台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

涼山瀑布、そのざわめき

 つぎに車を降りたのは瑪家遊客中心という観光案内所に隣接する駐車場だった。僕らの他にも何台か車が停まっていたことから、どうやらこちらは休業ではないようだ。

 案内所は、どこか民家を模した造りになっていて、ところどころに原住民族の文化を思わせる色とりどりの装飾がしてあった。

 リブヲが案内所のお兄さんに何かを聞いている横で、僕は、カウンターに並んだパンフレットを無作為に取ったり戻したりして眺めていた。パンフレットには屏東瑪家といった文字が印字されてあって、今いる場所が屏東県瑪家郷であることがわかった。

 「これから1キロ。山道を歩く。いいか」

 扉を出るとき、リブヲはくるりと振り向きなんとなく不安そうな顔をして言った。

 「おい、本気か?こんな暑い日にそんな山道なんか歩かなくったっていいだろ。それにしても、その先にいったい何があるっていうんだい」

 僕はちょっと嫌だなあと思いつつも、しかしリブヲのことだから何かおもしろいことでも企んでいるのかもしれないと思って聞き返した。

 「滝がある」

 暑い日に山道を歩くのはそれなりの体力と汗まみれになる覚悟が必要だ。しかし、着いた先で滝の水にあたることができれば、それはそれで涼しくて気分がいいんじゃないかと考えた。

 「なるほど。そうだな。せっかくここまで来たんだから。いこうか」

 山道とはいっても、ところどころに木の歩道が整備されていて、けっして足場が悪いというわけではない。それでも、階段と登り坂をいつ果てるともなく繰り返していればいつかはへたばってくるものだ。

 リブヲは山歩きとはほど遠いいかにも休日用サンダルをひっかけて、先へ先へとどんどん歩いていった。その後ろ姿は、故郷にもどり、これから本来の台湾人に着々とかえっていこうとする意思の表れに重なって見えた。

 僕は途中で何度か立ち止まっては写真を撮りつつ歩いていたが、そのうちに、写真を撮るのは言い訳で、じつは休憩をするために立ち止まることが多くなっていた。

 眼下には山の斜面につづく水のながれがあった。ときおり、せき止められたように水がゆるやかな場所があり、水遊びをする子供たちの姿があった。透明な水は、何よりも冷たそうに見えた。

 そんな風景を幾度か通り過ぎていると、ふいに歩道が途切れ、かわりにゴツゴツしたむき出しの岩が現れた。岩と岩とのあいだは、水があふれざわめきたっている。

 最初に作ったままその後ほとんど手入れをしていないようなゴム製のかたいロープが岩壁の先に向けて打ち付けてあった。僕はカメラをカバンにしまい、カバンを体に固定した。そして、自由になった両手でロープをつかむと、水に落ちないようにゆっくり岩場を登っていった。

 岩場を越えるとザーという間断のない音のなかに、小さな滝があった。こまかい水のかけらが露出した腕と顔に何度もとんできた。

 僕らはちょうどいい感じの石を見つけて、お互いすこし離れて座った。さっきまで地表からこみ上げていた熱も、ここでは休止していた。滝の音の隙間から鳥の声が聞こえた。

 それから、リブヲに教えてもらった涼山瀑布という滝の名前と写真を、僕らが同時にいた証としてSNSに記録した。

***屏東県瑪家郷の涼山滝***

涼山瀑布2


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  1. 屏東
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ココロの休館日

 「あした高雄の会社面接する」

 永遠に終わりが来ないんじゃないかと思えるくらい道は容赦なくどこまでも続いていた。運転席のリブヲは、右側車線の前方に決意の視線を向けていた。

 「オレ、来月で東京の会社やめる」

 「おい!そうか。そうなんだな。じゃあこんどこそ本当に台湾人にかえっちゃうんだな。もう、日本語は話さないし、話せなくなるんだな。そうなんだな」

 はたから見たらいくらか動揺が入り混じったヘンに脅迫めいた言葉が口をついた。

 リブヲはハンドルを握ったまま、その問には何も答えようとしなかった。

 ビンロウの木とマンゴー畑が途方もなく広がる緑の平地に、いっぽんの道路がゆったり横たわっている。その上を、大量の野菜をくくりつけた原付バイクが、トコトコ音をたててドアの横を後ろに過ぎていった。

 それまで遠くで白くかすんでいた山々も、本来の荒々しい濃緑色をさらけだしてきた。風景にも、民家や店がぽつぽつと増え、徐々に街のすがたを形成しはじめていった。屏東県の三地門は、台湾原住民のルカイ族やパイワン族が多く住んでいる地域と聞いていた。

 車はいくつかの角を曲がり、山裾らしいゆるやかな勾配に入っていった。

 「ここはつり橋がある。見るか?」

 「お、うん。そうだな。見よう。見ようじゃないか」

 台湾原住民族文化園區とかいた案内版を過ぎると、やがてゲートらしきものが見えてきた。目の前に降りるバーの先には、広い駐車場があった。

 「ちょっと待てろ」

 リブヲはそう言って運転席のドアを開けると、ゲートの近くの受付小屋に走っていった。掃除をしていたおじさんに、何やら交渉をもちかけているふうだった。

 少し経ってから、リブヲは車に引き返した。そこには、肩を落としてがっかりした様子があった。

 「きょうは休みだ。休業だ。でもお願いしてみた。やっぱり入れない。ダメだった」

 「そうか、まあ別にいいよ。いいんだ。僕は気にしないよ」

 「月曜日だからな。月曜日は休みがおおい」

 「仕方がないよ。日本じゃお盆休みでも、台湾は平日なんだ。みんな仕事しているだろ。でもせっかく来たんだから、写真だけでも撮らせてもらうよ」

 車を降りると、幾重にも連なる山々が視界いっぱい見渡すことができた。おおきく空気を吸って、おおげさに吐きだしてみた。夏らしい心地のいい山風が吹いている。ふと、山の中に小さな橋がかかっているのを見た。

 「琉璃吊橋だ。写真撮ったら、つぎ、行くぞ」

 僕は、ズーム機能のないカメラで、少しずつ方角をかえながら何枚か写真を撮ってから、リブヲの車に乗り込んだ。

***台湾原住民族文化園區の前で***

台湾原住民族文化園區




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  1. 屏東
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あかるい左營、あの日の予兆

 「どこでもいいよ。ほんとうだ。もうどーこだっていいんだよ。でもまあ、あえて行きたいところをあげるとするならば、インスタ映えするところかなあ」

 「わかた。どこでもいんだな。じゃオレ10時に左營で待てる」お決まりのいいね!でリブヲとのメッセンジャーは終了した。

 朝、台中から左營へ移動する。連休のグズグズ感覚が染みついた体からしてみれば、けっこう早いくらいの時間であったが、滞在の期間もそれなりに限られている一般の旅行客でもあったので、そんな試練もよろこんで受け入れた。

 台中駅から台鐵區間車に乗って新烏日駅に着いた。すこし歩けばここにもまた台中駅がある。台湾高速鉄道という新幹線がはしる台中駅である。節約のため指定席をケチって買わないでいたが、自由席でもかなりの余裕があったので、ちょっと得した気分になった。

 高雄左營駅の改札を抜けたところで、リブヲは待っていた。普段いつも東京で会っていたリブヲであったが、こうして外国の地で改めて会ってみると、なんだか不思議な気持ちになった。もっとも彼からしてみれば高雄は故郷であり、僕はたんなる外国人にすぎないのである。

 「おいそれ、ちょっと恥ずかしいな」リブヲは僕の顔をいちべつすると開口一番に言った。

 僕は台中からあの変顔マスクを着けたままここまで来ていたのだ。

 「仕方がないんだよ。風邪をひいたらしい。別に君にうつす気はないよ。でもうつしてしまったら、すまない」

 「そうじゃね。そのマスクおかしいな。おかしい人間にみえるな、キミは」

 「よく言うよ。台湾人はいつもみんなこうして変なマスクしているんじゃあないのかよ。台湾で売ってたんだぜこのマスク。それに台湾人は個人主義でそもそも周りなんて気にならない自由勝手国民じゃなかったのかよ」

 「そうだとしても、誰もそんな変なマスクなんてしねえ」

 左營駅の駐車場は改札を抜けてエスカレーターを上がった先にある。バックパックを後部席に預けて、僕は助手席にすわった。リブヲは運転手になった。

 「いまから屏東にいく。屏東でいいな?屏東はいい景色とれる」

 車は駐車場から高雄の市街地に降り、そのまま高速道路にはいった。

 「ところで君と同じタイミングで高雄に来ることができて助かったよ。僕は何するかまったく考えてなかったからさ」

 「そうか。でも今日だけだ。明日はオレ遊んであげないな」

 「いいよ、今日いちにちだけで十分だ。ところで明日はなんの予定があるんだ?彼女がいるわけでもないのに」 

 「会社の面接な。オレ東京の会社辞める」

 フロントガラスの頭上で、鉄橋がこうこうと音を立てて通り過ぎ、車はいつしか屏東にはいっていた。

***左營の朝、そして屏東へ***

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  1. 高雄
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もうひとつの終止符

 ブンちゃんと別れてひとりになった僕は予約しておいた新しいほうの台中駅にちかい雙星大飯店というホテルにチェックインを済ませて部屋にはいった。

 最初うす暗くて古い建物だと思っていたけれど、備え付けの家具や小物など、こまかなところにも手入れがなされている雰囲気があって、いくぶん気分がよかった。

 土地勘がなかったので、受付のお姉さんに近くに食べるところはないか聞いてみたところ、エントランスを出て右手にすすんで交差点のあたりにまでいけばこの時間でも食べるところがあります、ときれいな日本語がかえってきた。

 それなりに大通りで大型のショッピングモールが建っているところだった。それでも、午後の10時を過ぎていたこともあり、店に入ってまで食べたいと思う気持ちにはなれなかった。
 
 通りぞいに、鶏楽炸鶏連鎖専売店という揚げ物屋がまだ緑色のネオンをつけていたので、テイクアウトにしてホテルの部屋で食べることにした。

 好物の鶏のから揚げにピーマン、あとはフライドポテトなどをえらんだ。店の隣りにセブンイレブンがあったので、ついでに500mlの台湾カンビールを買ってホテルにもどった。

 部屋に入ると同時に両脚にドスンとしずむような重みがあった。たまってた疲れが一気にでたようだ。今から5年前。ホテルからタクシーをとばして逢甲夜市でのべつまくなし食いまくっていた時代はもう遠い昔になってしまったか、と思ったら、すこしかなしくなった。
 
 テレビのリモコンを新聞台のチャンネルに合わせる。ニュースが永遠と繰り返される番組でその日の台湾の出来事がたいていわかるようになっている。

 女性キャスターの早口でかん高い声をBGM代わりにビールをあおる。やはり疲れていたためか、体はすぐにほてってきた。

 ところでブンちゃんは無事に自強号に乗れたのだろうか。別れの挨拶もそこそこだったので「こっちは今メシ食いながらビールで一杯やってます。そちらは駅弁とビールでおそらく素敵な旅情気分を楽しんでいることでしょう」とメッセージを送ってみた。

 メッセージはすぐに返ってきて「満席で席がとれなかったので仕方なく立って帰っています。でも心配しないでください」とかいてあった。

 無座といういわゆる席なし乗車券である。台中から台北までの2時間あまりの道のりを、ブンちゃんは飲みも食いもせずに、ただひたすら立ちっぱなしの状態で帰っていたのだ。しかも最終便という過酷な状況で。

 それを知って、胸が痛かった。それから、急速に息が苦しみだした。そして、酔いのまわりだした体の内側からから抑えきれない衝動が続けざまに胸をたたいた。それまで静かだった咳がふたたび猛威を振るいはじめたのだ。

 にわかに腹も張りだして、食べ途中だった揚げ物も、まだかなりの量が残っているように思えた。紙袋の底のほうは油の汗でしっとり冷たくなっていた。

 今回の台湾旅行でたった一日だけの滞在となった台中の夜は、断続的にときには猛烈におそいかかる陰気でしぶとい咳の闇にまみれて、その終焉をさみしく迎えていた。

***台中さいごの夜に***

台中の夜1

台中の夜2


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  1. 台中
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清水から帰ります

 陽が落ちてもうすっかり黒くなった窓ガラスに、いくつもの雨つぶが、音もなくにわかに斜めの跡をつくっていた。

 高美湿地から清水駅に帰るバスのなかで、僕はブンちゃんと一つの問題についてかんがえていた。

 さっき高美湿地に行くときに乗っていたバスは、果たして無料だったのか、という問題である。

 「支払いのときに悠遊カードからお金が引かれていなかったです。私はそう思います」

 最初にそれに気がついたのは、ブンちゃんだった。

 たしかあのとき僕の悠遊カードにはチャージ金額がほとんど残っていなかったから、そのことを多少なりとも気にかけていたはずだった。だから、悠遊カードをピッてかざすときなどは余計に注目していたに違いない。なのに、降車のときになにも起きなかったことも事実だった。でも、これで本当によかったんだろうか。

 なんだかすっきりしない妙な後味の悪さを引きずりながら、バスは清水駅前のちいさな広がりで停まった。僕らは雨からにげるように、駅舎までの数メートルを素早くかけた。

 駅舎のなかは、列車を待つ人たちがつかれた顔をしてベンチに座っておしゃべりをしていた。天井ちかくにあった扇風機は、くるくると首を振って、湿気をふくんだなまぬるい風をベンチに送っていた。

 これから區間車という各駅列車に乗って台中に帰る。僕らは切符を買い、空いていたベンチに腰をおとした。改札は閉まっていて通ることができない。列車が到着する時刻にならないと、ホームには入場できないということだった。僕らは、扇風機の残り風にあたりながらしずかに待った。

 けたたましい警笛とともに列車が到着した。車両のなかは、とびとびの間隔ですこしだけ座席が空いていたので、ブンちゃんと僕は、お互いに離れたところに自分の場所をつくった。

 車両の振幅にうとうとしかけていたところ、ふいに、どこかで聞き覚えのある駅を通過していることに気がついた。まえに、追分駅⇒成功駅のルートは縁起がよい、ということを聞いたことがあって、なんでも受験に関する御利益があるとかそういう話だった。追分駅では記念切符まで販売されているそうだ。

 せっかくだし通過した証に写真でも撮っておこうと立ち上がり、すぐちかくの電光表示をカメラにおさめた。

 席に戻るとき、それまで背中を挟んで僕の真後ろであそんでいた、まだ園児に満たないくらいの女の子供と目が合った。そのおおきく開かれたまんまるの目は、確実に僕の口元を捉えていた。

 女の子は黒い目をクリクリさせて、僕の口元(例の台湾製の変顔マスクをつけている)に向けて、くったくのない視線を一直線におくっていた。

 それからはもうすっかり僕の顔にくぎ付けになってしまったらしく、なにかにつけてはのぞきこんでやろうと躍起になって、気になって気になってしかたがない光線を背後から照射しつづけていたのであった。

 列車は台中駅に停車し、ブンちゃんは台北行き最終便の自強号のホームへと急いでいった。

***清水から台中へ***


清水駅1

清水駅2


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  1. 台中
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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

いろんな場所にいきました。

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