台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

貸切タクシー日月澤へ行く

2014/1/2 日月潭

 ひとり台中駅のバス停のベンチに座っていると、どこからかオジサンがやって来て、どこ行くのかと聞いてくる。日月澤(にちげつたん)だと言ってやったら、俺の車に乗って行けとやけに高い金額をふっかけてきた。オジサンはタクシーの運ちゃんらしい。ちょっとあやしそうだなあと思った僕は、言葉が分からないふりをして、どうにかその場を振り切ったんだけど、しばらくすると今度は学生と思しき二人の若者を連れてやって来た。運ちゃんは三人で乗ればひとり1000元でいいよとさっきの半額以下の金額を提示してきたので、僕よりも年下の大学生が乗ることだし、社会人の男がお金をけちって乗らないのもカッコ悪いと思って、一緒に乗って行くことに決めたんだ。

 運ちゃんはさらに、日月澤のいろんなスポットに車を停めながら、やがては湖を一周して、夕方には僕たちみんなを台中駅に届けてくれるとまで加えた。バスを降りてからその後どうやって移動したらいいのか全くもって無頓着でいた僕にとっては非常にラクだと思えたし、台湾人二人がいっしょに乗ってくれることがとても心強く、何よりもひとりで行くより楽しい旅になるかもしれないといったワクワクするような冒険心があった。

 大学生は後ろの座席に乗り込んで、僕は助手席に座った。1月とはいえ台中のあたたかな快晴の空のもと、僕たちの貸切タクシーは元気よく出発した。大学生は一人はの人で、もう一人はの人だった。運ちゃんと大学生はなんだかいろいろと世間話をしているみたいだったけれど、僕には何を話しているのかさっぱり分からなかったので、自分は分からないなりにガイドブックを開いてこれから行きそうな場所について検討をつけたりしていた。その様子を見た運ちゃんが僕に日本人かと聞くので、日本人だと答えたら、後ろの大学生が興味深そうに僕のガイドブックを覗き込んだ。どこにでもある地球の歩き方台湾編(2012~2013)である。大学生は片言日本語で、僕がいつ台湾に来たかとか、どこを観光してきたかとか、いま何歳とか、いろいろな質問をしてくる。僕は知っている限りの台湾語で適当な答えを返していたんだけど、いつの間にか車内は笑い声であふれて、初めて会うもの同士のどこか遠慮するような緊張するような空気なんていうのは、もうどこ吹く風の有り様だった。

 タクシーは、高速を飛ばし、くねくねの坂道を登り、緑いっぱいの山を越えて、あっという間に日月澤に到着した。雲ひとつない空はどこまでも高くて、湖は遠くまで青く広がっている。タクシーから降りると、1時間したらに迎えに来るからと、運ちゃんは船のチケットを三人に渡して、どこかに行ってしまった。船の名前は日月之星。僕は大学生にくっ付いていくように船に乗り込んで、でも二人にはちょっと距離をおいて、ひとり船のデッキで湖面の風を浴びていた。

 船は水社碼頭と向こう岸の玄光寺碼頭との間を何度か往復しているようだった。船内のスピーカーからは

 對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。對啊(トヤ)。 

の歌が流れている。對啊は相槌のうんとかそうといった意味である。要するに うん そう を、サビの部分において、ただひたすらに繰り返す歌なのである。すると何を思ったか、それまで船のデッキでガイドしていた兄ちゃんが、持っていたマイクで突然歌い始めたのである。


 ト~ヤ、トヤ♪ ト~ヤ、トヤ~♪ ト~ヤ、トヤ♪ ト~ヤ、トヤッアッア~~~♪


 それを聞いてからというもの、歌のフレーズが耳に焼きついてしまい、對啊の歌は、当分のあいだ僕の頭から離れなくなってしまったんである。

 玄光寺碼頭に着いてから、11時に待ち合わせをしようと約束して、大学生と別れた。初対面の僕に気を使ったんだろうし、僕も二人の楽しいデートを邪魔してはならないと思っていた。玄光寺の周りはそれほど広いというわけでもないらしく、見晴らしのいい場所に上って写真を撮ったり、トイレに寄ったりしていると、ところどころで大学生と顔を合わせた。お互い照れた笑いを交わしながら、そのうちにあえて別々に行動しなくてもいいじゃないかみたいな雰囲気になり、結局はそれぞれが好きな場所を思いのままに行く気兼ねのない自由な散歩になった。

 玄光寺の石段を碼頭の入り口まで降りきると一軒古びたお店があった。大学生の兄ちゃんが、これを食べるといいよと指差すものがある。大がまの中では、ひび割れた茶色い卵が、ぐつぐつと煮えたぎっている。これは香菇茶葉蛋という名前の、南投県で収穫される霊芝(レイシ)というキノコとお茶の葉で煮込んだ卵で、玄光寺碼頭にある阿嬤e古早味香菇茶葉蛋は、昔から続く名店なんだそうだ。僕は20元払って2つを購入した。

 お店の前にちょっとした休憩所があったので、僕たちは木陰のベンチに腰を下ろした。船の時間までの間、台湾語なまりの英語と、日本語なまりの英語で、とりとめのない会話をして過ごした。兄ちゃんは慣れない外国人を前にして、少し恥ずかしそうだった。袋から卵を取り出す。殻はつるりと剥がれて、中から茶色い顔が飛び出した。黄身のまん中までイイ味が染み込んでいる。ビールがあったらなあ、などと昼間からいやしいことを考えていると、船着場の向こうからお迎えの日月之星が飛沫を上げてやって来るのが見えた。


Sun Lake Moon Lake Ⅰ



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台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
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