千年の風化に太陽は照り続けるのだ

2012/8/22 新北

 台北市内の阜杭豆漿という店で朝飯をすませると外にはまたぐわんという強烈な暑さがひろがっていた。友人の車のドアを開けると中からもわっとした空気のかたまりが顔から肩胸にかけて激しくぶつかり、太陽がまだ昇りきらないうちから、真夏の台北は今日もけたたましい熱気に満ちあふれていた。

 台湾の北の端には、にけずられて、にえぐられて、大地にゆすられて、気の遠くなるような時間をかけて侵食と風化と退化を繰り返してきた奇奇怪怪魑魅魍魎な岩や石がいたるところでゴロゴロころがっている海岸がある、ということを聞いていたので、そんなヘンなものならばぜひ見てみたいと、その日は朝から好奇の心がごうごうと燃えたぎっていた。それに海岸であれば海から吹く風はさぞかし涼しいことだろう、という期待があった。

 車は野柳地質公園と書かれた看板を通り過ぎた。それは青い空を背景に土色の岩石が立ちはだかる絵だった。車から外に出るときの「うわっ」と吹き付けてくる風はヘアードライヤーの熱風そのもので、僕の半そで短パンの内側にはたちまちのうちに汗が吹き出してきた。

 入場料の50元を払いチケットを受け取った。50元の隅には環境清潔費と小さく書かれている。裏面をみると、鮎魚台、燭台石、情人洞、象石、豆腐石、仙女靴といった、いろいろなモノの位置がそこかしこに記されていて、奇妙奇天烈なその名前から、ここがただならぬ気配に満ち満ちた公園であるということをなんとなく読みとった。

 むかし映画で観たような、まさにどこかの惑星みたいな風情の公園には、ぐんぐん成長した太陽が、じりじりと容赦のない灼熱光線をあたり一面に発射しはじめていて、アチーアチーとゴマ粒のようにうごめいている蟻ん子のような観光客の姿が、黄土色の地面にシュールな滑稽さを浮かび上がらせていた。正午の太陽にもろに照らされていると露出した皮膚が熱いの痛いの、近くに陰のカケラすらも期待ならないことに深刻な切迫感を覚えて、観念してただただ身を焼いていくしかなかった。

 凶暴な太陽の真下を道なりに進んでいると、歩道の一箇所に人々がわあわあと行列をなしているところがあった。その先に、女の人のよこ顔のような岩が、ひょろりとくびれた石の塔に、はかなくも力強く、そして高貴なたたずまいで座っているのを見た。それは地形図に記されている女王頭という名前のとおりまさに女王の頭の形をした岩石で、気高く気品に満ち溢れた造形だった。人々は彼女とツーショットを撮るためにカメラを片手に順番待ちをしているのであった。

 女王頭は、じわじわと絶え間なく進捗していく自然の侵食風化作用によって、あと十数年もするとこの首の細い部分からポキリといって折れてしまう、という予測が学者たちのあいだでまことしやかにささやかれているのだ。

 大昔からそのままの形をずっと保ち続けているようでいて、日々変化している。やさしくもあり時にキビシイ自然の力で消滅していく海岸を何度も振り返りながら、運命に立ち向かわざるを得ない哀しみの果てに、このかけがえのない変化に対する奇跡というようなものを発見した気がした。


野柳と一千万年の風化



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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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