鯉魚潭はくもり空

2013/7/17 花蓮

 いつのころからか、食べ物や自然の風景だけでなく、身近にいる小さな生き物なども、写真におさめるようになった。

 その日は慕谷慕魚(Mukumugi Valley)という未だ手つかずの自然で知られる渓谷を観光する予定でいたが、慕谷慕魚は入山できる人数に制限を設けており、私たちはその制限から溢れてしまった。環境保護のためであろうか、1日の入山は午前と午後の2回に分けられ、人数はどちらも300人以下と決められている。さらに身分証明書と合わせて管理局で「入山許可書」を事前に申請しなければならない。私たちは早起きして来たにもかかわらず、他の多くの申し込みで、その日の入山は適わぬものになってしまった。

 仕方がないので、その足で鯉魚潭(Liyu Lake)に向かうことにした。早い朝の空気は新鮮だった。バイクに吹き付ける風はとてもすがすがしく、澄みきった空は見上げれば見上げるほど青く光ってまぶしかった。

 鯉魚潭遊客服務中心という赤い文字が並ぶ石造りの門の前にバイクを停めた。ヘルメットをはずし、おでこにペタリとしなった髪をかき上げると、門を入ってすぐのところに小さな草むらが見える。目を凝らすと草むら全体がチラチラとして、何だかうごめいているようだ。はじめのうちは、目の錯覚か、もしくは草が風になびいているものとばかり思っていたが、どうやらそうではないようだ。

 友人がカメラを取り出して草むらを撮りはじめた。何をしているのだろうと近づいてみると、いくつもの色をしたが、花の前で羽をゆっくりとすぼめたり、唐突に他の花にうつっていったり、ひらひらとして不規則な方向に飛びまわっている。そのひらひらがひらひらを呼んで、どこが植物で、どこが蝶なのか、少し見ただけでは判別がつかないほど一体然として、まるで草むらが一つの大きな生き物のようにまとまっていた。私たちは、鯉魚潭に来た目的を忘れて、蝶が花にとまる瞬間を写真におさめようと、そうっと近づいては、ぐっと息をこらえて、どういうわけか草むらの前で真剣になっていた。

 草むらの向こうにはが広がっていた。目の前は小さな入り江になっていて、突き出た桟橋の両側には、ペンギンやペリカンの頭を真似したボートが、仲良く並んで波の上にぷかぷかと浮かんでいた。
 
 入り江のほとりに屋根つきの休憩所があったので、木の階段を登りベンチから湖畔を眺めた。さっきまで遠くに白く見えているだけだった入道雲が、灰色の腹をうねうねとうねらせて山の近いところにまで迫っている。空の青い部分はみるみるうちに小さくなっていった。空の機嫌を反映してか、青かった水面は濃い緑に落ち込んでいた。

 友人はリュックから水筒を取り出すと、紙コップにお茶を注いだ。朝いれたばかりの、薄くて黄色のいい香りのするお茶だった。台湾バナナをお茶菓子にして、ぼんやりと湖を眺めていた。するとどこから来たのか、黒い子犬が階段を登ってこちらに近づいてきたので、バナナを少しだけ分けてあげた。湖面からときおり風が吹いた。

 鯉魚潭の風景。晴れた日には、背後に広がる山々を、その澄んだ湖面に反射して、きっと綺麗に見えるに違いなかった。すっかり太陽をなくした灰色の空から、雨がぽつりぽつりと降り始めていた。


鯉魚潭は曇り空



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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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