奇跡の臭豆腐

2013年7月18日 花蓮

使い込まれた鉄の鍋の油に、発酵した豆腐が投げ込まれると、ぱちぱちと音をたてて跳ねた。

花蓮徳興運動場の近くを流れる河の橋のたもとにその屋台はある。

店の前に立つと、まるで絵にかいたような愛嬌たっぷりの丸い顔をしたおじさんが、にこにこして迎えた。

即席で作られたビニール製の天井の下には小さな丸いテーブルが二つと、それを取り囲むように簡単なプラスチックの椅子が置かれていた。

愛嬌おじさんは注文から調理まで一人切り盛りしている。さらに元気いっぱいの裸足である。




  ちょうどうふ!いーが!




人差し指を立て臭豆腐を一つ注文した。

ぴちぴちぱちぱちと、軽快な音が鳴り響く橋の上で、大型トラックがぐうんと鈍い轟音とともに通り過ぎている。

しばらくすると、揚げたばかりの四角い豆腐が、丸いお皿の上で、しゅうしゅうと湯気をたてて運ばれてきた。

熱いままの一つを口に放り込む。

表面はかりかりと歯に心地よく響いて、ふくよかな弾力の中からうまみを凝縮した漬け汁がぷしゃあと飛び出すと、口の中を芳醇な香りで満たした。

豊かな香りの中でかりかりぷしゃあを繰り返し、傍の野菜の漬物でこりこりと口の中を中和する。

世界中のありとあらゆるうまみ成分を抽出してかき集めたら、きっとこのような味になるに違いがなかった。

偏見の向こうには楽園がある。

臭いという先入観が幻影を作り、幻影は放出される臭いで現実になる。現実は独り歩きして苦手という固定観念を生み出す。

固定観念は真のうまみへの到達を妨げる負の産物だ。

体質的に合わないのは仕方がないとしても、実体のない固定観念によって、楽園への招待状を放棄する人たちがいる。

しかし、偏見という、固定観念が作り上げた偽りの防壁を打ち破ることができれば、楽園は容易にやってくる。




   ちんほうちゃ!




台湾語で  とてもおいしい! という意味である。

私はこの言葉以外に、今の自分の気持ちを表現する手段を持ち合わせていなかった。

愛嬌おじさんは、にこにこした顔をもっとにこにこさせて、親指を突きあげた。




   讚!




 讚! はFACEBOOKでいうところの いいね! に該当する。

お店は市の中心から遠く、周りには大きな道路があるだけで、ガイドブックに載っていない。店舗がないため名詞もなければ地図もない。

しかし、本物はどこに隠れているか分からない。

今まで食べたどの臭豆腐よりもうまい、自分の中で一番の、それも最上級の臭豆腐を、遠い街の郊外で知ることになった。

愛嬌おじさんは 讚!だけではもの足りないのか、 讚! 讚! 讚! と三回やってくれた。これも愛嬌である。




  ちょうどうふ!いーが!




皿の上の料理を食べきらないうちから私は二皿目を注文していた。


奇跡の臭豆腐



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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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