鷄肉先生

 2012年7月11日 花蓮

 お店の入り口で紙1枚赤鉛筆を受け取ると相席のテーブルに案内された。紙には漢字をさらに複雑にした繁体字がずらりと黒い塊になって並んでいた。ただ鷄肉という文字だけが目に付いたのでお店のメニューであることだけが理解できた。

 メニューの前で一人うなっている僕を気の毒に思ったのか、鷄肉のような丸っこい顔をした店長が ハロー とやってきて、繁体字で書かれている料理の説明を始めた。鷄肉先生は英語をとても流暢に話した。

 蒸した鷄肉は当店一番のお勧めであること、クウシンサイは本日入荷したばかりで新鮮であること、ルーローファンは台湾の定番の飯であること、中国語が分からない僕に、英語で親身になって説明してくれたので、僕はホッと胸をなでおろしていた。

 最初に出された料理はの切り身の上に千切りの生姜を乗せただけのいたって簡単な料理であった。白い皿の上で、スライスされたばかりの鷄の肉が、地味な色で佇んでいる。目新しさはなにもない。次の料理を待つ間にでもと、肉の一切れを何の気なしに口に放り込んだ。

 歯に沈み込むの弾力の中から、染み込んだ塩味が細やかにゆっくりと、の油といっしょに口の中に溢れ出した。

 今までと何かが違っているようだ。もう一度、今度は削りたての生姜鷄肉と合わせて口に運んでみる。いろいろな方向に飛び出そうとする味の広がりは、やっぱり過去には経験したことがない、初めて対峙する感覚だった。

 ビールの味でもあった。台湾ビールを追加して気分を改めてから、もう一回、食べてみた。風味という点では同じものを食べたような記憶があった。しかし、今喉を流れた味は、果たして未知のものだった。

 嘗てに、胃の中に収めてきた全ての鷄が一斉に逃げ出さんばかりの強烈な破壊力を持った、ひとつの鷄肉だった。人が気が付かないところにある繊細な一点にまで味を追求し続ければ、このような味ができるものなのか。

 テーブルは人がひっきりなしに入れ替わっていく。観光でやってくるような人もいて、鷄肉先生は一人ひとりのお客に対して料理の説明を丁寧に行っていた。

 たまらなかった僕は、人目をはばかることなしに、たった一つだけ知っている台湾語で ちんほうちゃ と叫んだ。鷄肉先生はちょっと驚いたような顔をしたけれど、すぐにニッコリと、そして満面の笑顔になった。

 美しく薄い一枚の厚みからは、噛むほどに味が染み出して、そしてやわらかい肉には、鷄肉先生のに対するこだわりが集約されているようで、なんだか自然と笑みがこぼれるようだった。

 無意識の中で記録してきた ちんほうちゃデータベース がいとも簡単に更新された。


鶏肉先生



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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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