二つの空

 2012年8月21日 宜蘭

 友人のメッセージで眼を覚ました。今日は車で案内すると書いてある。取り立てて予定はなく移動の手段も満足に知らない私にとって、友人からの提案は至極ありがたいものだった。しかし念のためだから、どこに行くのかと尋ねたら、山という返事であった。
 
 8月台北からバスで宜蘭に向かっていた。国道を走る窓の外には山が延々と続いている。変化のない山の景色ばかりを見ていたらいつの間にかうとうと浅い眠りに落ちていた。

 長いトンネルを抜けると、両窓に緑の田園が広がった。その田園には見覚えがあった。神奈川県伊勢原鶴巻温泉の間に広がる風景そのものだったのだ。宜蘭の景色が懐かしい故郷の風景に重なった。

 待ち合わせのバス停で降車すると、炎天の空から眩しい太陽が身体に降り注ぎ、冷房の効き過ぎたバスの寒さを過去の記憶にした。
 
 声の方向に振り返ると、道路の反対側で友人が待っていた。車は友人の父が運転するという。私はひどく恐縮した。

 車内の冷気に身体が再び慣れると、友人の不慣れな日本語と、私の拙い台湾語で、久しぶりの再会を喜んだ。付け焼き刃で覚えた私の台湾語は、基礎がないため、応用が効かない。学習に継続性もないため、上達する気配もない。一方で友人は、出来の悪い私のために慣れない日本語で一生懸命に会話を続けようとしてくれている。相手に頼ってばかりの自分がなんだか情けなく思えた。

 車は、ゆるやかなカーブに沿って、右に行ったり左に行ったりしながら山道を上った。
 
 上り坂が終わるとしばらく平坦な道が続く。道路がアスファルトから砂利に変るころ、木々は深く森は鬱蒼としてきた。自然に住む生き物の気配を次第に感じるようになった。

 ボンネットの上の暗い木立が途切れた瞬間だった。明るい光が射すと同時に目の前に起きた極端な変化に言葉を失った。

 それは山を背景に大きな水をたたえただった。山の中腹に池があることなど想像していなかった私は、自然が描いた空と水の鮮やかな対比に呆然とした。

 池の水は一定の静寂を保って、真っ青な空と真っ白な雲を黒い表面に写した。そして風が吹くときだけ鏡の反射を乱した。近くには鳥がチチチと唄い、茂みの蛙がクルルと鳴き、草の上では青く光るトンボが不規則に飛んでいる。生命が、池の水を中心に、生きる活動を継続しているようだった。
 
 池の周りは静かだった。観光客らしい人は私たちを除いて誰もいない。たまに地元の人が遠くに見えるくらいだった。

 宜蘭にはこのような美しい自然が数多く存在する。自然だけでない。人間味あふれる宜蘭に、私は次第に傾倒するようになっていった。


二つの空



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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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