雨の最終駅

 2012年6月25日 南投

 雨が降り出したので私と友人は車埕站と書かれた古い駅舎の屋根の下に身を移した。

 車埕の村は一時間足らずの滞在であったが、折り返しの列車が到着するまでのあいだ、スマートフォンに撮り貯めた写真を眺めながら、今まで過ごした村の様子を思い返していた。

 車埕は集集線終着駅であることから、はじめ寂れた田舎を想像していたが、村は清掃が行き届いており、都会のようなしゃれたカフェや土産物屋が賑わう小さな観光地になっていた。

 友人は土産物を見たいと言って歩いていった。私は一人池の手すりに肘をのせながら水面を眺めた。するとカルガモの親子が後ろに小さな波を作りながら、こっちに向かってゆったりと泳いでくるのが見えた。濃い緑色の池の背景には、緑々と茂った木が広く囲んでいて、目を細めて見ると、どこまでが池で、どこからが木であるのか分からなくなった。カルガモの親子はいつの間にかどこかに行ってしまった。

 友人と合流してしばらく歩くと、子猫がニャあといって民家の囲いの上にちょこんと座ってこっちを見ている。白い毛をした子猫は、まだあどけない好奇の目で、見慣れぬ珍客の歩く方向にあわせて顔をゆっくりと回している。無垢でつやのよい毛並みは、近所の人に可愛がられている平和な日常を想像させた。小さな前足でピンク色のバケツをトントンたたいて遊んでいるところに、奥からもう一匹の子猫が現れて二匹でじゃれあいはじめた。

 この最終駅にたどり着くまでのあいだ、気のむくままに下車乗車を繰り返していながらも、列車の発着の時刻には常に正直に向き合っていた私たちは、昼食を与えられるべき機会を逃してしまっていた。どこかで簡単に食事をしようということになり、途中にあった一軒の小さな店に入った。昼のピークを過ぎた店内はガラガラで、テーブルに新聞を広げてテレビを見ていたおじさんは、はじめ客かと思っていたら、お店の人だった。奥からおばさんがメニューを持って目の前のテーブルにおいた。私たちは排骨飯弁当をそれぞれ一つずつ注文した。

 丼には揚げたばかりの豚肉がはみ出して、脇に添えられた味付け漬物が、器の中にいっそうの賑やかな食欲を作り出した。カップの味噌汁に箸をぬらしてワカメを流し込むと、やっとありつけた食事のボリュームに、とても感激した気持ちになった。

 私たちの会話の中に日本語を見出したのか、隣のテーブルでテレビを見ていた角刈りのおじさんがにほんじんか!とはっきりした言葉で話しかけてきた。聞けばここにもよく日本人が訪れるとのことだった。いくつかの世間話をした後、友人の勧めで三人で記念撮影をして別れた。

 スマートフォンの写真はいつしか車埕駅に到着したところまで時間を戻していた。

 カラフルな列車のすぐ背後には、レンズに収まりきれないほど急な山が、緑色ののように迫っている。写真だけ切り出して見ると、この場所がいったいどんな状態なのか、見当もつかないものに思えた。まさかジャングルの中に列車は走らない。

 私たちは列車が再び到着するのを待っていた。

 木造の駅舎の中は、待合所になっていて、当時の資料などが置いてあった。屋根に降りつける雨の音は、閑散とした室内によく響いて、木の天井の湿った匂いを、当時の空気の中に満たしていた。

 しばらくすると、レールの遠くのほうから金属の音が聞こえてくるような気がして、次第にはっきりした音になって、やがてガタゴトいう大きな音に変わった。

 一時間ほど前に写真におさめたものと違わない列車が、速度を落としながら、鈍い轟音といっしょにゆっくりとホームに停まった。

 私たちは傘を開かないまま列車に走った。


雨の最終駅



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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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