ショウリュウキュウの汐と風

 阿檀の葉とムラサキ色のグンバイヒルガオが咲いている坂道を、レンタルバイクでブンブンのぼっていくと、ふいに木立がひらけて、弱まりかけた午後の日差しの中に、まだあざやかなほど青色にひろがる空が見えてくる。

 琉球遊客中心は島の北側の白沙港を見下ろす小さな丘の上にあった。バイクを降りるとすぐに、あのうわーんとした湿っぽい熱気が、それいけとばかりいっせいに体のあちこちにまとわりついてきた。

 建物の中は扇風機が2台まわっているだけであったが、室内のどこかで開け放した窓がちょうど風の入り口になっているようで、港から吹き上がる乾いた風が、建物の中をいっそう涼しくしているようだった。

 ペットボトルの水を飲み干してカウンターに視線を落とすと、小琉球の各所を紹介する色とりどりのパフレットに混じって、蒼いインクが染み込んだ古びた木枠が目についた。枠の中には四角や円型のスタンプが正しい顔で並んでいる。そのうちの一つを手に取り、インクを十分に染み込ませて、無印良品で買った文庫ノートの新しいページに、トスン、と押しつけた。

 キノコの形をした花瓶岩が、きりりと濃い蒼色に浮きあがり、円の縁からはみ出るようにフェリーが描かれた。それらに重なるようにFUN琉球の文字がある。私は閉じた反対のページにインクが写らないように、インクの艶の状態を注意深くうかがっていると、ふと、手洗い場につながる通路の向こうから、コテイちゃんが手招きしている姿が見えた。

 通路はそのまま、ベランダのような外の景色が見渡せる場所に続いており、視線のまっすぐ先には、白いペンキで塗りつけたマンガのような入道雲が、海の空の向こう側にぺったりとへばりついていた。港には漁船が7、8台、真面目な昆虫のように、波止場に垂直になって、静かに停泊していた。

 私は、はじめて台湾に来た頃から、ずいぶんと深い所にまで踏み込んでしまったものだな、と思った。今まで台北や台南など、ガイドブックで大きく取り上げられているような、有名な都市ばかりを歩いてきたし、それで十分だった。それが、自分が持っているガイドブックでもほとんどページが割かれていないような土地に来ることになるとは、これぽっちも考えてもみなかったから、ついため息が出てしまった。

 考えにもならない思考で頭をぶらぶらさせているとき、となりのコテイちゃんがバックからハンカチを取り出し、そのはずみで、潤いのあるキンモクセイの香りが、汐の匂いにフワリと流れた。ハンカチと思ったのは手ぬぐいで、夏の夜の花火の柄だった。それは一年くらい前に、私がお土産として贈ったものでもあるようだった。違いがあるとすれば、木綿の晒の端に、彼女の名前が小さな2つの文字で白く刺繍されている点である。彼女の、ときおりはにかむような、遠慮がちでどこかに哀愁を含んだ表情が、その台湾特有の薄化粧の奥から、あいまいに吹きつける汐の風の中にまぎれて見えた。

 部屋の奥から、ぺるお君の呼ぶ声が聞こえて、私たちは、再びバイクを走らせた。行き先は、スタンプが描いた、花瓶岩、ということになっている。

***太陽のかがやく小琉球で***


小琉球







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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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