清水から帰ります

 陽が落ちてもうすっかり黒くなった窓ガラスに、いくつもの雨つぶが、音もなくにわかに斜めの跡をつくっていた。

 高美湿地から清水駅に帰るバスのなかで、僕はブンちゃんと一つの問題についてかんがえていた。

 さっき高美湿地に行くときに乗っていたバスは、果たして無料だったのか、という問題である。

 「支払いのときに悠遊カードからお金が引かれていなかったです。私はそう思います」

 最初にそれに気がついたのは、ブンちゃんだった。

 たしかあのとき僕の悠遊カードにはチャージ金額がほとんど残っていなかったから、そのことを多少なりとも気にかけていたはずだった。だから、悠遊カードをピッてかざすときなどは余計に注目していたに違いない。なのに、降車のときになにも起きなかったことも事実だった。でも、これで本当によかったんだろうか。

 なんだかすっきりしない妙な後味の悪さを引きずりながら、バスは清水駅前のちいさな広がりで停まった。僕らは雨からにげるように、駅舎までの数メートルを素早くかけた。

 駅舎のなかは、列車を待つ人たちがつかれた顔をしてベンチに座っておしゃべりをしていた。天井ちかくにあった扇風機は、くるくると首を振って、湿気をふくんだなまぬるい風をベンチに送っていた。

 これから區間車という各駅列車に乗って台中に帰る。僕らは切符を買い、空いていたベンチに腰をおとした。改札は閉まっていて通ることができない。列車が到着する時刻にならないと、ホームには入場できないということだった。僕らは、扇風機の残り風にあたりながらしずかに待った。

 けたたましい警笛とともに列車が到着した。車両のなかは、とびとびの間隔ですこしだけ座席が空いていたので、ブンちゃんと僕は、お互いに離れたところに自分の場所をつくった。

 車両の振幅にうとうとしかけていたところ、ふいに、どこかで聞き覚えのある駅を通過していることに気がついた。まえに、追分駅⇒成功駅のルートは縁起がよい、ということを聞いたことがあって、なんでも受験に関する御利益があるとかそういう話だった。追分駅では記念切符まで販売されているそうだ。

 せっかくだし通過した証に写真でも撮っておこうと立ち上がり、すぐちかくの電光表示をカメラにおさめた。

 席に戻るとき、それまで背中を挟んで僕の真後ろであそんでいた、まだ園児に満たないくらいの女の子供と目が合った。そのおおきく開かれたまんまるの目は、確実に僕の口元を捉えていた。

 女の子は黒い目をクリクリさせて、僕の口元(例の台湾製の変顔マスクをつけている)に向けて、くったくのない視線を一直線におくっていた。

 それからはもうすっかり僕の顔にくぎ付けになってしまったらしく、なにかにつけてはのぞきこんでやろうと躍起になって、気になって気になってしかたがない光線を背後から照射しつづけていたのであった。

 列車は台中駅に停車し、ブンちゃんは台北行き最終便の自強号のホームへと急いでいった。

***清水から台中へ***


清水駅1

清水駅2


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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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