台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

無頓着、という目的

 僕らは2台の車に分かれて、高雄にある美濃に向かっていた。窓の外は田んぼが永遠と続いて、どこを見渡しても稲穂の草原が広がっていた。

 その日は高雄と台南から友だちが集まってきた。友だちは僕をのぞいてみんなはじめての顔合わせだったから、お互いに気を使うようなことにならないかと、僕はひそかに気になっていた。

 友だちは口々に、どこに行きたいか、どこに行ったことないか、などと僕に聞いてくるんだけれど、台湾にきて目的などというものを持ったことがない僕は、どこに行ってもいいと思っていた。それどころかむしろ、近所のお店でかき氷を食べてボーっとするうちに一日が終わるのもいいもんだなあ、と思っているくらいの無頓着ぶりなので、台湾の友だちには、いつもあいまいで要領を得ない答えばかりを繰り返していた。

 そんなことだから、僕が台湾に行くと、決まって友だちどうしで意見を出し合い話し合いになるのであった。話の内容は、とりわけ、日本人はどこに行ったら喜ぶのだろうか、に関するもので、ときに真剣な議論に発展することもあった。

 そういったいつもの手続きを経たあげくに、今回の行き先として浮上したのが客家の街として知られる美濃という地だった。そんなこんなで、僕のそれまでの気がかりとは裏腹に、友だちたちはいつの間にかみんな友だちどうしになっているのである。

 僕たちは、人数も人数だったので、友だちの2台の車に分乗することになった。僕はゼン君という、ほぼ自分と同じ年恰好の青年が運転する車に乗せてもらうことになった。ゼン君はかつて大阪の学校に留学した経験があって、日本が懐かしいよと言っては、まるで日本人のような日本語をたくさん話すのであった。

 車は高雄の街なかから出発して40分くらいで目的地に着いた。もう一台の友だちが運転する車も、となりに停まった。駐車場から見上げる看板には、大きな文字で美濃民俗村と書かれていた。

 土産物屋が連ねている敷地の入口をすぎると、小さな庭園がひろがり、辺りにはどこか懐かしい感じのする井戸や水車や荷車などがこじんまりと配置されていた。

 レンガ色の古い建物には、様々なお店が入って、古い客家の民芸品や工芸品などが並び、なかでもひときわ目を引いたのは美濃油紙傘という非常に手の込んだ趣のある傘だった。客家の伝統的な文化だそうで、花模様や風景画、はたまた何かの幾何学的配列を表現した絵など、色とりどりの傘が壁一面にひらかれ、そのひとつひとつの絵柄は、お互いの個性を主張しあって、すでに芸術品の域だった。

 周囲からは絶えず、笛が奏でる不思議な音楽が流れていて、その音楽に混じって、どこからともなくお茶っ葉の落ち着いた香りが漂ってきた。近くに客家擂茶館というお茶屋があって、ここでは自分で実際に茶葉を擦って飲むことができるんだ、ということを友だちに教えてもらった。

 駐車場に戻ると、灰色の雲が上空に密度を増して、遠くからゴロゴロと雷が鳴る音が聞こえてきた。それから、僕たちは旗山老街に向かった。

***高雄の美濃で***


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  1. 高雄
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座席は奇数の13番

  高雄駅の第四月台から莒光号が金属のこすれるの鈍い音をあげて走り出した。台湾国鉄の莒光号は自強号の次に速いとされる急行列車で、その日の僕は彰化駅の先にある鹿港という街に向かっていた。
 
 チケットに記された13番の座席は窓側にあった。座席が窓側になるか通路側になるかという問題は、座席番号が偶数奇数か、そして進行方向が東側西側かといった複雑な組み合わせの過程を経て決定される、ということをどこかで聞いていたんだけど、そういう難しいことはよくわからないので、僕は何も考えずにただ自分の番号が記された席に座っていればよかったのである。

 列車はいくつかの駅に停まってから、30分くらいして岡山という駅に停まった。日本の岡山と同じ名前だったので、僕は日本にもどってきたようなヘンな気分になった。高雄では比較的大きな駅らしく、それまでに停車した駅よりも多くの乗客が乗り込んできた。僕のとなりの席にも、ひとり、ザックを抱えて哲学的にやや深刻な面持ちをした真面目そうな黒縁メガネの学生君が座った。

 北上を続ける列車の、窓の景色がめまぐるしく移りかわる中で、めずらしく早起きをしたしわ寄せが、眺めている風景の輪郭を、夢とも現実ともつかない曖昧なものにしていった。薄れゆく意識の中で、僕は人の声のようなものが聞こえた感覚で我にかえった。

 となりの学生君が、か細い声で、僕に呼びかけているのであった。なんだろうと右耳に意識を集中してみたものの、学生君が話す言葉が中国語であったため、僕には何を言っているか理解できなかった。僕は中国語が分からないということを、その分からない中国語の単語を使って何とか答えたみたいで、このやり取りは終わってしまった。

 車内はきわめて退屈なものだった。彰化駅に到着するまでに、まだ2時間以上たっぷり残っている。幸いなことにスマートフォンに差し込んだ台湾SIMカードはすこぶる快適で、インターネットが使い放題なうえに、速度もまったくの快調だったので、FACEBOOKでメッセージや写真のアップロードなどが楽しくでき、時間をつぶすのに大いに役立った。

 ときおり販売員が弁当の入ったダンボールを肩に担いで通りかかるので、その度に通路から排骨のいいに匂いが流れてきた。周囲の座席からは絶えず人の話し声があって、車内は常に賑やかな雰囲気に包まれていた。

 それでも、ながい時間も座ったままでいると、やはり人間一回くらいはトイレに行きたくなるもので、僕は通路側に座る学生君にお願いして席を立ってもらい、進行方向の先の連結部分に設置されているトイレに向かった。僕は、的をはずさないように、慎重に筋肉の剛と柔の力を操り、不規則に揺れ動く床を克服して、この一連の作業を遂行した。

 席に戻り、再び学生君にお願いして奥の窓側の席に通してもらった。すると学生君はさっきと同じような調子で、僕に訴えかけてくるのであった。僕は分からないなりに学生君の話を聞いていたが、彼の指先は、さっき僕が出てきたトイレの方角をさしていた。
 
 僕は学生君がトイレは空いているか確認をしたいのだと思い、うんうん空いているよとうなずくと、学生君はザックとトイレを交互に指さしはじめた。僕はこのときになって、ようやく理解したのであった。学生君はトイレに行っている間に自分のザックを見ていて欲しいと言っているのだ。そして、最初に僕に言いたかったことも、これと同じ内容だったのだ。

 学生君はほっとしたような顔をしてトイレに向かった。僕はなんだか申し訳ないという気持ちと同時に、自分が傲慢で勝手で、とても恥ずかしい人間に思えた。学生君のお願いを無視して、学生君の席を空けて、自分だけ悠然とした態度でトイレに行ってすっきりした顔で帰ってきていたのである。

 しばらくして学生君が席に戻ってきた。座るとシェイシェ(ありがとう)と僕に言った。僕はすかさず、知っている限りのごめんなさい言葉を、台湾語も中国語も駆使して、学生君に連発したのであった。

 パイセイ(台湾語のすみません)プーハオイース(中国語のすみません)トイプチー(中国語のごめんなさい)シッレー(台湾語の失礼しました)

 学生君は何でもなかったように手を横に振って気にしなくていいよというふうに言った。学生君は員林という僕が目指す彰化駅の一つ手前の駅で降りていった。

***彰化行きの列車のなか***


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  1. 彰化
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ヌカカのふりかけめし

  ヌカカという小さな蚊がいる。本当は蚊ではなく蠅の一種なんだそうだが、台湾の特に東の方面に行くと、よくこれに噛まれる。噛まれるとその部分を中心に赤いふくらみができて、搔けば搔くほどかゆいのなんの。搔きすぎるとこんどは噛まれたところからベトベトした黄色い液体が噴き出してきて、それがまたたく間に広がりさらにかゆみも広がるのである。

 そんな半ズボンの下の赤斑点デコボコ足をぼりぼり搔きながら、僕は台東縱谷鹿野線という1日旅游のバスチケットをにぎりしめて、台東は鹿野のバス停留所で、次にやってくる来るはずのバスを待っていたのであった。

 停留所の看板が立っているすぐ後ろは、バスのチケットも取り扱っている小さな雑貨屋兼民家になっていた。中ではおじさんがイヌとソファに座ってテレビを眺めていたが、僕の存在に気がつくと、あと一時間くらいはバスは来ないねえ、となどとのんきな口調で話しかけてきた。
 
 時間があるなら飯でも食べに行こうかなあと考えた僕は、おじさんにどこかに飯を食べる店はないかねと尋ねた。台東県と花蓮県を縦に走る花東縱谷公路鹿野火車站の周辺の通りには、多種多様な商店が軒を連ねていて、その中には飯を食わせてくれるお店もいくつか集まっているのであった。

 その日はやや遅めの朝飯をしたので、正午の時間になっても腹が減ってなく、すこし遅めの昼飯となった。14時近くの店内に客はだれもおらず、おばちゃんと娘さんのふたりで、食器の後片付けをしているところだった。
 
 メニューにあったチャーハンを慣れない言葉で注文してみたところ、間髪いれずにおばちゃんは「日本から来たの?」と聞いてきた。日本から来ましたと答えたら、おばちゃんは急速に明るい顔になって、娘さんはすこし恥ずかしそうに笑った。

 おばちゃんはこれも食べなさい、といってレバとねぎがたっぷり入ったあつあつのスープを出してくれた。ぷりぷりした食感のレバとねぎの香りとニンニクのスープが、チャーハンによくあって、たいへんにうまい食い合わせだった。
 
 おばちゃんは異様にふくれあがった僕の足を見て、まあ、とやや気の毒そうな顔をしたかと思うと、あわただしく店の奥の自宅に走ってスキントールSと日本語で書かれた虫さされ用の塗り薬を持ってきた。

 僕はおばちゃんに言われるがまま、チューブの腹をぐにゃりと押して薬剤を指にのせると、それをヌカカの噛みあとの部分に、よく染み込ませるように、スリスリとすり込んでいった。すこしだけスーッとした心地いい感触があったが、何日も続いていたかゆみの深刻さは、すぐに引っこむほどに簡単な症状ではないようだった

 僕は「ドウーシャ(ありがとう)」と言って、塗り薬を返そうとしたが、いいから持っていなさいと言われて、僕は「ドウーシャ、ドウーシャ」とさらに繰り返しお礼をした。

 停留所に戻ると、雑貨屋のおじさんがやや真剣な顔つきで待っていた。「もうすぐバスが来るよう」と、帰りが遅くなった僕のことを、心から心配していた様子だった。

 バスに乗っているのは運転手をのぞいて僕ひとりだった。車内には日本のポップソングが流れていたが、誰の歌なのか分からなかった。

 次の行き先は台東原生植物園だったけれど、その場所に目的や行きたいという希望があるわけではなかった。そもそも台湾を旅行する目的というものがないのだから、僕にとっては、そんなことを考えること自体がおかしな話だった。いつもそういう適当な旅ばかりしているせいか、この後も、いつものように面倒なトラブルに巻き込まれていくのであった。
***台東の鹿野で***



ヌカカのふりかけめし


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  1. 台東
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がらんぴ熱帯あぢいあぢい注意報

  僕らは公園の入り口で40元の入園料と引き換えにチケットを受け取った。鵝鑾鼻(がらんぴ)と書かれたその公園は、やたらに画数が多くて、いささかあやしい匂いを漂わせている感じがあったんだけれど、墾丁の中ではとりわけ人気の観光地なのであった。

 鵝鑾鼻公園はその墾丁のさらにさらにずっと南にあった。いわゆる台湾最南端である。熱帯モンスーン気候だから、あぢいのなんの。高雄から車で3時間ちかくかかったけれど、いままでずっと運転していたフェイちゃんは、顔に疲労の片鱗も見せることなく、僕たちを先へ先へと導いていくのであった。

 ゲートで半券がビリッとやぶられ僕らの目に飛び込んできたものは、ぎらぎら太陽をいっぱいに浴びてうれしそうに光り輝く芝生の大きな広場だった。芝生はゆるやかな斜面上に広がり、いろいろな格好をした人々の群れが、緑のじゅうたんをころげまわるように歩いていた。

 芝生にはしる石造りの歩道は、ずっと先にある森の入り口に向かっていた。森の中はうす暗くて、そのぶん涼しかった。湿り気のある土と草の間と、木々がトンネルのように覆いかぶさる下に、手作りの歩道が上下左右にうねりながら続いている。逃げていくトカゲが草をゆするところや、カニが目の前を素早く横切るところなど、自然の生き物がしたたかに生きる気配というものが、そこかしこで充満していた。

 道のいたるところに案内板が立っていて、おもしろそうな道がいくつも枝分かれしていたんだけれど、ここでも僕らは招かれざる生き物に対峙していたことを付け加えておかなければならない。どこからともなく寄ってくる蚊の大群は、僕らにゆっくり散策をしている余裕をあたえず、そのため、早くこの森を抜けることをいちばんの優先事項することで僕たちの意見は一致したのである。

 森がひらけてくると、歩道はウッドデッキにかわった。吹き付けてくる風の中に、潮の匂いが混ざりはじめていた。デッキをさらに歩いていくと、海が広がった。深い青色をした海は、空の青色と重なって、どこまでもどこまでも青く続いているようだった。すぐ下は海岸になっていて、岩にはじけた波のしぶきが小さな粒になり、ときおり風にのってぷちぷちと顔に当たってくるのであった。

 僕らは再び芝生を踏んだ。芝生はここでもゆるやかな勾配になって、上へ上へと続いていた。光をさえぎるものが何もないのをいいことに、太陽はさっきよりも凶暴になって、僕らの頭と背中をじりじりと照りつけ、足の下からは地面の熱気がぐわしぐわしと這いのぼってくるのであった。

 あぢいよあぢいよたすけてあぢいよとクラクラした頭で歩いていくと、白い建物の一部がぼんやりと見えはじめてきた。白い建物は次第にはっきりした輪郭をもって、やがて青い夏空の中に真っ白い灯台がぽっかりと姿を現したのであった。

 灯台の周りには、土産物屋が一軒あって、店の前にハガキや貝の細工などの小物が所狭しと並んでいた。周囲はおびただしい数の観光客が集まっていたんだけれど、腰を掛けるものはおろか、ここにも太陽をさえぎる日陰という日陰がなく、じっとしているだけも汗が吹き出してくる有り様だった。

 ぐるりと白い塀にかこまれた灯台の近くには、何棟かの建物が併設されているようだった。中に入れば、日陰になるような場所があるに違いない。塀の近くを歩いていくと、一定の間隔で、背の低い白い壁にいくつかの小さな四角い穴があることに気がついた。塀の内側から穴の向こうを眺めてみたら、絵葉書のようなバシー海峡が見えた。
***墾丁鵝鑾鼻公園で***




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  1. 墾丁
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平渓線の向こうがわ

  九份にするか十分にするかで考えた。ガイドブックをめくると、なんでも九份は山の斜面に古い街並みがあって、そこから茶を飲み海を見下ろすのがお勧め、と書いてある。ほかに「非情城市」という映画の舞台になったとか、「千と千尋の神隠し」の豚がでたとか書いてあったが、映画を観ていないボクにとっては、いやに空想ファンタジー的な言語ばかりが目についてしまった。

 一方で、十分のページをひらけば、ランタン飛ばしと十分瀑布という滝がよろしい、と書いてある。いったい何がどうよろしいのか、ガイドブックからはこれ以上の回答が得られそうにないと観念したボクは、全家と呼ばれるファミリーマートで夜食として買っておいた牛肉麺のカップヌードルをずるずると流し込んだ。

 九份は台北駅から鉄道に乗り瑞芳駅で降りてバスに乗る。これでだいたい80分くらい。十分は台北駅から瑞芳駅に行くところまでは九份といっしょだが、平渓線に乗り換えるところが九份と違う、ということだった。ちなみにこっちは90分とある。

 レトルトの牛肉は思いのほか味が濃くてしこたまうまかった。この牛肉だけで麺3玉は食えるなあ、などと日本にいるときは決して食べない夜食を平らげてから、ふと、十分は九份と比べると観光客が少ない、と以前だれかが言っていたことを思い出した。かねてより観光客の集団があまり得意でないボクは、自分も観光客のひとりであるということを棚に上げ、快適にウロウロ歩けそうな街、という理由で明日の行き先を十分に決めたのであった。

 7月のはじめは台湾学生たちの夏休み入りの時期と重なって、列車の中にはザックを背負ったエネルギー満点の若者たちが色とりどりの顔をしてドシドシ乗り込んできた。ボクは、平渓線に乗り換えるために、瑞芳という駅で乗り換える必要があったので、ドア付近に貼ってあった、駅のルートを何度も見直して停車駅の段取りを頭に入れた。

 途中で席に座ることができたので、そのまま居眠りしたかったが、まるで拷問かと思うくらいの強烈凶悪な冷房のせいで、その欲求は断念せざるを得なかった。やがて、電光掲示板に目的の瑞芳の名前が表示されたので、ボクは今なら絶対に暖かいと思えるはずの真夏のホームに飛び出した。

 台北駅の切符売り場で、十分駅までの切符は瑞芳駅で買ってください、とプラスチック板の向こう側のお姉さんにきりきり説明を受けていたので、ボクはお姉さんに言われたように、ここでも有人の切符売り場の列に並んだ。その列はなかなかの混み具合で、もたもたしているうちに列車がきておいてけぼりされたあげく次の列車がくるまでの1時間ぼう然と待ちつづける図、というものが妙にリアルに想像できてしまったので、順番がまわってきたらスムーズに切符が買えるよう"我想去十分車站"というむずかしい中国語の発音を、頭の中でなんどもなんども繰り返した。

 平渓線は単線列車だった。赤や黄のカラフルな色彩に包まれた車体は、観光的かつローカル的な雰囲気をいっそう強調していて、これから行こうとする未踏の地への期待を壮大にふくらませるに十分な魅惑があった。ブルンと震えはじめるエンジン音にまぎれて、ディーゼルのはじけた匂いが鼻の奥をジリジリと刺激した。ほぼ満員になった平渓線は、たくさんの台湾人と、ちっぽけなボクを乗せて、台北駅から乗った列車よりも、ゆっくりした速さで動きはじめた。

 列車は最初に瑞芳駅からひとつめの三貂嶺という駅に停まった。乗り降りする客は少なかったが、外は雨が降っているようで、窓から見る人の頭には傘がのっていた。それから列車は大華駅を通り、しばらくして、天井のスピーカーが十分駅に到着することを知らせた。窓の外には店の雨除けが突きでていて、それは反対側の窓の外も同じだった。店という店が線路両脇のギリギリのところにまで迫り、お互いひしめきあっているのであった。

 ホームに降りたときには、雨は小降りにかわっていた。ボクは降車する人々の流れにのって、線路を横切り、もう一つあった反対側のホームに歩いた。乗ってきた列車の方角を振り返ると、にわかに虹がかかっているのが見えた。

***雨のち晴れの十分で***



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  1. 新北
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それでも前に進んでいく

  金爪石という九份ちかくにある金鉱時代の数々の“歴史”を残した博物園区をひとしきり見学したあとで友人の携帯電話が鳴った。今日はお母さんの誕生日だからこれから家に帰ってお祝いをするんだ、と言う。そして、あなたも一緒に来るように、ということになった。
 
 朝から降り続いた雨にぬれてどっしり重くなったジーンズがすこし気にかかったものの、友人の突然だがせっかくの誘いをむげに断るわけにもいかなかったので、こんな格好で申し訳ないなと思いながらも、私はご一緒させていただくことにした。

 手ぶらだった私は、せめて簡単な手土産でもと思い、基隆駅ちかくにあったセブンイレブンに立ち寄った。レジの奥に陳列されている菓子箱の番号を店員に伝えたところ、それに気づいた友人はすぐさま止めにはいろうとしたので、私は半ば強引に財布を取りだした。それでも友人は負けじと自分の財布から台湾元札をだしてきたので、さらに私も台湾元札をだして店員にすばやく受け取ってもらう必要があった。

 基隆港の上空を白くおおっている厚い雲の間から、すこし冷たい1月の雨粒が、ザッザアとまばらな音を立てて落ちていた。夕暮れ近くの駅のロータリーには、忙しげに行き交うバスと、雨にあたらないよう駅舎から停留所へ小走りにしている帰宅の人たちであふれていた。
 
 私たちが待つ停留所にもバスが停まった。降車の客がひと段落したあとで、友人に続いてステップを上がり、運転席の横に取り付けてあるカード読み取り機に、台北のMRTで買ったばかりの悠遊カードをかざした。悠遊カードは日本でいうSuicaであるが、私にとっては今回がバスでのはじめての試みだったので、次からはひとりでバスに乗ることができる、とすこし得意な気持ちになった。

 車内は思っていたよりも広かったが、その分だけ座席が少ないように感じた。カビと排気ガスの匂いが染み込んだ木の床を、一二歩進んだところで、突然、からだ全体がぐわんと宙をすべり、そのまま姿勢を一直線に保ったまま、前方右手の柱の方角に落ちた、という感覚があった。同時に、自動化された時間の連続が断ち切れた、という実感もあった。私は倒れる直前に友人の手に支えられ、救われたのであった。

 バスは乗客が座席に着くまで発車しないものだと思い込んでいたことは、自分にとって都合のいい単なる思い込みだったのかもしれない、ということを身をもって思い知らされる一件となった。

 減速加速を繰り返し、左右に揺れ動くバスのなかで、私は友人の手に引かれて、ずっと後方の空いている座席まで歩いた。車内は満員というほど人の密度は高くなかったが、空いている座席は一人分だけだった。友人は私に座るように言った。

 自分は座らなくても大丈夫だから、と言いかけたが、私にそのようなことを言う資格はない、ということも分かってしまったので、おとなしく座っていることにした。友人は片方の手で私の荷物を持ち、もう片方の手で、手すりをつかんで、じっと立っていた。

 疲れていたのか眠ってしまったようで、気がついたときには、窓の外は暗くなっていた。バスはまだ走っている。友人の家に向かっていることは知っていたが、ここがどこなのか、ましてや友人の家がどこにあるかということまでは、知らないのであった。見上げると友人の姿はなかった。振り返ると私のひとつ後ろの座席で、友人は腰を落ち着けることができたようだった。

 今までの台湾で観光地に行くことはあっても、友人の家に行く、ということはなかった。まして友人といっても今日の朝はじめて会ったばかりだったので、友人と呼んでしまうことが、いささか虫のいい話であるように思えてならなかった。

 普通でないと考えていたことが、台湾ではごく普通の出来事であった、ということを、これから徐々に知っていくのであるが、台湾特有の得体の知れない奥深さというものの中に、すでにどっぷりと足を踏み入れてしまっていることに、このときの自分はまだ気がついていなかったのである。

***基隆にて***



それでも前に進んでいく

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  1. 基隆
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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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