太麻里の駅で

 2013年8月21日 台東

 夜の間降りどうしだった雨はすっかり上がっていた。今日は天気がいいので太麻里に行こうと決めた。

 でも本当は行き先なんてどこでもよかった。どこかに行ってみさえすれば何かが起こる気がしていた。台湾にいるといつも思うことなんだけど、自分が旅をしているというよりも、台湾の人たちが僕に旅をさせているんじゃないかと思うことがある。自分から何かをしようと思わなくても、みんなが僕に何かをしてくれる。

 道に迷子になったら先を教えてくれるし、暇そうにしていたら話しかけてきてくれるし、腹が減ったと言ったら何かを食べさせてくれる。

 思いがけない出来事がきっとどこかに仕掛けられていて、それが思ってもないタイミングで突然にやってくる。

 それが、僕が持っている台湾の一番の印象だった。

 太麻里という名前にどことなく懐かしい雰囲気を感じていたから少し気になってはいた。列車で行ってもよかったんだけど、ホテルの近くにバスターミナルがあったから、僕はバスを選んだ。

 バスターミナルは台東の市場の真ん中にあった。窓口の人がちょっと怖そうな顔したおじさんだったので、僕はちょっといやだなあと思っていたんだけど、他に人がいないみたいだったから、思いきって聞いてみた。


 ちゅい、たいまーりー (行く、太麻里に)


 おじさんは僕の下手くそな発音に一瞬だけ固まったみたいだったけど、すぐに分かったような顔して、おもちゃみたいな券売機をカタカタ押したら、今にでも風に飛んでいってしまいそうな頼りのない切符が出てきた。おじさんは思ったほど怖い人じゃなかったから、切符を受け取り、太麻里に行くにはどのバスに乗ればいいのかと聞いたら、 目の前のバスだよ と教えてくれた。

 発車まで少し時間があったので僕は待合のベンチに腰を下ろした。

 まわりを見回すと、野菜をいっぱい持ったおばあちゃんや、孫といっしょのおじいさん、やっぱり買い物袋をたくさんもったおばさんたちがいて、みんな世間話をしてのんびりバスを待っていた。

 僕が乗ろうとするバスがぶぶぶるるんといったけど、僕以外に乗る人は、魚の入ったビニール袋を持ったおばさん一人だけだった。

 バスに乗り込むときに太麻里と書かれた切符を運ちゃんに見せて、さらに言葉で たいまーりー と加えた。

 これはバスで降りる場所を間違えることが得意な僕が、苦難の末に生み出した究極の保険だった。僕が降車ブザーを押す場所を間違えたら、運ちゃんはきっとこんなことを言ってくれるはずだった。



 ここじゃないよ、この先だよ!

      とか

 ここじゃないよ、もう過ぎたよ!

      とか。



 やっぱりちょっと不安だったので、前の座席に座っていた魚のおばさんにも、太麻里と書かれた切符を見せて たいまーりー と聞いていた。

 バスは予定通り40分くらいで太麻里に到着した。停留所から見ると、食べ物屋さん、雑貨屋さん、民家が、大きい道路に沿って並んでいたけど、この200メートルくらいの賑やかな通りから離れるとしばらくはなにもないみたいだった。

 僕はこれからどうしようかと考えた。そういえば太麻里に来て何をしようか、何も考えていなかったんだ。

 暑いこともあるし、とりあえず駅で休もう。ついでだから帰りの方面の列車がいつ来るのかも確かめよう。ちょうどいい時間があったらその列車に乗って帰ってもいい。目的地は太麻里駅だ。台湾で駅は站と書く。だから僕は太麻里站を目指すことになった。

 太陽はひどく熱くて火傷しそうなくらいだった。僕は今度台湾に来るときは絶対に冬にしようと決めた。そんなとき、鞄の中にしまっておいた折り畳み傘を思い出した。にわか雨のお守りとして持ってきたものだ。傘を広げると自分のところだけ小さな日陰ができた。暑いことには変わらなかったけど、太陽が当たらないだけ楽になった。

 坂の下から見上げると、遠く、太麻里站が真夏の空にぽっかりと浮かんだ。

 駅舎は開け放たれていて、冷房はなかったけれど、ときどき吹いてくる自然の風が身体に心地よかった。壁には一枚の小さなポスターが貼ってあって、黄色い花がいっぱいの写真に金針山と書かれていた。

 窓口に駅員さんが一人いたので、何もすることがなかった僕は、ポスターの写真を指して、ここに行きたいんだけどタクシーはありますかと尋ねたら、駅員さんは首を大きく横に振った。タクシーで簡単に行けるものではないらしい。それよりも、この金針山に行くためのバスツアーが、今日の14時からあるという。時計を見ると10時だった。時間はいっぱいある。

 この後、僕は予定もしていなかった金針山バスツアーに参加することになったのである。


太麻里



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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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