山あいの雨いろの街なみ

2012/1/7 新北
 
 ふたりにはじめて出会ったのは、瑞芳駅の改札を抜けた、小さな広場だった。その日は朝から雨が降りつづき、いままで経験したことのない冷たく湿った空気に、僕はすこしだけ沈んだ気持ちになっていた。そんななかで、僕たちは「はじめまして」と声をかけあった。
 
 僕が台湾に行くことを、Facebookのコミュニティに投稿したら、その日のうちにメッセージを受け取った。そこには、もしあなたが基隆に来たら、ぜひ案内したい。日本人とともだちになって、台湾の観光を手伝うことができれば、たいへんにうれしい、と日本語で書いてあった。これを読んだら基隆に行ってみたくなった。そうして、基隆は、今回の台湾旅行の第一号に加わることになった。

 台北駅から台湾鐵道の區間車に乗って瑞芳駅に出発した。區間車は日本の各駅列車だ。ベンチ式の座席から向かいの窓を眺めていたら、見覚えのある駅名が目に入った。汐止と書いてある。日本の汐止と違うのは、ホームの向こう側に緑の山が見えることだ。このあたりからだろうか、風景は都会のあわただしさから離れ、窓には、ゆっくりとした景色が、しだいに映りこむようになってきた。

 列車が駅に停まるたびに、僕は、ホームに架かっている駅名標を逃がさないよう、目で追いかける必要があった。僕には車内でアナウンスされる駅名を聴きとれるだけの知識も経験も能力もなかった。いま目指している瑞芳のスガタカタチを、駅名標の文字の輪郭に見つける以外に、到着を知る手段はなかったと思う。
 
 降りしきる雨のなかで、傘をさして立つ友人を見つけた。もうひとりは知らない人だったけど、すぐに妹だと教えてくれた。

 駅のまえの道路を挟んですぐのところにバス停が見えた。まわりより少し低くなった道路にはいくつもの水たまりができていて、それらを避けてバス停まで渡った。

 しばらくして現れたバスの電光表示板には金瓜石と表示されている。ステップを上がったところにある四角いキカイのまえに、友人は悠遊カードをあてた。悠遊カードはバスでも使えるんだと言った。僕は慣れない外国のバスのなかで、小銭が足りなかったらどうしようと心配していたけど、その心配は必要なくなった。

 悠遊カードは日本でいうSuicaだ。いまでは機能が拡張されて、地下鉄だけでなく、バスやコンビニなど、使えない場所がないくらいにいろんな場所で使えるようになった。

 バスのなかはすでに人でいっぱいだった。つり革をつかむかつかまないかしているうちに、バスはがるるといって、唐突に走り出した。前方の大きな窓には、ミルクセーキのような、霧というのか、靄というのか、そんなモノがもくもくとたちこめていた。

 バスは上り坂もで下り坂でも、速度をかえないまま、坂道の急なカーブを曲がりまくっていたので、僕のからだは、つり革に引っ張られるように、なんども大きくそれた。予測がつかない遠心力の暴力に、肉体を好き勝手にされていたから、右手につかんだつり革だけが、僕のただひとつの命綱だった。

 やっと車がすれ違えるような、狭い上り坂の、激しくカーブした手前に、観光客みたいな、にぎやかな人たちがたくさん歩いているところがあった。友人がここで降りますよと言ったので僕は後につづいて降りた。バスには10分も乗っていなかったけど、地面においた僕のからだは、しばらくのあいだうわんうわんと揺れたままで、落ち着かなかった。

 到着したのは九份という街だった。二・二八事件を深刻に描いた「悲情城市」や、宮崎駿の「千と千尋の神隠し」という映画の舞台になったから、人が多い。途中に、ほそくて急な階段を見上げる通りがあった。友人が立ち止まってカメラを取り出したので、僕もまねして写真を撮った。

 階段の両端には、ちょうちんが赤くぶらさがっていて、やっぱりにぎやかだ。ふと、オカリナの音だろうか。雨のしずくで白っぽく霞んだ階段の向こうから、懐かしいようで、どこか悲しげな音楽が聞こえてきた。

雨まじりの

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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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