イモと黒雲

  ほそい階段を上がる途中にお店があった。入口は古い民家の裏口を少しひろくしたような朴訥とした趣があって、ここのカウンターで、注文と、支払いと、受け取りをすべて済ませるようになっていた。

 今日は台湾のともだちと会う機会にめぐまれたので、カイ君とテイさんと僕の三人で九份に遊びに来ていた。街はあいかわらず観光客による混雑と騒音と狂騒であふれていて、僕自身もそれらを増幅させる一つの要因としてしっかり貢献しているんだなあと、なんだかおかしな気持ちになった。

 本当をいうと僕は観光地というものに興味がない。どこかよそ行きの外面の部分だけをうまくパッケージングして見せられているようで、その土地の本質的なところにまで親密に踏み込んでいくことができない、自分との間に目には見えない隔たりのようなものが横たわっている気がしてならないからだ。

 店の奥にはコンクリート壁むき出しの通路が続いて、おばさんたちが粉まみれになって何かをつくっていた。手のひらを転がしてグルグルと引き伸ばしたり、丸めたりして、それらは大きなカゴに次々と山盛りに積み上げられていった。

 さっき僕たちが入口で買った芋圓という食べ物の、芋圓になるまでの過程、というものがここにあった。サトイモをすりつぶし、サツマイモの粉を混ぜて、また、茹でる。

 さらに奥に進むと、とつぜん空間がひらけて、パッと白い光が視界いっぱいにひろがった。小さな丸いテーブルや、少し大きめな四角のテーブルが自由に置かれ、さらに巨大なガラス窓にへばりつくかのように、カウンターの席がぐるりと半円上につながっていた。

 阿柑姨芋圓というお店は、山の中腹の、比較的たかい位置にあるので、下界を見渡すことができる。カウンターの向こうは、山の斜面と、青い海が、パノラマ写真のようにひろがっていた。

 テーブルもカウンターも多くの人でひしめきあい、子供から学生、そしておばあちゃんまで、ありとあらゆる世代の人々が、みんな同じテーブルに座って、おしゃべりをしながら食事をしていた。

 テーブルの角にちょうど三人が座れる席があった。木の椅子をギィーと引いて、カップを目の前に置く。里芋の煮っ転がしみたいだ。ニンジンも彩を添えている。よく見ると中に小豆が入って、底にはかきたての氷が敷かれている。

 三人のうちの誰かがサトイモのひとつを口に放り込んだ。すかさず次の誰かが放り込む。僕は、サトイモとニンジンと小豆も氷もひとまとめに、エイヤッと放り込んだ。口の中いっぱいに、ムニムニしたものがひろがって、ちょっとだけあまい。ニンジンに見えたものはニンジンじゃなかった。これもやっぱりムニムニしていた。

 前に来たのは冬で、そのときはたしかお汁粉のようなあたたかい汁にイモが浮かんでいた。今日はカキ氷に乗っかるイモだった。舌の上にイモ特有の小さな粒子がさらさらしているのは、今日も同じだった。

 カウンターの席が空いたので、行ってみた。曇ったガラス窓に曇った空が写った。上空では、いつしか、暗黒のような雲があやしいひろがりを見せはじめていた。動きの速い黒雲が、山の斜面に強い風を吹かせて、木々は右や左に激しく揺れた。ときおり、粒の大きい雨が落ちて、黒と灰色のまだらになった低い雲が小さな山のてっぺんすれすれに流れていく様子が見えた。三人は、口の中にイモを含んだまま、これからどうしようかと顔を見合わせた。
***雲ゆきあやしい九份で***


イモと黒雲


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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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