夜がおわるまで

 中華五福円環のロータリー交差点に停車する車に、トマス君がニコヤカな顔をしてもどってきた。

 「どうぞ夜食に食べてください。おばあちゃんがカットしました。今日なので新鮮です」

 助手席の窓ガラスに映る大立精品デパートのひときわ明るいイルミネーションライトが、トマス君から受け取ったビニールの袋を通過して、ひと口サイズにカットされた紙カップいっぱいのマンゴーをきらきらとオレンジ色に照射した。

 そして今日は、高雄滞在の最後の夜だった。

 「最後にひとつだけ行きましょう。大丈夫ですか?」

 愛河のながれに平行して街灯が規則正しく連続する。そのいくつか目の街路樹の横で車は停まった。

 「愛河之心といいます」

 「アイガノココロ、かい?」

 トマス君に続いて愛河にのびる光る橋を歩いた。僕がカメラを構えるたびトマス君は遠慮がちに一歩後退する、ということを幾度か繰り返すうち、河を過ぎ、僕らはいつしか歩道橋の上にまで来ていた。

 「あっちに見えるマンションいくらくらいするんだろうな。高雄の街がよくみえるから、住んだら気分がいいだろうなあ」

 「上の階にいけば、だいたい、1,500万元くらいしますと思います」

 「せんごひゃくまんげん?そうか。少なくとも5,000万円はするってことだな。たいへんだ。それはけっこうたいへんだよなあ」

 建設業界に勤めるトマス君はそのあたりの事情に詳しかった。そして、台北みたいに極端ではないけれど、高雄もけっこう高い、ということがよくわかった。

 車は信号の色にあわせて流れたり停まったりした。ときおり、道路の向こうから南国特有の湿り気のある風が来て、シャツの隙間を軽やかにくぐり抜けていった。

 トマス君と別れてホテルの部屋にもどった。テレビをつけて、さっきトマス君からもらったマンゴーを食べた。やわらかくてあまかった。

 シャワーを浴び、あしたすぐに出発できるように荷造りをしようと思ったが、自分の知らないところで疲れがたまっていたようで、途中でやめにした。

 シーツに包まってなんとなく落ち着いてくると、たてつづけに咳がでた。「そういえば4日前に台北に着いてからというもの、毎日咳ばかりしていたなあ。まったく今回の旅は咳にまみれたものになってしまったなあ」などとひとり心の中で思い返した。

 そうやって咳をしていると、脇腹の下あたりのほぼ背中に近いところでなんとなく違和感があった。そしてこの感覚は覚えがあった。2か月前にあばら骨を折ったときにいちばん最初に感じた痛みとまったく同じものだった。そのときはあばら骨の右だったが、今回のそれは左だった。前回も「ヒビが入った」という程度のものではなく完全な骨折だったので、今回も骨折であることは間違いなかった。なんてこったい、なんてこったい。いったいこれはまったくなんて骨体だなあ。

 咳の振動がなるべくあばらにひびかないように、ダンゴムシのようにまるくなった。夜がおわるまで、そのまま、ただじっとしているしかなかった。

***愛河之心、高雄之心***


大立精品

愛河之心1

愛河之心2

愛河之心3



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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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