台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

屋台メシのもんだい

 この4日間の台湾旅行で4キロふえたのはスーツケースの中身なんかじゃない。単純に1日に1キロふとった計算になるから、僕のカラダは1時間あたりで実に40グラムづつふえ続けていったことになる。

 とにかく食いどうしの日々だったので、いろいろと思いあたるふしがないわけでもないんだけれど、より肥大化傾向にあるどてっぱらに手を当ててよくよく振りかえってみると、やはりあれだったのか、と無邪気にはしゃいでいたあの日の夜の記憶がまざまざとよみがえってくるのであった。

 その日はペルオ君とふたりで台中に遊びに来ていた。台中には張さんという友だちがいて、僕らは日が暮れはじめるあたりから台中の街を案内してもらっていたんである。

 張さんは10年ちかく東京の会社に勤務していただけのことがあって、非の打ち所のない日本語をひょうひょうとあやつる。だから彼といっしょにいるとまるで日本にいるかのような感覚におちいる。

 さっそく、その張さんおすすめの新凍嫩仙草に連れてきてもらった。ここの仙草ゼリーはひと月前にも食べさせてもらったことがあったんだけれど、その味と食感において、とにかくまた食いたくなるほどの強烈な思い入れをもっていた。

 前菜はそこそこに、張さんの車はさっそうと豐原に向かった。豐原には廟東夜市という屋台街があって、今晩そこでメシを食うのだ。

 僕らは手はじめに蚵仔煎とかいておあちぇんと発音する牡蠣入りオムレツの店にはいった。台湾の牡蠣は日本のよりやや小ぶりで噛みごたえがあるので、いかにも貝を食っているぞという気分になれる。

 さくっとかたづけ、すぐちかくの肉丸の店のテーブルについた。肉丸とは台湾語でばーわんという肉入り餅のことである。歩いている人にぶつかりそうなほど通りにはみだした狭いテーブルはどれもお客が絶えることがない。

 台湾の夜市を歩いているとよく店の看板に正老という文字がついた店を見かけることがあるんだけれど、この肉丸もまさに正老で、きっと商売がながく続いていたことを表すものなんだな。というのもこういう店はたいてい地元で人気があるのだ。

 ようやく腹の減りも落ち着いてきたころなので、歩きながら食べられるかんたんな小吃を食べることにした。

 張さんにすすめられたのは、廟東東山鴨頭というぱっと見たところヤキトリ串のような濃厚な色の食材をならべた露店だった。僕は張さんにうながされるまま、あれやこれやと選んでいったらザルが山盛りになってしまった。目の前の油だまりにそれらがいっせいになげ込まれると、ザアーとはじける音とともに、大量の湯気と香ばしい匂いがあたり一面にたちこめた。

 この料理。どうやらあらかじめ醤油で煮込んだものを、その場で素揚げしてカリカリ食べるものなんだそうだ。メインはもちろん鴨の頭だ。

 そのなかでもとりわけ驚いたのが、湯葉ふうの食べ物だった。豆包といってドウボァとよむ。ドアホウではない。とにかく肉のような歯ごたえで、噛んでいるとなかから濃厚な味がじわじわとにじみでてくる。これがうまいのなんの。そこそこ値段の高い肉なんかよりも、はるかにいい肉を食べている感じだ。

 台湾の夜市でほんとうに残念なのは、こんなに良質なおつまみが道ばたにあふれかえっているのに、ちかくでビールの類がほとんど売られてないことだ。カンビールを飲んでいる人も見かけない。酒のないおつまみほどやりきれないものはない、と日ごろ感じている自分からしたら、これはほんとうにもったいない。かといって、台湾夜市で酒の飲み歩きなんてしようものなら、地元の人たちはきっとヘンな人がまぎれこんだと思ってウヘェーと顔をしかめて離れていってしまうだろう。やはりこれは文化の違いなのだ。

 最後に金樹鳳梨氷というジューススタンドで、新鮮なパイナップルジュースを買って帰路についた。

 張さんは僕らをホテルまで送りとどけると、をお土産において帰っていった。自慢の家庭料理だ。僕らはロビーのイスに座り、張さんからいただいた粽をもぐもぐとほうばった。

 とまあここまでは、いたってフツーの晩メシの範疇であるから、とりたてて問題のある行動ではない、と思っている。

 しかし次の日もこの日と同じようにまたどこかの夜市をさまよい歩くことになり、はしご酒ならぬはしご屋台を続けてやってしまったことが、結果として、いっきに体重をふやしてしまったことへのほんとうの意味での“過ち”であったことはやっぱり間違いなかったと断言できるのである。

***台中豐原で屋台めぐり***

屋台メシのもんだい




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  1. 台中
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夜が更けたらまぜまぜソース

 高雄旗津に来た。まえに隆君とフェリーに乗って来たことがあったけれど、今日はその隆君と、同じく高雄のファンちゃんとで車で海底トンネルを抜けてやって来たんである。

 台湾に来るといつも約束をしていたわけでもなのにみんな僕を遊びにさそってくれるから、孤独なひとり旅によくある「人生とは何か」とか「自分とは何か」などと、自己の内面を深く見つめなおすという機会がなかなかやって来ない。

 とはいっても、見つめなおしたところでしょせん僕になど何もわかりはしない、ということもよくわかっているから、たとえひとりで過ごしていたとしても、結局はボーッと気泡コンクリ頭のままただそれを眺めているだけなんだな。だからみんないつも相手をしてくれてほんとうにありがたい。

 旗津高雄の西にある砂州といわれるほそ長い半島で、なかでもひときわにぎやかな廟前路という通りの両側には、氷のうえに新鮮な魚介類をならべた海産物店や、煎餅やおやつなどのいろとりどりな食べ物の屋台がいくつもひしめき軒をつらねていた。

 それでもやはり夜の10時過ぎともなれば、たとえ今日が日曜日であったとしても、人は閑散となり、店じまいをはじめる店もちらほらでてきた。

 僕らはすでに晩飯を済ませたあとだったので、海岸からふきつけてくる風にあたりながら、すこし静かになった夜の港街を散歩していた。

 そんなころ、ガラスケースの向こうに緑色に赤い色が混じったまるい果物をならべている店があった。果物はガラスケースのまえにも山盛りにつまれている。

 隆君とファンちゃんは、まるで察したかのように、路上の、すでに誰もいなくなったテーブルについて、僕のためにその果物を注文してくれた。

 皿に盛られてでてきたのは、どうやらトマトのようである。ほとんど緑色をしていたけれど、カットされた中身をみたら、もうまったくもってトマトだったんである。そして、トマトといっしょにできてたお椀には、茶色い液体に白色の練りもののようなものがプカプカと浮いていた。

 この食べ物、台湾では蕃茄切盤というらしい。いわゆるカットしたトマトなんだけど、店先のメニューボードをみると古早味とか沾醤という文字もいっしょに書かれてあって、ファンちゃんが教えてくれたことによればそれはソースのことで、高雄では古早味沾醤ソーストマトにつけて食べる、ということであった。

 僕は教えてもらうままに、ソースの材料である醤油砂糖おろし生姜を、箸ばこからつまんだ箸をつかっておもいきり高速でかき混ぜた。さいしょ水っぽかった液体は、みるみるうちにどろどろの液体にかわって、街灯の明かりのなかでてらてらとあやしく光った。

 これってトマトにあうんかいなあ、と僕はなんだかキツネにつままれたような思いで、つまようじに突き刺したトマトをソースの中にころがしてから一口で食べてみた。熟しすぎていないトマトのすっぱさに、あまくてしょっぱくてすこしホットなソースがからみあって、いままでに体験したことのない不思議なカンカクが舌先と表面にひろがった。塩をかけて食べる文化に古くから慣れ親しんできた身としては、おまえは果物なのか、それとも野菜なのかと、トマトに問いかけてみたくなったが、この食べかたをしてもビールにあうのはきっとまちがいなかった。

 店のちかくには天后宮があって、今日もたくさんの赤ちょうちんがぶら下がっている。まえに来たときはまだ昼間だったから、青い空と赤い球体のコントラストが印象的だったけれど、夜の今日は、黒い空を、くっきりと赤くてまるい形にいくつも切り抜いていた。

***夜の旗津にて***

夜更けのまぜまぜソース




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  1. 高雄
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ターワンからの警告

 たとえば、高雄に来ているときは高雄がいちばんだと言い、宜蘭に来ているときは宜蘭がいちばんだと言う。

 そんなわけで、やっぱり宜蘭がいちばんだ!と昨日から宜蘭に来ていてそう思った。居心地はいいし飯もうまいし人もいい。まあ、はやい話がきまぐれなんだ。

 昨日あそびにきてくれた宜蘭のフミオ君に、駅ちかくの牛肉麺のお店をおしえてもらったので昼になって来てみた。

 その大成羊排麵・牛肉麵という飯屋は、なんでも羊肉を煮込んだ羊排麺という麺がイチオシだということだ。

 店の場所はすぐにわかった。宜蘭の街はわかりやすく歩きやすく、旅行者として滞在するにはとりわけ快適なところで、特にあまりわかっていない自分のような無頓着ニンゲンでも、わりとカンタンに目的地をみつけられたりする。

 腹も減っていたので、その羊排麺を、大盛り大碗(ターワン)で注文した。

 羊の肉はけっこう味が濃い。麺がちょうどご飯代わりになる。だから肉と麺を交互に食べる。モチみたいな麺は噛んでも噛んでもモチモチしていて腹もちもよさそうだ。

 シャツにはねつける汁玉のことなんて気にしない。八角の香りが染み込んだスープを、肉と麺の残りといっしょにズビズビズビリと飲みこんだ。いやあ、けっこう食った。もうおなかいっぱい。げほっ。

 イスの背にもたれてふくれた腹をさすっているところ、こんどは宜蘭のミツル君からメッセージがはいった。これからいっしょに泰雅族の村にいって飯を食おうというものだ。

 僕はこのあとで何をする予定もなくて暇だったので「おうおう、行く行く!」と即決した。あれれ、しまった。いまさっき大盛り麺を食ったばかりじゃあないのか。げぷ。

 かくして、ミツル君と宜蘭駅で待ち合わせをすることになった。ここから決してとおくないところだったけれど、駅まで歩いて、すこしでも腹を減らそうとかんがえた。

 泰雅はタイヤルとよんで、台湾の原住民だからおそらく日本人みたいに酒飲みだ。これからいったいどうなるかわからない。できるかぎり腹の中身を消化していかないとこれはたいへんなことになりそうだ。

 レンガ造りの宜蘭駅舎の前はちょっとした広場になっていて、花壇や木のベンチが、厚い雲の隙間からこぼれおちる午後の光にうっすらと照らされていた。今日は土曜日のためか、利用客は比較的すくないようで、のんびりとした時間がながれていた。

 ミツル君は駅まで車でむかえに来てくれることになっている。僕はベンチのはしっこに腰をおろして、ミツル君からのメッセージがはいるのを待っていた。そして、麺を大盛りにしたことをすこしだけ後悔していた。
***大成羊排麵から宜蘭駅へ***

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  1. 宜蘭
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断崖!断崖!また断崖!!

 ポジティブでアグレッシブなチョウさんはそのほそい体で崇徳隊道からつづくけもの道をひょいひょいと登っていった。

 草と小枝がからみあう藪の向こうからはいつ蛇が飛びでてきてもおかしくなかったし、ながいあいだ人びとが歩いてこなかったことはその荒れ方からしてあきらかだった。

 そのためか、かろうじて一人がやっと通れる狭い道は、蜘蛛の巣がいたるところに張りめぐらされて、それがいつも顔や首にペタペタとひっかかった。

 このままいったらいつか蜘蛛の巣ニンゲンになるんじゃないかと心のどこかでメランコリーになっていると、チョウさんも同じことを心配していたのか、ちかくにころがる棒切れを拾いあげて、そいつをボキボキへし折り、ほどほどのながさにして、顔の前方あたりでぶんぶん振りまわし振りまわして歩みを再開した。

 それにしても暑い!暑いったらない!けもの道には湿気と熱気がとぐろのように渦まいているようでとにかく暑かった。メガネは汗でずるずると落ちるし、そのうえ暑さでもうろくした頭で歩いていれば、いつか足を滑らせ底までころげ落ちてしまうかもしれなかった。首にかけたタオルはひとしぼりするだけで、ペットボトルがいっぱいになるんじゃないかというほど、僕の汗をやたらめったに吸収していた。

 藪をぬけると石が階段状に積みあげられた場所があらわれて、その石段を登っていくと、石と岩ばかりがゴロゴロころがる無機質なひろい傾斜地にでた。草は数えるほどしかなく、木々ははるか先のほうまで生えていなかった。

 傾斜はとちゅう幅1メートルくらいの歩道にいったん分断されて、下方の海岸に向けてその勾配をさらにきつくしてくだっていた。

 風は今までとうってかわってよく通り、額や首の汗水を小気味よく乾かしはじめた。

 僕がちょっと立ち止まってひと息いれているあいだに、チョウさんはずんずん歩いていった。僕はあっというまに取り残された形になった。僕のいる場所からはチョウさんの姿がどんどん小さくなって、豆粒のようになってしまうのがみえた。

 チョウさんを追って足元の石ころに力をこめて急ぎ足で歩いていくと、ふいに斜面が尽きて、午後の陽のなかにおそろしいほどの蒼さでひろがる海がみえた。そして海面につかるように、切り立った崖が、自然のつくりだした巨大な要塞のように黒色の層と白みがかった色の層を交互にしてどこまでもつづいていた。そこが石硿仔古道からみた清水断崖だった。

 崖が急角度で落ちるこのあたりの海は深く、岸からすぐ近くで深海になっているため、マンボウがたくさん捕れるんだということをなにかの本で読んだことがある。深海に住むマンボウはその巨体に似合わぬ弱い魚で、さわれば手形が残り、おどろいて壁などにぶつかればたちどころに死んでしまう。そんなひ弱でおくびょうなマンボウが、こんな険しくも厳しい難所で、のんきな顔とあの小さな両ヒレで今日もピヨピヨと泳いでいる姿を想うと、なんだかおかしかった。

 頭上にはいつの間にか雲があつまって、ぱらぱらと雨が落ちてきた。岩と石だらけの開けっぴろげな斜面には身を隠すものなどまったくない。僕たちは岩場を降り、もと来た道を引き返した。

 海岸に隣接する広場につながる坂道をくだっていく途中で、チョウさんは僕の異変に気がついてしまった。この数日のあいだ、蚊やヌカカたちに喰われつづけてきた僕の両足はいたるところに赤い円形状のふくらみができて、そのちょうど中心の刺されたあたりは黄色い体液がにじみ、外気にふれていくつもかさぶた状に凝固しはじめていた。

 チョウさんは、水で洗えばよくなると言って、浜の近くにあった水場で足を清めることをすすめた。僕はズボンの裾を股までたくしあげると、蛇口をひねり、びしゃびしゃと水道水を足にかけた。水は思いのほかひんやりとして、かさぶたもかゆみもいっしょに流れて落ちていく気がした。そして、それまでのむくんでほてった感じもスーッと引いていくようだった。

 浜では黄色いラインがはいったトカゲがたくさんいた。このトカゲはどこかでみたことがあった。それはいつの日か墾丁の海岸でみたのと同じ種類のトカゲだった。そんなことを、とおい花蓮の断崖で思いだしたりしていた。

***石硿仔古道から清水断崖をみた***


断崖!断崖!また断崖!!




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  1. 花蓮
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崖下のへび

 午前中に太魯閣長春祠を散歩してからその足で清水斷崖に向かった。

 清水斷崖というのは、聞くところによると清水山という標高およそ2,400メートルの山のてっぺんから、4,000メートルほど進んだところでストンと海に落っこちる、いわゆる断崖絶壁のことをいうそうだ。

 数字だけみてもあまりピンとこないがこれは結構すごいことらしい。というのも、中学校のときに社会科の地理の教科書でノルウェーのフィヨルドというのがあったけど、そんな有名どころでもせいぜい1,000メートルあるかないかの高さというから、どうもこれはほうってはおけないということになった。

 チョウさんの運転するバイクは、今日もとばし過ぎずのゆっくり過ぎずのポポアな感じだった。あっ、ポポアは台湾語で「まあまあ」って意味ですね。

 台湾東の宜蘭花蓮を南北につなぐ蘇花公路という国道をひたすら走った。道路はクネクネと曲がりくねりながらつづいて、大型トラックやダンプカー、それにたくさんの観光客を乗せたバスが、排気ガスをぶんぶん吹きちらしながら隊列を団子にしたり離したりして、日本の原付とさしてかわらない僕ら二人乗りのバイクといっしょに、おたがいに伸縮をくりかえしながら進んでいった。

 長春祠を発って30分くらいそうした風景がつづいていたんだけど、やがてトンネルを抜けでるときがあって、視界にふたたび白い光がもどってきた。それと同時に、左方面には黒々とした鋭い崖が、右方面には陽光をいっぱい浴びた水色の海があらわれた。

 海は崖の下にあって、いま走っている道路こそ水平を保っていたものの、崖は左上の山から右下の海岸まで、そのままの傾斜でいっきに切れ落ちる絶え間ない連続だった。海岸では激しい波が岩にぶつかり、白い泡となって砕けているのがみえた。

 バイクを降りたらひさしぶりの地面の固定感にホッとしてかるく伸びをした。ちかくには清水斷崖とかかれた案内石があった。ついでに太魯閣國家公園も併記されて、これも太魯閣の一つであるんだなとこのときはじめてわかった。

 ちょっと気になったのでスマホで現在地を調べてみたら電車でも来れることがわかった。最寄りは崇徳駅で各駅停車しか停まらないんだそうだ。さらに駅を降りて蘇花公路を歩いくとあったので、僕はとっさに大型トラックやダンプカーや観光バスがひっきりなしにビュンビュン走るあの国道を思いかえした。

 これは小心に小心を重ねたうえでココロして挑まないと、ちょっとした油断の欠落でいったい自分の身にどんな災難がふりかかって来るかわからないぞ。あっ、ちなみに小心は「気を付けろ」のことですな。

 チョウさんは「あんたね、ここはまだほんとうの清水斷崖じゃあないんだよ。実はこの先に取っておきのところがあるんだからね」と言った。「えっ!?ここが清水斷崖じゃあないっていうんかい?はい、そうかい、わかりました。でも僕にとってはこれでもう十分すぎるほど断崖絶壁じゃないのかよ。するってえとあれかい?オソロシイにもほどがあるじゃあないか!」僕はチビりそうになった。

 チョウさんは無言のまま、崇徳隊道の崩れかけたトンネルの脇にある石ころだらけの未舗装のけもの道へ歩いていった。そして赤いDANGERの文字との絵がはいった立入禁止の札がついたロープを何もなかったようにひょいと飛びこえて、藪に包囲された傾斜をぐんぐん登っていってしまった。チョウさんはうしろを振りかえることはなかった。僕はただもうだまってチョウさんのあとについていくしかなかった。

***清水断崖へ***


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  1. 花蓮
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ヒノキの森と低気圧

 宜蘭の友だちのミツル君の車に乗って羅東林業文化園區まできた。羅東駅からも歩いて10分かからないというから電車でもこられる場所だ。羅東駅宜蘭駅から3駅はなれたところにあるからそんなに遠くもない。

 僕はミツル君に「僕にとってはじめての宜蘭なのに宜蘭で遊ぶんじゃなくていきなり羅東ってちょっとさみしいじゃないか」と言ったら、ミツル君は「ぼくの実家なんだからしかたがないじゃないか、でもぼくの故郷だからこそキミに案内してあげたいんだよ」と、父親の車を借りてくるほどの張りきりようだった。

 僕はガイドブックにあまり紹介されないような派手じゃない場所がけっこう好きだったりするので、実のところ、そうした場所に行けるということがけっこううれしかったりしていた。

 雨は小雨ていどのものだったけれど、降ったりやんだりを繰り返して、傘がいるのかいらないのかわからない、ふりかけみたいな空だった。だけどはなっから僕は濡れちゃこまるような柄でも性格でもないのでさして気にもならない。

 園内にはいると古めかしい木造の日本風の駅舎が建っていて、すぐちかくの枕木のうえには丸太を積んだ蒸気機関車が乗っかっていた。「ここはむかし竹林駅だったところで森林鉄道が走っていたんだよ」と、ミツル君はいささか控えめにしかし得意げに言った。かつて、台湾の北東にある太平山から木を切りたおしては鉄道にのせてこの竹林駅まで運んでいた、ということであった。

 見わたしてみると、このひろい敷地のまんなかには貯木池というこれまたひときわおおきな池があって大量の木がぷかぷかと漂流していたから、これは太平山から運んできた木材を保管しておくためにつくられた池だということもわかってきた。

 付近にはやはりなんだかむかしの日本の建築様式をおもわせる森産館森活館森動館といった、やたら森づくしな名前の建物があって、その内部は自由に見学できるんだという。

 僕たちはそのうちの森産館に靴を脱いであがった。玄関のちかくに切り株で台湾島を形づくったモニュメントがあって、同時にツンとした木の濃厚なにおいが鼻をついた。ヒノキだ。そうすると山から運んできたという木も池に浮かんでいた木もさっきの駅舎もヒノキということになるんだろうな。

 ついでに森活館ものぞいてみた。靴を脱ぐ度に僕は「ウランティレボウ」という最近おぼえたての台湾語をつかってみた。それは「ごめんください」という意味の言葉で、実際になかのひとに通じたかどうかわからなかったけれども、それをみたミツル君は、すこしはずかしそうに、照れたわらいを浮かべていた。

 森活館にはむかしの小道具らしきものがたくさん展示されているようで、畳の部屋にはなつかしい黒電話があったり、年代もののストーブのうえには今にも沸騰しそうな旧式の丸いやかんが乗っかったりしていた。

 ミツル君は僕よりもひとまわり年下だったので、僕は「ミツル君はこの時代を知っているかい?」とエラそうに聞いてみた。ミツル君は「哈哈哈~」とあいまいな返事をした。

 雨もやんだので、僕たちは貯木池のまわりを歩いた。水のざわめきにまじって、ちかくの木陰から野鳥が飛びたつ音と、チチチと鳴く声が聞こえて、5月のおわりといえども、地上からむらむらとよじのぼってくる蒸気は、けっこうそれなりに暑かった。

***羅東ヒノキの森公園***

ヒノキの森と低気圧




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  1. 宜蘭
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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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