内湾線内湾往き

 「台北から来ました、ハイといいます。新竹はわたしの実家があります」

 ブンちゃんの背中で、ハイさんははにかむように、すこし控えめな感じの日本語でいった。

 「あの、はい。そうですか。なるほど」

 ふいに、私は日本語でかえしてしまった。

 ハイさんは台北の日系企業に勤めているという。そうして、日本語を話した。それにしても私は、台湾に来るときはいつも台湾人のみんなに日本語をしゃべらせているな、と思った。

 その国に来たのであれば、現地の言葉で応対するべきと思っているくせに、自分は、それができない。台湾の友だちが日本に来たとき、私は、彼らの話す台湾語なり中国語で接してあげることができるのだろうか。彼らがいつも私にしてくれているのと同じように、慣れない土地での不安を取り除いてあげることができるのだろうか。できない。できなくて、いつもこうして甘えている。これでは、愚鈍の鈍物である。

 ゴォーという風の音とともに、電車がホームに入った。ビニール張りの横長の座席に尻を降ろすと、コンコンコンと忘れかけていた咳が立てつづけにおこった。蒸し暑い空気からいっきに車内の冷気に包まれたので、なるほど、咳は体温の急激な変化で生じるらしい、ということが理屈上わかった。しかし、わかったところで、なにもできないこともわかっていた。向かいの車窓には、ねずみ色の空がながれていた。喉の奥には、しばらく違和感が残った。

 新竹から15分くらいかかって竹中という駅に着いた。内湾へ行くには竹中で乗り換えが必要ということだった。ところで、途中駅の竹東もそうであるが、どういうわけか新竹には"竹"にかんする地名が多いように思った。

 内湾往きの内湾線が来るまで40分の間があった。ホームは、ジィージィーと鳴く蝉の声と、ベンチで静かに電車を待つ人の声だけがあった。「カケコミジョウシャはオヤメクダサイ」というのは、どこの言葉だったのか。ただ、かわいた風がくりかえしTシャツの中を通り抜けていた。

 内湾線の車内はファンシーだった。乗客みんなが好きな方をむいて、それぞれが好きなことに没頭しているふうに見えた。天井はぽかぽか休日のような子供の絵があって、つり革はなにかの動物の顔の造形がほどこされてあった。車窓は田園の風景がつづいた。それから、私の咳もところどころつづいた。

 40分ほどして、電車は終点の内湾で停まった。駅舎からでると白い日射しがまぶしいくらい反射して、青空がストンとひろがった。今日は土曜日というだけあって、通りは歩く人であふれていた。暑さに体がなじんでいくにしたがい、咳はいくぶん弱まった気がした。

***新竹から内湾へ***


内湾線3


内湾線2



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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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