1/13サヨナラノート

 「今日は何時の便で帰りますか?いまから火鍋を食べますよ」

 台湾旅行の最後の日の午後、ブンちゃんは僕のためにお別れ会をしようと、ひそかにお店を予約してくれていたのだ。

 中山地下街の1番出口から地上にでると燃えるような夏空がカーンと青く突きぬけ、白すぎる陽ざしが皮膚のあちらこちらに強引に照射してきた。歩いてすぐに馬辣という看板があらわれ、その階段を下りていったらもう店の入口だ。

 馬辣頂級麻辣鴛鴦火鍋は好きなものをどれだけ食べてもいいという食べ放題の火鍋店で、鍋の具材となる肉や魚介や練り物や野菜はもちろんのこと、果物やケーキといったデザート類もきっちり常備され、それらの種類ときたらもうとんでもない数になっている、という話だった。

 僕らはかなり広めのソファー席に通されメニューを受け取った。スープは5種類のうちから2種類を選ぶ方式だったので、ひとつはいちばん辛いといわれる馬辣激辛鍋を選んだ。

 通路を挟んだ向こう側にドリンクコーナーがあった。ジュースやお茶などに混じってその一角をビールとワインが「どうだどうだ」と言わんばかりに陣取り、これらもぜんぶ飲み放題ということだった。しかし昼からアルコールをとってしまえば、また咳が頻発するんじゃないかと考え、酒は控えることにした。ゲホゲホいう咳は折れたあばら骨にひびくのだ。

 僕はウーロン茶といっしょに食前用のハーゲンダッツのアイスを持って席にもどった。

 「今回もいろいろと台湾をまわりましたね。疲れましたでしょう。お店は2時間ありますから、ゆっくり好きなだけ食べてなさいね」

 思い返せばこの5泊6日の台湾旅行というのは、ブンちゃんには初日からいろいろお世話になっていたな。途中で別れてからも、こうしてまた最後に台湾メシを囲んで食えることが、なんだかしみじみとうれしかった。

 食事を終えて店をでると、空にはうすい筋状の雲がいくつか増えていた。それでも、午後の太陽はまだまだむき出しの光線を交差点にまぶしく落としている。

 流しのタクシーをつかまえてそのまま後部座席に乗り込んだ。いつも使っているキャリーケースと違ってバックパックはそのまま座席に放り込んでしまえるので、なんだかあっけなかった。

 運転手に松山空港行きをつたえて、窓越しのブンちゃんに別れを言った。

 うすい窓に台北の街並みがつぎつぎに入れ替わっていくのを眺めていると、たった6日間ではあったけれど、今回の台湾旅行が、充実した日々となって思い返されてきた。毎日いろいろあって、たいして何もしていないのに何かをやりとげたような、そんな矛盾した感覚が、気だるい体のいたるところからにじみでて全身をくまなく包みこんでいく、という不思議に満足した気持ちになった。そしてそれらがすべて次々に高速スピードで過去のできごとになっていく、という気がしていた。

 それから僕は「さよなら」をしたブンちゃんに「また来るよ」と言うのを忘れていたことに気がついた。来月の台湾行き航空券は、東京を発つ前にすでに予約してあったからだ。

***馬辣頂級麻辣鴛鴦火鍋(中山店)から帰郷***

馬辣1

馬辣2



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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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