蒼のうわがき

 「バイクに乗りかえてくる」

 そう言い残すと、リブヲは自宅のある方角に向けて、ブイーンと車を走らせて行ってしまった。

 リブヲの話によれば、常に駐車場を気にしていなければならない車よりも、小まわりのきくバイクのほうが高雄の街歩きにはるかに適している、ということだった。

 ホテルの前にひとり降りた僕は、チェックインのためにフロントに向かった。受付のお姉さんにパスポートを見せて、部屋のカードキーと、おそらくは使わないであろう明日の朝食券を受け取って605番の部屋にはいった。

 今晩泊まるホテルは高雄秝芯旅店という、ところどころにファンシーな趣きがあるホテルだった。値段のわりに部屋が清潔なので、空きさえあれば高雄に来るとたいていここに泊まることにしていた。

 リブヲが迎えに来るまでのあいだ、すでに死にかけていたスマートフォンを充電器にかけて、シャワーで汗をながした。

 約束の時間きっかりに、部屋の呼び鈴がなった。

 リブヲは日本に8年も暮らし続けていたためか、変に日本的に気をつかうところがあって、たとえば時間というものに対して妙に正確であった。僕はこの男のルーツが本当に台湾であったのか、いささかではあるがそんな疑惑をいくどか心もとなしに感じたものだった。

 バイクの後部座席は、並走するおおくの車が吐きだす排気ガスのにおいをのぞけば、ほぼ全身に風が吹きつけてくるので、開放的でかなり気持ちのいいものだった。

 僕らは駁二藝術特区で降りた。ここはかつて港湾の倉庫が建ち並ぶ地域であったが、現在は一新して、素人玄人ありとあらゆる人びとの芸術作品を集めたとりわけ広大な展示地区になっている。

 ちかくに自転車専用道路があり、整備された小道をよく自転車が走ってくる。西臨港線鉄道の跡地だった。芝生のあたりまで歩くと、線路に沿って犬と散歩している人の姿が見られた。ここは高雄市民の憩いの場なのであった。

 自分はもう何度も訪れていたから、とりたててめずらしいと思えるものは何もなかった。

 今までの思い出を上書きするように、ただ写真を撮っていった。あの頃はたしかスマートフォンのカメラで撮っていたはずで、今はコンパクトデジタルカメラになっている。違いがあるとすれば、その程度のものだった。

 太陽はすでに西に傾きかけていた。もっとも今日は曇っていたためか、強烈な黄金光線こそないものの、濃密な蒼が風景のなかに深くはいり込んできていた。その蒼に呼応するように、オレンジ色のあかりがいくつもくっきりと浮かびあがっていた。

***たそがれどき駁二藝術特区***

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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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