台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

かえっていくところ

 高雄美麗島駅で降りまして、いつものように改札口で色とりどりなステンドグラスを見上げてからその足で予約してあったゲストハウスまでの道のりを歩いていますと、セブンイレブンの脇道からおじいさんがひょっこりでてきて「えええ?台湾人なの!?」と快活な日本語で声をかけてきます。

 突然の呼びかけにおどろいた僕はナンダナンダとあたりを見回してみますもそこにはやはり僕しかいません。

 おじいさんはくりくりした目をさらにくりくりさせると「台湾人なの!?」と僕のTシャツを指差しました。

 そうです、このとき僕は斗六の友だちからお土産にいただいた茶色い生地に白文字で「台湾人」とプリントされたTシャツを着ていたのです。ほかではなかなかお目にかかれないような奇抜な柄のものでした。

 おじいさんはニコニコと嬉しそうな顔をして「わたしは日本人だったよ!いひひ!」とわらいました。

 おじいさんは御歳80を越えており、子供のころ日本の教育を受けていたとのことでした。その後に戦争にはいりますが、戦争はじつは終わってからがたいへんで、激動の時代へ突入していったこと、その流れに翻弄されて過ごした日々のことなどをお話になられました。そのやさしい目にはどこか遠い昔を想い、なつかしむようなやわからかな明るさがありました。

 しばらく立ち話をしておりましたが、おじいさんは「これからどこにいくの?」と尋ねられましたので、ゲストハウスの住所を言いますと「ああ、そんならよ。こっちよ。」と、ほんの数軒先のところでしたが、おじいさんはその建物の前まで歩いて案内してくださいました。

 僕が今夜泊るのはあひる家というゲストハウスで、玄関をはいると、宿泊の人たちが共用のテーブルをかこむようにしてたのしそうに談笑しているすがたがありました。どうやら台湾の話で盛りあがっているようで、こざっぱりとした室内には台湾に関する本がたくさん並んでいました。宿泊される人たちは皆日本から旅行に来ている人たちのようでした。

 かるく挨拶をすませましたら、テーブルのうえのライチを勧められましたので、僕はなん粒かいただきました。殻をむくと白くすきとおった実があらわれて、そのまるい薄皮を口のなかでやぶるとなかから新鮮な水がチュッとながれでてきました。

 ベッドはドミトリー形式でした。自分用にあてがわれたベッドの上に荷物を置くともうすることがなくなってしまいました。みんなベッドに寝ころんで本を読んでいるか、共用のテーブルで台湾旅行のお話しなどをして過ごしているようでした。

 僕はここでなにをしていたらよいのかわからなくなってしまいました。新参者の僕がみんなの会話にうまくはいっていけるかわかりませんし、まだ夜でもないのにベッドに寄りそっているのもあまり健康なものとも思えません。僕は外の空気をあびようとおもてにでました。

 外は小雨が降っていました。駐車しているバイクを迂回しながらなるべくひさしのついた歩道を選んで歩いていますと途中に居酒屋のようなお店がありましたので、日本でもよくやるように僕は一人お店のなかにはいっていきました。

 台湾ビールを注文して大ビンの口先をコップのなかにゆっくりと傾けました。その琥珀の液体のうえで小泡の層が急速にひろがっていくようすを見ながら僕は、ふだんとそれほどかわりばえのしなかった午後の日ことを小気味よく思いかえしてたりしていました。

***小雨の降る美麗島で***


かえっていくところ




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  1. 高雄
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佐倉歩道の白い牙

 チョウさんの運転するバイクは松園別館をはなれていつしか佐倉街にはいっていた。後部座席の絶え間ない風の直撃にしばたたきを繰り返す両眼のすきまから、日本の田舎とさしてかわりのない民家の風景が、道の脇にいくつも後退していくのが見えていた。

 その連続したうつりかわりのなかで、放し飼いにされた一匹の小型犬が、数軒先の道の真ん中に犬座りしている姿があった。

 バイクがその手前にさしかかるかしないかのどこか境界付近で、それまでおとなしく座っていると思われた小型犬が、いままで獲物でも待ちかまえていたかのように、突然、ものすごい剣幕で吠えはじめた。

 その眼は血走り、耳は尖り、鼻面はひきつり、しまる歯茎のうえは鋭利な牙がむきだされ、喉の奥からウォンウォンとドスの効いた低音をとどろかせる、ただ怒り狂うだけの獰猛な獣のかたまりに豹変した。
 
 こんな小さな体のいったいどこにこんな力が潜んでいたのか、まるで上半身が裂けた口そのものといったような、凶暴性と残忍性とを兼ね備えた暴虐の怪物だった。

 はたしてバイクの走る速度に勝てると思っているのか、その小さな怪物には、どこまでも追いかけてくる意志と執念があった。バイクに追いつき追いこすことにまったくの自信と余裕とをもっていた。そしてすきさえあれば飛びかかりその力のこもった大きな口で押さえつけたい欲望があった。バイクの速度がすこしでも落ちることがあるとするならば、それは確実にかみ殺されることを意味した。

 逃げつづければ逃げつづけるほど、あちらこちらの民家の傍らからよだれを垂れながす仲間たちがわらわらと加わり、その数は絶望的なまでに不気味な増殖を繰り返していった。

 チョウさんはハンドル下にある前輪ポケットから「これをこれを」と折りたたみ傘をだした。私は素早く受け取り、アルミの柄をひきぬき、ほどよい長さにすると、並走する先頭の犬の背中めがけて振り落とした。もはや武器となった傘であったが、その先端はあっけなくかわされ、その一撃は空振りにおわった。しかしどうしたことか、犬はキャヒヒ~ンと急に弱い声でひと鳴きすると追いかける速度をゆるめた。打たれたら痛い、ということをまるでわかっているかのように。それから、犬の集団はつぎつぎにバイクからはなれていった。

 私は極度の恐怖を感じたとともに本能のたくましさを感じた。それはある意味野生が持つ力強さと美しさの両立ともいえるものだった。

 以前に台湾の友人に飼い犬は野良犬よりも凶暴だから気をつけろと聞いたことがある。飼い犬は主をまもるために飼いならされ、ときには攻撃もためらわない。その日その日を呑気に生きる野良犬よりも好戦的になる場合がある、ということだった。

 佐倉歩道の入口に着くと偶然にもチョウさんの友人がいた。その友人のバイクに隠れるように、一匹のぶち犬が舌をだしてこきざみに呼吸していた。それからゴムマリがはずむみたいにバイクのステップに昇ったり降りたり嬉しそうに繰り返した。

 佐倉歩道花蓮駅から北へ数キロのところにあるハイキングコースである。片道4キロほどのやや勾配のきいた林道で、てっぺんに行けば花蓮の海岸から市街地までが一望できるといわれている。

 頭上にはカシやクヌギに似た大木がそびえ、その間を雑木が埋め、ツタやツルが張りめぐらされていた。木の幹にはカナブンや名も知れぬ虫がくっつき、草むらには蝶が飛びかっていた。

 林道はむせるほどの暑さであった。しばらく進むと木の枝がばさばさと揺らされる音がして、すぐあとにキィーという動物の鳴き声がした。見上げるとこちらに鋭い視線を投げつけるものがあった。猿だ。どうやら私たちは歓迎されている様子でないようだ。ザックにしまった折りたたみ傘の突起の感触を右手に確かめると、私はふたたび戦闘態勢に移行した。

***花蓮の佐倉歩道***



佐倉歩道の白い牙




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  1. 花蓮
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はるのぬけみち

 八卦山大仏を見上げる半円状の九龍池広場の左手にいっぽんの小道があった。

 眼下に広がる彰化平原から吹きつけるぬるい風を半身に受けながら小道を歩いていくと通りのかたすみにコンクリートのほそい階段が降りている。

 どこにつながっていくのかな。

 階段を降りていく途中で水のしぶく音にまじって銀橋飛瀑とかいた案内碑が人口滝のまえにたっているのがみえた。

 碑のまわりにあつまった水は、そこからさらに石でかためた水路を流れおちて、ちょうど勾配のおわる苔むした石橋の下でとぐろを巻いて休息していた。

 気がついてみると辺りは一変して、木々の梢が連なるうすぐらい森になった。

 ここはいったいどこなんだろうか。
 
 冬だというのに空気は湿り気をふくみ、濃い土のにおいがする。草はみずみずしい緑色のひかりに照らされ、木の葉からこぼれおちる風が気持ちよかった。

 日本にかえったら灰色の真冬に逆戻りだなあ。

 そのとき足首のあたりにチクチクとした違和感をおぼえた。手でさすってみるといくつかの肉がぽっくらとボタン状に膨らんでいる感触があった。

 蚊だ。

 冬のこんな時期に蚊に刺されるなんていうことは、台湾ではほぼ一年を通して蚊がとんでいるということになるんじゃないか。

 すくなくとも寒気がおしよせる時期はいないにして、11ヶ月くらいの間はなんらかの形で蚊がとびまわっていることになるんじゃないか。

 今回はジーンズにスウェットの服装をしているので、夏場のTシャツ短パン姿にくらべたらそこまでの被害はない。それでも足首や手首など若干の露出のきざしがあればヤツらはそこを集中的に攻撃をしかけているはずで、そうしてやっぱり、限定された範囲のかゆさは極度に濃厚だった。
 
 でもよくかんがえたら露出が限られているぶん弱点も限られているわけで、裏をかえせば、特定された脆弱な部位だけ気にしていればよい、ということでもある。

 うーむ。

 森のなかはときどき普段着姿で歩く地元の人たちとすれ違うことがあった。けれども視覚にはいってくる人間は滅多になかった。

 すこし空がひらけた空き地の大理石のベンチに腰を降ろして、八卦山の入り口で撮った地図の写真を拡大してみると、どうやら文学歩道という場所にいるらしいことがわかった。

 文学歩道は、うららかな春であり、そしてかゆい夏でもあった。ただひとつ冬があるとすれば、それは腕にかかえたまま所在をなくしているダウンジャケットだった。

***八卦山の文学歩道***

春の抜け道




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  1. 彰化
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アンピン散歩道

 タライほどの籠からはみ出るくらいに盛られた海老せんべいが次々に袋詰めにされていた。そのすぐ後ろで山積みになったドライフルーツがたたき売られていた。かき氷をガリガリくだく音にまじって、パチパチと油を揚げる匂いがただよってきた。腸詰めを焼いた煙がたなびいて、ガラス台のなかのカットフルーツが甘い光沢を放っていた。色とりどりのおもちゃ屋の軒先で子供がはしりまわっていた。

 露店の立ちならんでいる往来はなんだか今日もやっぱりにぎやかだった。そこには、休日の昼さがりといった穏やかで、そして懐かしいあかるさがあった。それは以前に来たときとちっともかわらない、屈託のない晴れやかさをともなうものであった。
 
 僕たちは午後の散歩にひと休みをいれることにした。台湾の友人が「台南名物」と言うそれは、食パンをくりぬいてシチューをつめた棺材板という食べものだった。名前の由来はその棺桶の風体からきている。僕は竹づくりの低いテーブルに前のめりになって、とろみが熱くないのを確かめるようにおそるおそる棺の中身を口にはこんだ。中身が大方なくなりかけたところで、水分を吸ってクタクタになったパンを舌先で折りたたむようにしてもぐもぐと口におさめた。

 歩道がややひろくなるあたりまで来ると、レンガ造りの階段と城壁が見えてきた。その先の高台からのびる展望台の白い壁が、西からの日射しを受けてやっぱりまぶしかった。

 台南は台湾でもっとも古い都で日本でいう京都にたとえられることがおおい。なかでもオランダ人の手で築かれたと言われるこの安平古堡は、アジアというよりもむしろヨーロッパに近い風情があるように思えた。

 赤い屋根の展望台の蒸し暑い階段を汗をかきながら登っていった。てっぺんの四方にひろがるガラス窓には、ほんのりと塵や埃が堆積しているようで、ガラス向こうの安平の街を、こころなしか昔風の写真のようにあせた色に映してみせた。

 いっぽうで史跡記念館はよく冷えていた。僕は冷風にできるだけながく当たっていたかったので、送風口の上下のスイングの動きに合わせて体を行ったり来たり往復していた。そんな子供じみたことをする僕を見て、台湾の友人はやっぱり笑っていた。

 安平古堡は、古城遺跡や昔の砲台、そして鄭成功の彫像など、歴史の痕跡をおおく残している。しかしそれはもう幾度も見てきたものだった。しかし台南に来るとどうも安平あたりに足が向かってしまうようだ。そして、あきらかな理由はないんだけれど、またいつかきっと、ここに来る気がした。

 2015年7月3日 台南の安平あるき


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  1. 台南
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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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