台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

ドラゴンになったサボテン

2012/6/25 南投

 横並びの座席の真ん中から、左に流れる緑の景色を見ている。足もとに置いたザックの隙間からバナナの匂いがこぼれた。親指を少し大きくしたくらいの小さなバナナだった。表面には茶色の斑点がある。房から一本もぎ取るとプーンと甘い匂いが広がった。さっきまで旅をした集集古街で買った小さなお土産だった。

 列車はゆっくりと速度を落として集集駅で停車した。改札を抜けて振り返ると駅舎の全容が見える。手入れの行き届いた木造の建築は、かつて日本にあった昔の風景そのものだった。ふぞろい模様のかわら屋根の下には [集] [集] [車] [埕] と黒で筆書きされた四角い板が並んでいる。駅前の広場を抜けると、番号札の付いた自転車が並んでいた。レンタサイクルだった。二人乗りや四人乗りの自転車もあり、なかには屋根つきのものまであった。その日は平日であったためか、近くでこれらの観光用の自転車に乗っている人を見ることはなかった。

 道路を渡ってしばらく歩くと集集古街と記された門が建つ通りに出た。町並みはどこか黄色くすすけた風情をしていて、ほこり色のバイクが白い煙を吐きながらトロトロと目の前を走っていった。門の近くには青い軽トラックが一台停まっており、うさんくさそうなオジサンが、鋭い眼光でこちらをじっと見つめていた。トラックの荷台には、果物であろうか。丸くて赤い、ときどき緑のヒレのようなものを突起した奇妙な植物が、山盛りに積まれていた。
 
 見たこともない風体の果物に興味の心を奪われた私たちは、ドキドキしながら、うさんくさそうなトラックに近づいていった。


  おい、兄ちゃん、買っていけよ。うまいぞ。ヒヒヒ。


  食べられるように切ってやろうか。ヒヒヒ。
  

 オジサンは吸いかけのタバコを灰皿に押し付けると、包丁差しからナイフを引き抜いた。ナイフの腹は本来の面影を残さないくらい細くなっていて、黒光りする鋭利な反射の中に、磨き続けた職人の技術の集約を見た気がした。

 表面の皮が取り除かれると、果物はナイフの動きに合わせてサクサクと切り裂かれていった。作業は熟練の手のうちで瞬く間に終了した。静脈の浮き出る黒くてゴツゴツした手から、四つに分割されたうちの一つを受け取ると、ポケットにあった50元玉と引き換えた。

 紫色に近いような赤の中には、黒い種がつぶつぶのと食い込んでいて、切りあとからにじみ出た汁が、表面に怪しい光を反射している。シャリシャリした果肉のあいだから、ちょっとすっぱい水があふれ出して、舌の奥に媚び過ぎない甘さを残した。素朴のような味わいはフルーツというよりはむしろ野菜に近い。派手に見えた色ほど味に華やかさはなく、すっきりとした口当たりはインパクトが小さい代わりに、日常的に食べ続けていくことができる健康的な食品であることを印象付けた。名前をドラゴンフルーツという。サボテンの果実である。外皮が龍のウロコに似ていることから一般的な呼称として定着しつつある。

 白かったTシャツの、腹のあたりの出っ張り部分には、と、赤を少し薄くした点が無数にできていた。新しい模様が入ったTシャツを着て、集集古街を散歩した。次の列車が到着するまでの暇つぶしだった。
 
 途中、入り口にバナナを並べた小さなお店があった。赤い敷物の台の上には、小さいもの、大きいもの、緑色のもの、黄色いもの、いろいろな種類のバナナが置かれている。小さくて黄色いものは長い期間をおかないでも、もしかしたら今日のうちに食べ切れる分量に思えた。バナナは秤に乗せられ、ビニール袋にくるまれた。台湾でよく見かける透明の地に赤いストライプのあるビニール袋だった。

 駅舎に戻りベンチに腰掛ける。ビニール袋からバナナを取り出して、房から一本をもぎ取った。甘かった。親指を少し大きくしたくらいの小さなバナナだった。表面には茶色の斑点がある。天井のスピーカーから列車の到着を告げる放送が聞こえたので、残りのバナナをザックに放り込み、ホームに向かった。


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台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
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