熊のマークの豚足店

2012/6/22 屏東

 高雄から墾丁に向かう車の窓にはが途切れることなく続いている。その反対側、右手の窓の向こうはが広がっている。山の上には霧のような雲がいくつにも重なり、海は河から流れ込んだ土砂で茶色く濁っていた。

 ほんの数日前、私たちの台湾行きに合わせるように2つの台風の襲来が予想されていた。インターネットのウェザーニュースは連日のように台風の接近を呼びかけ、facebookの友人のコメントには台湾旅行への懸念の意見が多く寄せられていた。特に南部の、高雄から墾丁にかけては致命的ともいえる進路が描かれ、南東の海から台湾海峡を抜ける台風の動きは、最後まで変わることのないまま、出発日を迎えた。

 幸いにも、今ここにいる。台風は空港に触れることなく、島をかすめるように進むと、そのまま温帯低気圧になった。友人が運転する車には私を含めて四人が乗車している。台湾人の友人が二人、日本人の友人が一人であった。窓の外には台風の足跡が生々しく残っていたが、友人からもらった あたなたちとてもラッキーね のひと言がとてもありがたいものに感じられ、これからの旅を、隅から隅まで感謝の気持ちで過ごそうと、心の中で思っていた。

 国道沿いの熊家萬巒猪脚という食堂で車を停めた。萬巒(ばんらん)というのは屏東県に属する郷の名前で、その名物料理に豚足がある。熊のマークの扉をくぐると甘いような独特な匂いが鼻に入った。あとで調べたら匂いの元は八角という香辛料であることが分かった。八角はもはや台湾の匂いとまで言われるほど、街のあちらこちらで香ばしい匂いを発している。この匂いをかぐと、私はいつでも ただいま という気分で、台湾旅行のはじまりを予感するのである。

 注文はメニュー用紙に鉛筆で記入する方式だった。友人は慣れた手つきで、数多くの品目の中からいくつか選んで、料理名の横の空欄に、サクサクと数字を書き込んでいった。テーブルの真上でプロペラが回転していて、時折、気持ちいい風を吹き付ける。広い店内では食器のぶつかり合う音が響き渡っている。

 しばらくすると切り刻まれた豚足がお皿に山盛りになって運ばれてきた。ニンニクが漬かる醤油ダレに少しだけ浸してから、ぱくりとひと口食べてみる。柔らかなゼラチン質のがぬるりと落ちると、なかからムチムチした肉が歯にあたって、うまみたっぷりの脂がじゅわっとふき出した。煮汁の濃厚な味が肉の中まで染み込んでいながら、しつこくない。どちらかといえばやさしい味付けだ。さらに豚足特有のくさみはまったくというほどない。

 と、と、が、自由に絡み合ってできた世界は、自分は今まさに肉を食べている、というリアルなヨロコビを表現する。八角や、おそらく何十種類もの漢方エキスで煮込んだコラーゲンは、つややかな光を発しながらも、うまみのエネルギーをいっぱいにため込んでいて、それを壊すたびに、ため込んだうまみの塊を惜しげもなく放出してくる。夜であればきっとビールが足りないに違いがないんだろうけれど、今はお昼なので、ご飯がどれだけあっても足りないように思えてきて仕方がなかった。

 たらふく食べたあとトイレに立った。表の通路の日かげで、白いタイワンイヌが眠っていた。近寄っても目を開けない。すやすやと寝息まで立てている。いくらなんでも無防備すぎなんじゃないかと思えるくらい安らかな顔をしている。それを見ていると、なんだかこちらも安心してくるのであった。腹いっぱいになった満足感と充実感で、自分も友人の車で眠ってしまいそうだ。

 店の外に出るとメガネが一気にくもった。台風が運んだ真夏の日差しが、猛烈な熱気で歓迎している。国道から乗り入れた大型の観光バスと入れ違うようにして、車は再び墾丁に向かって走り出した。


熊のマークの豚足店



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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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