあてた。悠遊カードはバスでも使えるんだと言った。僕は慣れない外国のバスのなかで、小銭が足りなかったらどうしようと心配していたけど、その心配は必要なくなった。

 悠遊カードは日本でいうSuicaだ。いまでは機能が拡張されて、地下鉄だけでなく、バスやコンビニなど、使えない場所がないくらいにいろんな場所で使えるようになった。

 バスのなかはすでに人でいっぱいだった。つり革をつかむかつかまないかしているうちに、バスはがるるといって、唐突に走り出した。前方の大きな窓には、ミルクセーキのような、霧というのか、靄というのか、そんなモノがもくもくとたちこめていた。

 バスは上り坂もで下り坂でも、速度をかえないまま、坂道の急なカーブを曲がりまくっていたので、僕のからだは、つり革に引っ張られるように、なんども大きくそれた。予測がつかない遠心力の暴力に、肉体を好き勝手にされていたから、右手につかんだつり革だけが、僕のただひとつの命綱だった。

 やっと車がすれ違えるような、狭い上り坂の、激しくカーブした手前に、観光客みたいな、にぎやかな人たちがたくさん歩いているところがあった。友人がここで降りますよと言ったので僕は後につづいて降りた。バスには10分も乗っていなかったけど、地面においた僕のからだは、しばらくのあいだうわんうわんと揺れたままで、落ち着かなかった。

 到着したのは九份という街だった。二・二八事件を深刻に描いた「悲情城市」や、宮崎駿の「千と千尋の神隠し」という映画の舞台になったから、人が多い。途中に、ほそくて急な階段を見上げる通りがあった。友人が立ち止まってカメラを取り出したので、僕もまねして写真を撮った。

 階段の両端には、ちょうちんが赤くぶらさがっていて、やっぱりにぎやかだ。ふと、オカリナの音だろうか。雨のしずくで白っぽく霞んだ階段の向こうから、懐かしいようで、どこか悲しげな音楽が聞こえてきた。

雨まじりの

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千年の風化に太陽は照り続けるのだ

2012/8/22 新北

 台北市内の阜杭豆漿という店で朝飯をすませると外にはまたぐわんという強烈な暑さがひろがっていた。友人の車のドアを開けると中からもわっとした空気のかたまりが顔から肩胸にかけて激しくぶつかり、太陽がまだ昇りきらないうちから、真夏の台北は今日もけたたましい熱気に満ちあふれていた。

 台湾の北の端には、にけずられて、にえぐられて、大地にゆすられて、気の遠くなるような時間をかけて侵食と風化と退化を繰り返してきた奇奇怪怪魑魅魍魎な岩や石がいたるところでゴロゴロころがっている海岸がある、ということを聞いていたので、そんなヘンなものならばぜひ見てみたいと、その日は朝から好奇の心がごうごうと燃えたぎっていた。それに海岸であれば海から吹く風はさぞかし涼しいことだろう、という期待があった。

 車は野柳地質公園と書かれた看板を通り過ぎた。それは青い空を背景に土色の岩石が立ちはだかる絵だった。車から外に出るときの「うわっ」と吹き付けてくる風はヘアードライヤーの熱風そのもので、僕の半そで短パンの内側にはたちまちのうちに汗が吹き出してきた。

 入場料の50元を払いチケットを受け取った。50元の隅には環境清潔費と小さく書かれている。裏面をみると、鮎魚台、燭台石、情人洞、象石、豆腐石、仙女靴といった、いろいろなモノの位置がそこかしこに記されていて、奇妙奇天烈なその名前から、ここがただならぬ気配に満ち満ちた公園であるということをなんとなく読みとった。

 むかし映画で観たような、まさにどこかの惑星みたいな風情の公園には、ぐんぐん成長した太陽が、じりじりと容赦のない灼熱光線をあたり一面に発射しはじめていて、アチーアチーとゴマ粒のようにうごめいている蟻ん子のような観光客の姿が、黄土色の地面にシュールな滑稽さを浮かび上がらせていた。正午の太陽にもろに照らされていると露出した皮膚が熱いの痛いの、近くに陰のカケラすらも期待ならないことに深刻な切迫感を覚えて、観念してただただ身を焼いていくしかなかった。

 凶暴な太陽の真下を道なりに進んでいると、歩道の一箇所に人々がわあわあと行列をなしているところがあった。その先に、女の人のよこ顔のような岩が、ひょろりとくびれた石の塔に、はかなくも力強く、そして高貴なたたずまいで座っているのを見た。それは地形図に記されている女王頭という名前のとおりまさに女王の頭の形をした岩石で、気高く気品に満ち溢れた造形だった。人々は彼女とツーショットを撮るためにカメラを片手に順番待ちをしているのであった。

 女王頭は、じわじわと絶え間なく進捗していく自然の侵食風化作用によって、あと十数年もするとこの首の細い部分からポキリといって折れてしまう、という予測が学者たちのあいだでまことしやかにささやかれているのだ。

 大昔からそのままの形をずっと保ち続けているようでいて、日々変化している。やさしくもあり時にキビシイ自然の力で消滅していく海岸を何度も振り返りながら、運命に立ち向かわざるを得ない哀しみの果てに、このかけがえのない変化に対する奇跡というようなものを発見した気がした。


野柳と一千万年の風化



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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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