台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

ほろ酔いマンボウ

 2013/8/21 台東

 撮りためた写真を整理しようと通りに面した一軒の居酒屋に入った。ひとりで入る居酒屋は自分だけの世界に正面から向き合える正直な時間である。たとえ周りに人がいようが気心の知れた仲間がいない点において居酒屋はいつも私のとって孤独の場所であった。

 中山路の歩道の看板に明かりが灯り、そのなかに海鮮料理の文字が浮かぶ店があった。ここにしようと思った。

 ビールを注文して、デジタルカメラの履歴を新しいものから古いものへと眺めていった。写真の整理といっても、同じような写りの中から出来の悪いものを削除するだけの作業であったが、無駄に増えた記録は選別するだけでも十分に面倒な作業だった。

 瓶ビールとコップが運ばれてきたので、メニューに書いてある曼波魚とはどういう魚かと、店のおばさんに聞いてみたらマンボウという答えだった。マンボウと。そう日本語で聞こえた。

 マンボウといえば台東の北の方、花蓮の特産であると聞いたことがある。垂直に切り立った断崖は、その急こう配を保ったまま、一気に海に落ち込んで、そのまま深海となる。マンボウの生息は水面から深海にまで及ぶ。そのためこの辺りでは多くの水揚げが行われる。ところがマンボウの鮮度はすぐに落ちてしまう。そのため美味しいマンボウは近場でしか食えない。だから台東も同じように水揚げができるに違いないと思った。

 むっちりとして、マシュマロのように白い身。ねぎといっしょに炒められ、オリーブオイルに絡んでとろみがついている。つまんでみると、ぷりぷりして弾力がある。イカ白身魚の真ん中のような感じで、あっさりとして塩味がきいている。味自体に癖はないが、そのぶん、ねぎのピリ辛がとろけたあんとからんで、マンボウの淡いうまみがしっかりと生きている。

 酒がすすむうちにだんだんと愉快な気分になっていた。写真の整理なんてどうでもよくなっていて、残しておこうと思っていた写真まで勢いあまって削除してしまう始末。テーブルの空き瓶が転げ、箸がすべり落ちる。そして酒はますますうまい。あほ面してビールをしこたま飲んでいると、お店のおばちゃんが日本人かと聞くのでそうだと答えたら、近くにいた人たちもこっちを見て笑った。いつもの台湾語でちんほうちゃと言ったら笑い声がいっそう大きくなった。

 お店のおじさんがサービスだよと言って、食べやすくカットした黄色いスイカを出してくれた。黄色いスイカは写真でしか見たことがない。本物を見たのはこれが初めてかもしれなかった。シュワッと甘い汁が口のなかに広がるとあぶらアルコールをいっしょに流しながらすうっと喉の奥に消えた。ついにカメラの写真は整理されないままでいた。


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台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
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