はみ出し者の午前

 朝、新竹のホテルを引き払い、今は台北に来ている。やることはたいてい終わってしまって、あとは午後の飛行機を待つのみだった。どこか充足したような軽やかな空気が、胸や首のまわりでフワンフワンと上下している。その一方で、今さらどうにもならないのだ、というある種なげやりな気持ちも、心のどこかにつっかえている気もしていた。

 西門町のスターバックスでアイスラテを買って2階に上がった。平日のライチタイム前の店内はガランと空いていて、どのテーブルも使いたい放題だったが、謙虚なぼくは、誰も座っていないカウンターの端っこに落ち着いた。店員から受け取ったレシートの「元」の値段を「円」に換算してみたら、日本で飲むよりいくらか高いことが分かって、少し損をした気分になった。
 
 窓から見下ろす街並みは、東京の渋谷あたりと比べて、なんら代わり映えのないものだった。糖度の高いラテをひと口含んでから、ガイドブックの地図の「自分がいる場所」を眺めてみた。台北市街のど真んなかともいえる場所に位置する西門町の、それほど遠くないところには、そこそこの名のある観光スポットがいたるところに存在していた。
 
 人が本格的に活動を始める前の、まだ静かな午前に、ぼくは現代風のストリートを歩いて、街を抜けた。国道に出ると、それまで建物で遮られていた太陽が輝きはじめて、遠くの陽光のなかに、明治建築風の国家的な威厳を漂わせた建物が、ぐんぐんと近づいて来るのが見えた。

 門の手前で、カーキ色の軍服を着た憲兵に行き手をさえぎられた。手には自動小銃が鋭く光っている。憲兵は正しい顔つきでぼくを睨むと、近くにいた七三分けの白いワイシャツの係員風の男を呼んだ。男は「はい今日の受付終わりね」とやはり正しい顔つきで言った。台湾総督府は、平日の午前中だけ一般開放しているが、受付は11時30分に終了する、ということがこのときはじめて分かった。

 仕方がないので、ぼくはそのまま総督府に面した巨大道路を横切り、対岸の歩道に進んだ。やや細い道が緑じゅうたんの敷地に伸びていて、ずっと向こうの木立の影から、乾いたやさしい風が吹いてきた。

 二二八和平公園は、悲しく、やるせない、あの二二八事件が起こった場所だった。忘れられない、忘れてはいけない、台湾の重くて冷たい過去。そんな歴史の闇の部分に、深く正確に向き合う必要がある。そう考えた。そこにある記念館に行けば、当時の出来事を真実の隅ずみまで教えてくれるはずだった。

 記念館のまわりはひっそりとして、近くを歩いている人は誰もいないようだった。入口のドアはピタリと閉ざされていて、ドアの前には、何かを知らせる四角い看板がただ静かに立っていた。今日は月曜日である。台北二二八紀念館は、月曜日または祝日の翌日を休館としている、ということがこのときはじめて分かった。

 公園のなかほどまで歩くと、立体のやや幾何学的な建造物が、どこかを指し示すように、その先端をまっすぐ空に向けていた。その姿はまるで、正しくあるための道しるべを私たち後世に伝えるような、先人たちからのあたたかいメッセージに思えた。

 紀念碑の近くのベンチに座ってスマホを見ると、友人からメールを受信していたことに気がついた。「台北101の近くの会社で仕事をしているから一緒に昼飯を食べないか」という内容だった。ぼくは国道に向かい、流しのタクシーを止め、行き先を「タイペイイーリンイー」と伝えた。
***台北の二二八和平公園***

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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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