レールの先は天送埤

 宜蘭駅を離れた車は田園が開けた道にはいった。遠くには山々が緑濃く連なって、台風が過ぎたばかりの空にはところどころに黒い雲が渦巻いていた。暗い外の景色とは一転して、車内はいつも明るかった。

 車はミツル君のお父さんが運転して、助手席にはミツル君のおとうと君と後ろの席にミツル君のお姉さんとミツル君と僕が座った。今日のこと、ミツル君と約束していたわけではなかったんだけれど、いったいどういう風の吹き回しか、はたまた台風によるいたずらか、いつの間にか僕はミツル君一家の車に乗っていた。

 ミツル君はメガネの奥の目を漫画みたいにキラキラさせながら「えーと、結婚するにワタシのお姉さんはどうかなあ?」と、いかにも冗談っぽく、しかし実に興味深そうに聞いてきた。僕は「結婚したいから是非そうしてくれ!」と答えた。

 そんな話の内容が聞こえたか聞こえなかったか、ミツル君のお姉さんは少しはにかんだ様子で顔を背けると肩をひくひくと小刻みにゆらした。本気と思われたのかどうかは結局のところ分からなかった。

 途中から、車は山に沿って走り、泰雅大橋に乗った。橋の上は、街灯が左右からアーチ状に湾曲していて、まるで透明なトンネルのように向こうの岸まで渡っていた。

 宜蘭駅を出てから40分くらい経ったところで車は停まった。近くに木造の青い建物があった。

 「えーと、これは日本時代に建てられた駅で今はもう使われていないんだ!」
 ミツル君は力を込めるように言った。
 「えーと、ワタシたちは前にも竹林駅に行ったことがあったね?ね?あの駅からこの駅まで続いているんだ!」
 「竹林駅かい?そんなの僕はプーツータオ(知らない)だ」
 「えーと、何言っているんだあ。ワタシが前に案内したじゃないかあ」

 以前に、ミツル君に羅東竹林駅というところに連れてきてもらった。太平山からヒノキを運ぶために造られたという森林鉄道で、宜蘭は今でも森林鉄道の旧駅舎が残っているのだ。

 青い駅舎のなかにはいると青い天井の壁に昔の時刻表が掛かっていた。太平山森林鐵路各站列車時刻表には、羅東から始まって、竹林三星天送埤清水湖牛鬥楽水ときて、最後に土場で終わる站名(駅名)が書いてあった。終点から始点を引き算すると、その間ざっと1時間半であった。

 ここは、路線のほぼ中間にある三星郷天送埤車站(天送埤駅)で、1924年に建設された。ミツル君の話によると、廃線となる1979年まで、土場駅と貯木地のある竹林駅との間で、伐採された木々の運搬が行われていたということであった。

 駅舎のなかは、時刻表の他に当時の家具やポスター、そしてだいぶ古くていかつい金庫があった。

 「ミツル君、この金庫のなか開けたら台湾元がいっぱい入っていたりするのかい?」
 「ははは、何言っているんだあ。もう入っているわけないじゃないかあ」

 あたりに民家が点々とする静かで閑散とした道路には、かつてのレールがひっそりと埋め込まれていて、それはどこか分からないところにまで続いていた。

***宜蘭三星郷の天送埤で***



レールの上は天送埤




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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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