あまい豆腐に気をつけろ!

 パンパンにふくらんだ腹をぶら下げて、いつものようにバカみたいな顔をして歩いていると、白いトウフに黒いタピオカの豆花の店が目の前で口を開いていたので、もうお腹がいっぱいで食べられないんだけど誰かがあまいものはベツバラとか言っていたなあ、とかなんとか思いつくかぎりの言い訳をあれこれ考えてみたりして、しかもその言い訳が妙に的を得ていたものだったから、腹は減っていないんだけどそういうことであればまあしょうがないなあと観念して食べていくことにしたんである。

 あまい汁の中にぷかぷかと浮かぶ豆花は、よくプリンのようなスイーツと表現されているみたいだけれど、トウフそのものに関していうとたいていショウユときざみネギカツオブシなんかを載せて、おまけにすりおろしショウガなんかも添えて、ワカメといっしょに味噌汁とかにも入れちゃったりしているあの豆腐においあじかたちもまったく同類のシロモノなので、はじめて食べたときのオレはあまい豆腐という今まで経験したことのないただならぬ違和感に衝撃を受け、そのなんとも形容しようのない良いとも悪いとも美味いとも不味いとも判別できない煮え切らないような余韻のなかにただぼんやりとした輪郭を残すのみなのであった。

 それでも友達といっしょに何度か食べているうちにあまい豆腐にたいする耐性というか免疫というかなにやらそんなものができあがってきたようで、それどころかむしろその違和感ありありの不思議な魅力にまんまとハマってしまったのか、日本にいてもことあるごとにモヤモヤとした白くてあまい幻覚に悩まされるようになり、台湾の路上に豆花という文字が目に入ろうものならばまるでパブロフのイヌのごときよだれを垂らして、周辺いきかう台湾善良市民の前にあやしいニホンジンの醜態をさらけだす事態にまでに発展してしまったのである。

 宜蘭の街角でも王品豆花という豆花の店があったのでオレは当然のごとく入店し、大きな水槽のような鍋の前で注文を受けている姉ちゃんにあなたニホンジンですかと聞かれて、すると店のなかにいた客や外を歩いていた一般人までもが好奇の眼でこっちを見るので、ちょっと恥ずかしいような嬉しいよう安心するようなオレってもしかしたらモテるじゃないのかハッハッハ~とますますあやしいニホンジンになりかけてきたところに氷入りの豆花のお皿が運ばれてきたのでもうそれどころではなくなったのである。7月は日本にいても台湾にいても暑いものはやっぱり暑いので、店の姉ちゃんに勧められるままに氷が入った豆花を選んだのだ。

 ねずみ色をした雲の隙間から雨が降りはじめているところに、同じようにジメジメしみったれたひとりの観光客風の男が店にやって来たという図だったんだけれど、その一方で店の中は客も店員もみんなニコニコ顔でオレを見たり聞いたり話したりするもんだから、その明るく陽気な雰囲気のなかに違和感というかむしろとてつもないくらいの居心地のよさを感じて、しかしそれははじめて出会ったときの豆花の妙な味の違和感となんだか共通しているようなしていないような気がして、変に親近感がわいてくるのであった。涼しい豆花と人々の温かい心で、オレの腹はそれだけでじゅうぶんに満ち足りた気分になってしまったのである。

 勘定をして外に出るとさっきよりも風が強くなっているように思えた。この日は台湾の東北部、すなわち今いる宜蘭の一帯に猛烈な台風が上陸することになっていて、夜になると極端な大風と大雨にありとあらゆるものが破壊され吹き飛ばされてしまった日でもあった。

2013年7月12日 台風しのび寄る宜蘭で

豆腐のようなトーフ


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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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