空っぽの後悔記念

 ガキン、ゴンゴン、ギンッ...バスが勝手にうごくから前の背もたれとか手すりの棒とか半径50cmのいろんなモノが僕の頭にゴンゴンぶつかってきたんだ。

 「僕の頭はコンクリだから痛くも痒くもないんだもんね」

 「あのねえ、たしかに頭コンクリという台湾の言葉ありますよ。でもねえ、それは頭が硬いから強い、という意味でなくて、考え方が固いとか、柔軟性がないとか、場合によってはバカという意味もあるんですからね」

 ブンちゃんはスマートフォンから顔を上げると語学の先生のようにたしなめる口調でいった。スマートフォンの画面には地図が映って東海大学とかいた敷地がでていた。そして窓の外にはいたってアカデミックな感じのキリリとした立派な門が通り過ぎていった。そういえば僕の実家のちかくにも同じ名前の大学があったな。

 自分もズボンのポケットからスマートフォンを取り出して昼飯のときインストールしておいた台湾公車通というバスアプリを起動していま走っているバス停の位置を確かめた。

 えーと、さっき台中火車站をでたばかりだから、東海大学は、と。うむむ。このあたりか。とすると清水まで残りのバス停は5か所だな。いや10か所。あれれ20、およよ30、、、おいおいまだあるのかい。そんなにバス停を置くなよ、これじゃあ一体いつになったら着くんだい。

 いつの間にかバスに乗ってくる人よりも降りていく人のほうがおおくなって、気がついたら車内は空っぽの弁当箱みたいになっていた。

 「ブンちゃん助けて!僕たち遭難したぞ!」

 「あと30分くらいで着くでしょうよ。バスは電車ではありませんから乗る人や降りる人がいない限りバス停を通り過ぎるだけです」

 そういやそうだ。いままでずっと電車ばかり乗って気がつかなかったけれど、乗降客がいない限り停まらない、というバスの基本的な作法をすっかり忘れてしまっていた。

 僕らが降りるのは終点の清水火車站じゃなくて、そのいくつか手前の華南銀行だった。よし華南銀行の表示がでたら誰よりもはやく目の前の下車鈴を押すんだ。と心に決めたとき、喉のずっと奥からムズムズと蟲みたいなものがうごめいた感じがあって、もうどこか行って消えちゃったはずだったのに、あの嫌味な咳の大群がじわじわとのどチンコをはい上がってきたんだ。ゲホゲホ、ゲッホゲホ、ホゲホゲ~。

 「さあ降りますよ」

 下車鈴はすでにブンちゃんの指で押されていた。

 「だけど、まだバスは停まってないよ。停まるまで待ってよ、まだ立つのは早いよ危ないよ」

 「座席を立ち上がって降りるという意思をはっきりと示さないとバスは停まりませんよ」

 華南銀行の時刻表に高美湿地行きのバスはなかった。でも案内図があってそれによると道路をすこし行った先の清水高中にもバス停があって、そこで高美湿地行きのバスに接続できるということだった。そうして、清水高中は歩いてすぐのところにあった。

 ちいさな日除けのついた停留所で、ブンちゃんはさっそく時刻表とにらめっこしていた。その横顔をみると、どうも事態がよろしくないような雰囲気があった。

 高美湿地行きのバスの時刻を指でなぞってみると次の発車は17時30分とある。なーんだ17時30分か。いまはまだ15時40分だから、あと2時間だな。ほう2時間か。2時間?17時30分?それはけっこうな時間なんじゃないのか!

 陽はまだ暑くて暑いし暑いったら暑い。それから、こんな知らない街の道路の前でどうやって待っていればいいんだ。途中でうんこがでたくなったらどうすんだ。

 タクシーを拾おうにも道には黄色のタクシーもなければ白のタクシーもなかった。

 ブンちゃんは、ふいにスマートフォンを持ち上げ、近くのタクシー会社を調べ、電話しはじめた。ブンちゃんはたくましい。しばらく交渉しているふうだったけど、ブンちゃんは肩をふかく落としていた。

 迎車できるタクシーはない、という電話口の対応だった。ブンちゃんは僕のガサツで身勝手な旅にとことん付き合わされたうえに、とうとうこんなところにまで引きずり込まれてしまった。ただ単に僕が無計画で無頓着だったから。なんだか悪いことをしてしまった。僕はすこし後悔した。

 知らない街の、まだ暑い陽射しのふりそそぐなかで、僕らは、いよいよ、本当に困ってしまった。

***台中の清水***

台中清水1

台中清水2


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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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