台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

もうひとつの終止符

 ブンちゃんと別れてひとりになった僕は予約しておいた新しいほうの台中駅にちかい雙星大飯店というホテルにチェックインを済ませて部屋にはいった。

 最初うす暗くて古い建物だと思っていたけれど、備え付けの家具や小物など、こまかなところにも手入れがなされている雰囲気があって、いくぶん気分がよかった。

 土地勘がなかったので、受付のお姉さんに近くに食べるところはないか聞いてみたところ、エントランスを出て右手にすすんで交差点のあたりにまでいけばこの時間でも食べるところがあります、ときれいな日本語がかえってきた。

 それなりに大通りで大型のショッピングモールが建っているところだった。それでも、午後の10時を過ぎていたこともあり、店に入ってまで食べたいと思う気持ちにはなれなかった。
 
 通りぞいに、鶏楽炸鶏連鎖専売店という揚げ物屋がまだ緑色のネオンをつけていたので、テイクアウトにしてホテルの部屋で食べることにした。

 好物の鶏のから揚げにピーマン、あとはフライドポテトなどをえらんだ。店の隣りにセブンイレブンがあったので、ついでに500mlの台湾カンビールを買ってホテルにもどった。

 部屋に入ると同時に両脚にドスンとしずむような重みがあった。たまってた疲れが一気にでたようだ。今から5年前。ホテルからタクシーをとばして逢甲夜市でのべつまくなし食いまくっていた時代はもう遠い昔になってしまったか、と思ったら、すこしかなしくなった。
 
 テレビのリモコンを新聞台のチャンネルに合わせる。ニュースが永遠と繰り返される番組でその日の台湾の出来事がたいていわかるようになっている。

 女性キャスターの早口でかん高い声をBGM代わりにビールをあおる。やはり疲れていたためか、体はすぐにほてってきた。

 ところでブンちゃんは無事に自強号に乗れたのだろうか。別れの挨拶もそこそこだったので「こっちは今メシ食いながらビールで一杯やってます。そちらは駅弁とビールでおそらく素敵な旅情気分を楽しんでいることでしょう」とメッセージを送ってみた。

 メッセージはすぐに返ってきて「満席で席がとれなかったので仕方なく立って帰っています。でも心配しないでください」とかいてあった。

 無座といういわゆる席なし乗車券である。台中から台北までの2時間あまりの道のりを、ブンちゃんは飲みも食いもせずに、ただひたすら立ちっぱなしの状態で帰っていたのだ。しかも最終便という過酷な状況で。

 それを知って、胸が痛かった。それから、急速に息が苦しみだした。そして、酔いのまわりだした体の内側からから抑えきれない衝動が続けざまに胸をたたいた。それまで静かだった咳がふたたび猛威を振るいはじめたのだ。

 にわかに腹も張りだして、食べ途中だった揚げ物も、まだかなりの量が残っているように思えた。紙袋の底のほうは油の汗でしっとり冷たくなっていた。

 今回の台湾旅行でたった一日だけの滞在となった台中の夜は、断続的にときには猛烈におそいかかる陰気でしぶとい咳の闇にまみれて、その終焉をさみしく迎えていた。

***台中さいごの夜に***

台中の夜1

台中の夜2


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清水から帰ります

 陽が落ちてもうすっかり黒くなった窓ガラスに、いくつもの雨つぶが、音もなくにわかに斜めの跡をつくっていた。

 高美湿地から清水駅に帰るバスのなかで、僕はブンちゃんと一つの問題についてかんがえていた。

 さっき高美湿地に行くときに乗っていたバスは、果たして無料だったのか、という問題である。

 「支払いのときに悠遊カードからお金が引かれていなかったです。私はそう思います」

 最初にそれに気がついたのは、ブンちゃんだった。

 たしかあのとき僕の悠遊カードにはチャージ金額がほとんど残っていなかったから、そのことを多少なりとも気にかけていたはずだった。だから、悠遊カードをピッてかざすときなどは余計に注目していたに違いない。なのに、降車のときになにも起きなかったことも事実だった。でも、これで本当によかったんだろうか。

 なんだかすっきりしない妙な後味の悪さを引きずりながら、バスは清水駅前のちいさな広がりで停まった。僕らは雨からにげるように、駅舎までの数メートルを素早くかけた。

 駅舎のなかは、列車を待つ人たちがつかれた顔をしてベンチに座っておしゃべりをしていた。天井ちかくにあった扇風機は、くるくると首を振って、湿気をふくんだなまぬるい風をベンチに送っていた。

 これから區間車という各駅列車に乗って台中に帰る。僕らは切符を買い、空いていたベンチに腰をおとした。改札は閉まっていて通ることができない。列車が到着する時刻にならないと、ホームには入場できないということだった。僕らは、扇風機の残り風にあたりながらしずかに待った。

 けたたましい警笛とともに列車が到着した。車両のなかは、とびとびの間隔ですこしだけ座席が空いていたので、ブンちゃんと僕は、お互いに離れたところに自分の場所をつくった。

 車両の振幅にうとうとしかけていたところ、ふいに、どこかで聞き覚えのある駅を通過していることに気がついた。まえに、追分駅⇒成功駅のルートは縁起がよい、ということを聞いたことがあって、なんでも受験に関する御利益があるとかそういう話だった。追分駅では記念切符まで販売されているそうだ。

 せっかくだし通過した証に写真でも撮っておこうと立ち上がり、すぐちかくの電光表示をカメラにおさめた。

 席に戻るとき、それまで背中を挟んで僕の真後ろであそんでいた、まだ園児に満たないくらいの女の子供と目が合った。そのおおきく開かれたまんまるの目は、確実に僕の口元を捉えていた。

 女の子は黒い目をクリクリさせて、僕の口元(例の台湾製の変顔マスクをつけている)に向けて、くったくのない視線を一直線におくっていた。

 それからはもうすっかり僕の顔にくぎ付けになってしまったらしく、なにかにつけてはのぞきこんでやろうと躍起になって、気になって気になってしかたがない光線を背後から照射しつづけていたのであった。

 列車は台中駅に停車し、ブンちゃんは台北行き最終便の自強号のホームへと急いでいった。

***清水から台中へ***


清水駅1

清水駅2


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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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