車輪のいいわけ

 僕らの自転車は宜蘭河濱公園をまっぷたつに横断する宜蘭橋をわたり宜蘭河をこえた。

 「みのちゃん、みのちゃん、自転車は乗り心地はいいですよ。あああ、ワタシはまちがえます。自転車の乗り心地はいいですか?」

 「ははは、もちろんだ。ところでエムちゃん、日本人は自分より年上の人を呼ぶときは『ちゃん』ではなく『さん』を付けるのがフツウだよ」

 「あああ、ワタシはまちがえます。そうかわかった。ありがとう、みのちゃん!」

 やがて建物と建物の間もひろがり、自転車は直列につながったり並列にかさなったりと、どこまでもどこまでも平らに続いていく道を走った。宜蘭駅のちかくを発って30分ほどで、龍潭湖風景區の看板が見えてきた。入口には自転車レンタルの店もある。

 龍潭湖風景區は山と湖の公園で、どうも宜蘭という土地は、こういった水と自然を活かしたスポットがいくつかあるようだった。湖のまわりはサイクリング用の道がぐるり取り囲み、およそ3kmほどの距離を散策できるように整備されている。

 陰影のほとんどない道で、そんな道でも、ときおり思い出したように風が吹いた。湖面は、風にあわせて青い空と白い雲と緑の影がざわざわと騒めきたった。

 そうやって、そこそこの距離を走ってきたと思えるあたりで、僕はエムちゃんの自転車と僕の自転車を、これまで一度も交換していないことに気がついた。エムちゃんは変速ギアのない古くて重たい自転車にずっと乗っていたのだ。

 「エムちゃん、ごめんごめん。約束通り自転車を交換しようエムちゃん。エムちゃん?おいエムちゃん!」

 振りかえると10数メートル後方で、いささか焦燥したどこかやるせない表情をして立つエムちゃんの姿があった。

 「みのちゃん、重くなりますよ。走るのは重くなりますよ」

 どうやら自転車のタイヤの空気がすっかり抜けてしまったようだ。

 僕らはもうほとんど出発地点に近いところにまで来ていたので、自転車を引いて、入口で見かけた自転車レンタルの店に向かった。

 「あのー、すみません。空気入れを貸してください」ってなことをエムちゃんは言ったはずだ。店のおじさんは奥からすぐに空気入れを持ってきてくれた。

 僕はそれまでエムちゃんの自転車を貸してもらっていた恩もあったから「任せろ」とばかりに空気入れを奪ってニギリ部分に力をこめ、上半身の体重をかけ、キコキコキコと上下に押した。

 キコキコキコ。もっと入るだろう。キコキコキコ。いやもっともっと。キコキコキコキコキコ
キコキコキコキコキコ、、、パン。

 地面のホコリを舞いあげ、かわいた空気音が鋭くカン高くはじけトンだ。タイヤはまるでバナナの皮みたいにヨレヨレと急速に力をなくしたようになった。

 「うわー、みのちゃん!うわー、みのちゃん!」

  エムちゃんはまんまるの目をさらにまんまるに大きく見ひらいて叫んだ。

 「エムちゃん、これは、あのー、だな。まあ、あれだなあ。やっちまったってことだなあ」

 僕は一瞬のデキゴトに思考が追いつかず、頭からも体からもシュワシュワ空気が抜けていくタイヤの気分になった。

 「みのちゃん、かえり道に自転車屋があります。ワタシは知ります。みのちゃん、タイヤは交換できます」

 エムちゃんは急に思い出したように心強いことを言った。それから「みのちゃん、電車の時間がありません。急いでかえります」と言った。久々にスマホの時計を見ると、花蓮行きの台湾鉄道の発車時刻はあっという間に1時間後に迫っていた。

 エムちゃんは来たときと同じように古くて錆びついた自転車にまたがった。来たときと変わったことといえば、後輪のタイヤが破けてぺしゃんこになってしまった、という点である。

***宜蘭の龍潭湖風景區***

龍潭湖1

龍潭湖2

龍潭湖3

龍潭湖4


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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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