サバヒー粥をもう一杯

 怒号の中で目が覚めた。窓の外からどしゃどしゃと雨が落ちる音が聞こえている。時刻は午前七時前。どうやら目覚ましをセットした時刻よりいくらか早いようだ。あーあ、今日の朝飯どうしようかな、などと低気圧でずーんと重たくなった身体をシーツにくるめたまま、まだ覚醒しきらない頭で、天井の古い染みをぼんやり見つめていた。

 僕が台南に来ることを聞いて、すぐさま駆け付けてきた友人がいた。ブンちゃんは台北人だから、東京から京都に来るような感じになるんだろうか。台南は台湾でいちばん古い都市で、日本でいう京都である。台北はもはや完全に東京化しているから、ブンちゃんは「そうだ京都、行こう」と週末散歩の気分で遊びに来てくれたんじゃないかと考えた。

 台南にやって来たのは飛虎将軍を見るためだった。鎮安堂飛虎将軍廟には日本軍人が祀られ、地元の人々に拝められ、今でも大切にされているという。そこに至るまでどのような紆余曲折があったのか、戦争中に実在したひとりの日本生まれの軍人さんが、台湾に来て神様になってしまったのである。そのややローカル的で、人間味あふれる熱い奇抜な発想に、なにかただならぬ秘密の関係というものが、日本と台湾のどこか根本の部分で、深く横たわっているように思えたのである。

 飛虎将軍に案内してくれたのはホテルのオーナーの敦さんだった。たまたま行き方を尋ねたらすぐに車を出してその場所まで乗せて行ってくれた。そんな親切な敦さんから、昨晩、近所で食べられるおススメの朝食屋を教えてもらっていたことを思い出した。その店は朝早くに開店し、売り切れたらその時点で閉店するという。朝の五時から営業しているだけに、もたもたしていたら午前中の早い段階でなくなってしまうことは確実だった。僕はシーツをけとばし、ベットから転がり起きた。

 ブンちゃんは既に1階のロビーにいた。敦さんに台南小吃という地図をもらって、お店の位置を赤ペンで印してもらった。とても「讚」な味だから是非行きなさいということだった。ちなみに「讚」とは「すばらしい」という意味である。地元の人がうまいという店で飯を食うのは、何にも代えがたい喜びだった。

 バケツをひっくり返したような豪雨は小雨にかわっていた。街のひさしのついた歩道の上には、ときおり自動車やバイクが所狭しと並んでいて、そのたびに道路に降りて迂回しなければならなかった。仕方がないので、ブンちゃんと僕は傘をさして、それからはずっと道路の端を歩いた。

 店のすぐ近くには、何台かの車が停められていた。開放された店内は、店員さんがせわしなく動き回って、いくつかある円盤状のテーブルは多くの人で埋まっていた。飯を注文する音と、飯をはこぶ音と、飯を食べる音とが、常にけたたましく回転している。天井のシーリングファンの風に煽られて、カウンターの上の、Y字金具に差し込まれた箸入れのビニールが、ちりちりと音を立てて揺れていた。そんなカウンターの隅っこに、ちょうど二人分の席ができた。

 阿堂鹹粥はお粥の専門店だった。メニューに虱目魚というものがあったので、ブンちゃんに訊いたらサバヒーという答えだった。台湾にはサバヒーという魚がいて、台南市はとりわけサバヒーの養殖が盛んで、新鮮なものがいつでも食えるという話だった。淡白な見た目と裏腹に、味は濃厚で、スープに魚の味がよく染み出ている。ぷりぷりとした白身は脂が乗って、焼いた外側がカリッと香ばしい。近頃このようなやさしい朝飯を食っていなかったなあ、と箸休めに油條という台湾揚げパンをかじりながらつくづく思った。外の雨はあがって、南の空が少し白んでくるのが見えた。

***雨上がりの台南で*** 


台南お粥の朝食



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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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