風にころげた日もあった

2011/9/25 新竹

 玻璃工藝(はりこうげい)というガラスの博物館を後にした僕らは、その足で次の目的地へと向かっていた。真夏のピークを過ぎた9月の終わりの風が、露出した体の表面を、顔からひざ下にかけて、びょうびょうと吹きつけてくる。なるほどこれがうわさに聞いていた新竹のというものか。新竹は「風城」という別名があるくらいに、季節風が強いことで有名な街だった。

 油断をすれば、そのまま吹き飛ばされてしまうかもしれない。今すぐに何かを食べて少しでも体を重くしなければならない。追い詰められた僕の深刻な心境を、どうやって察してくれたのか、ルウさんは食べに行きましょうと言って、僕の間接的な訴えを、寛大な心で解釈してくれたのであった。
 
 道の両側には民家や商店がすき間なく建ち並んでいて、ときおり現れる古い建築の重厚なたたずまいに、風とともに生きてきた街、というものを、少しだけ見るような気がした。

 次第に人の密度が高くなってきた。人が集まる場所には美味いものがある、ということは本能的に確信していたのだけれども、人々の多くは参拝をしている風体で、線香がたちこめる白い空気の向こうには、のきらびやかなタイワン廟が、厳粛ないでたちで神々しい光りを放っていた。

 僕らはぶつかりあいながら、人の流れにのっかって細い路地の奥に吸い込まれるようにして入って行った。廟のなかでは、線香の煙に混じって、香辛料をちりばめた多彩な匂いが、盛大な蒸気をあげていた。おどろいたことに、あたり一面には屋台がひしめき合っていて、人間の声と皿どうしのぶつかりあう音とが、けたたましく鳴り響いていた。

 ルウさんに案内されたところは、新竹都城隍廟という、地元の人々の信仰を寄せ集める由緒ただしき廟だった。

 すれ違うのがやっとなくらいの人のなかで、今しがた空いたばかりと思われる椅子を、ふたつ見つけた。ルウさんに案内されるがまま、番号が書かれた丸い小さなテーブルに、腰を落ち着けた。僕のすぐの隣には、力のありそうなおばちゃんたちが、スープのような麺のような食べ物を、慣れた手つきですすっていた。

 日本で相席に案内されると、気まずいような申し訳ないような、いささか緊張したやばいに直面することがよくあるが、こと台湾になると、どういうわけだか緊張するような空気がまったくない。それどころかこの雑然とした空間に妙な安心感すら生まれるのはいったいどういうわけなのか。

 ルウさんが注文してくれたのは米粉(ビーフン)肉丸(バーワン)の混合技だった。とりわけ、ビーフンに関しては新竹の名物料理、ということであった。あたり一面に吹きすさぶが、その乾麺の製造過程に深く関係しているらしい。

 ふたつの料理は流し込まれるように腹にしまわれ、それでも本格的な晩飯までにはまだいくらかの時間があったので、僕らは、廟のなかを見物してみることにした。屋台からほとんど隣接するようなカタチで立派な堂がそびえている。よく見るとその脇にヘンなのがいる。眉間の皺の左右から肩にかけて垂れる眉毛。ぽってりとした頬の真んなかに大きく開いた鼻の穴。そしてどこまでも伸びる髭の間からは真っ赤な舌。さらに、お供え物をくれよう、と言いたげに片方の手をこちらに差し出している。神々しいとは程遠いスガタカタチの神さまだった。

 廟を出る頃には、風はいくらか弱まってきているようで、遅い午後の街中に、これからもきっと流れている風が心地よく聞こえていた。


風にころがる麺があった



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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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