台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

いつも待っててくれるから

 初鹿牧場を発ったバスは5分もしないうちに原生応用植物園の停留所で停まった。かなり大型の観光バスだったけど、乗っていたのは僕ひとりで、降りたのもやっぱり僕ひとりだった。

 台東の山岳地帯はむかし薬草の名産地だったと何かの本で読んだことがある。その名残なのか山線總站鹿野高台をむすぶ縱谷鹿野線バスルートの真ん中へんにけっこう立派な植物園があった、というわけだ。それでも、ひとり見学というのはさみしいもんだ。

 ゲートをくぐり雨水にぬれた板張りの通路を園の中心に向かって歩いた。ここには、原生水生薬用食用、といった幾百種類もの植物たちが集まっているというだけあって、そんな、それから果実たちが重なり合うように生い茂っていた。

 2階建てくらいの高さがある桟橋みたいなところに出た。眼下には草原が広がり、ダチョウが歩いていた。遠く、雨もやの向こうにいくつも山が見えた。それでも、視界がわるくて海までは見ることができなかった。

 途中で、薬草料理のいかにも健康そうなレストランや、ガラス造りのおしゃれなギフトショップがあったけれど、いずれにしても僕には関係のないものだった。

 次のバスで帰りたくなったから、入口にあるバスの停留所までもどった。夏休みの自由研究で来ていたのか、小さなロータリーから少し離れたところで小学校低学年くらいの男児が父ちゃんといっしょにたわいなくボール遊びをしていた。

 「まだバスが来るまで時間があるのかな。ちょっと早く来ちまった」さいきん過剰といかないまでも、少し慎重傾向にある自分の行動を思ったらなんだかさみしくなってきた。もう少し心に余裕が必要だよなあ。散歩をするかっこうで郷道に出ようとしたとき、向こうから一台のバスが猛スピードでロータリーに突入してきた。バスはぐるり扇状に一周すると、何事もなかったかのように遠心力を張りつめたままもと来た道へ抜け出てしまった。

 「あああああ!」一瞬の出来事に僕はあぜんぼーぜん立ち尽くすしかなかった。しかしそんな間もなく横目に上半身裸の男がすごい勢いで駆けていく姿があった。さっきまでボールで遊んでいた父ちゃんが、シャツを脱いで、そいつをグルグルと振り回し「うおおおおおい!」と叫びながら、バスを追っかけ始めていたんである。

 父ちゃんの必死の叫びがバスの運ちゃんまで届いたのか、バスは停留所のはるか先の、郷道を100mほど進んだあたりでピタリと停車した。僕は命の恩人となった父ちゃんと小学生の後に続いて急いでステップを駆け上がった。

 運ちゃんは意外にもたくましい風貌したおばちゃんで、僕のバス一日券をチェックするまでもなく、「あいよー!」と首を縦に振るとアクセルを踏みこんだ。バスはさっき乗って来た観光バスよりもずっと小型で、もはやマイクロバスと言っても過言でなかった。にもかかわらず、今度の車内はうって変わってほとんど満員の状態だった。

 小学生はかろうじてひとり分あった先頭の席に座った。僕は「立って行こう!」と決めて、それなら少しでも居心地のよさそうな場所へと、父ちゃんに続いて車内後方に移動した。最後部に、まだひとつだけ席が空いていた。

 父ちゃんはクルリ振り返ると「これお前のイス!」と言って僕の袖を引っ張った。「ちょっとちょっと。そしたら父ちゃんの席がないじゃあないか!僕ははじめから不要なんだ。プヤオプヤオ」僕は座らなくてもいいんだと言ったつもりだったけど、ぐんぐん速度を上げていくバスの中で何度もよろめき、それを父ちゃんが見逃すはずがなかった。

 けっきょく僕は「ドウシャ、ドウシャ(多謝、多謝)」と頭を下げて座るしかなかった。乗客でいっぱいになったバスは台東市街へずんずん近づいている。

***台東の原生應用植物園***


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台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
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