変わりゆくもの代わらないもの

2012/8/19 嘉義

 友人が運転する車の中で、もはや失望にも似たやりきれないような感情がぐるぐると旋回していて、考えを他の有意義な内容に移らせる気力もないまま、無機質に過ぎ去っていく窓の風景を、ただぼうぜんとした気持ちで眼の前にだらだらと流していた。

 觸口という阿里山のちょうど山地と平地とを結ぶ観光地は、駐車場にカラフルな大型観光バスがぎっしりと占拠していて、光きらりと反射するその四角いの鉄の箱から、原色を極端に配合した服装の団体が怒っているかのような大きな声を張りあげながらどかどか降りてきた。

 中国人観光客はこの数年でいっきに増加したと聞いていたのでそれほどに驚きはしなかったものの、ゴミ捨て場には収まりきれなくなった食べ物袋や、その食べ物に使われた串、飲みかけのペットボトルなどが散乱して、しかしよく見るとそのゴミは収まりきれなくなったのではなく、はじめからゴミ捨て場に捨てるという意思そのものがなかったという実際を、近くで時間通りにきびきびと処理している掃除係のおじさんが流している額の汗から見て取ることができたのである。

 駐車場の近くには八掌渓という自然がつくりあげた曲流の河が流れていて、向こう側の山裾にひっかかるようにつり橋がかけられていた。向こうから歩いてくる観光客とのすれ違い際に、バランスをとりつつ片側の隅に身を避けたものの、対向者はこちらの存在に気がつかないとでもいうかのように、大人二人がやっと横に並べるくらいのつり橋の真ん中をどちらかに寄るでもなくそのまま突き進んでくるので、やっとできた片側の小さな隙間に逃げ込むように、手すりに身体をこすりつける体勢ですり抜け、なんとか事なきを得たのだった。

 我が物顔でかっ歩する心無い観光客の集団を目の当たりにしてやるせない気分に落ち込んでいく一方で、自然がつくりだす素朴な背景の上にどこからともなく発生した多種多様多色の観光客の姿かたちが乗っかる図、というのががヘンに対照的で、またおかしくもこっけいに思えた。

 隣にいる台湾の友人はその一部始終をきびしい視線でとらえながらも、ときおり見せるかなしみにもあきらめにも似た表情に幾度となく同情の念を引きつけられ、そのたびに向けられる助けを求めるような眼差しが、深刻な切迫感をもって私の心の中に訴えかけてくるのであった。

 移動する車内でも先が見えない不安な気持ちが重く沈みかかっていくような気がして、シートにもたれかかる身体にその沈みつつある心を重ね合わせるみたく、出口が見えない暗闇の中で次の行き先にただただ身を任せて行くことくらいしかできないでいるのであった。

 車は嘉義の市街地に来ていた。車を降り嘉義公園とかかれた石碑を見届けてから熱帯の草木が生い茂る園内を歩いていく。整理された園内には小さな池や歴史的な建造物が無造作でありながらも適度な間隔を保って配置されており、あきらかに日本製と思われる狛犬の石段を上り、苔むす灯籠が立ち並ぶ参道を歩いていると、木と木の間からさらになつかしい風景が現れ出てきて、それを見た瞬間に頭の後ろを打たれたような、一瞬だけ前の記憶が飛んでしまうかのような衝撃が走り、それまでの重い気持ちをほんの少しだけ動かしたような気がした。

 数日前に日本の出国スタンプを押して台湾の入国スタンプを押したことに間違いはないが、日本に戻ってきてしまったかのような感覚に、それも日本の過去に遡ってしまったような違和感ありあまる不思議な感覚につつみこまれてしまった。真夏といえども太陽を遮る木々からこぼれる心地よい冷気と、あたりに満ちる湿った空気が、粛々とした落ち着いた気分にさせてくれたようだった。

 齋館、社務所といわれる日本様式の建築物はかつて嘉義神社としてそれぞれの役割を果たしていたが、今では嘉義市史蹟資料館としてその役割を代えて引き継いでいる。大正4年に創建されたという嘉義神社の本殿は、既にない。齋館社務所という二つの建物が当時の様子をそのままの形で伝えている。齋館はかつて清めや準備の儀式を行い、社務所は事務管理を行う場所として確かにここに存在した。

 嘉義神社は、台鉄の嘉義駅からバスに乗り、大きな通りをまっすぐに走って5分の嘉義公園の一角で、今でも静かに時を刻んでいる。


変わりゆくもの代わらないもの



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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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