むくむぎバレーは緑なりき

  ひょんなことから宜蘭のホテルで台中出身の兄ちゃんと友だちになって、その兄ちゃんから近所のお店で働いている宜蘭の友だちを紹介してもらって、さらにその宜蘭の友だちから紹介してもらったのが花蓮のチョウさんだった。

 宜蘭のあとに花蓮に行こうということはうすうす計画していたものの、花蓮に行ってから何をするのかまではまったく予定をしてなかったのであるが、僕の知らないところで偶発的突発的な人間関係の複雑な要因がからみにからみあって、当初無目的であった僕の旅はにわかにも急速な展開を見せはじめていたのであった。
 
 チョウさんのバイクの後部席にまたがって花蓮市内から慕谷慕魚(Mukumugi Valley)にやって来た。実は昨日、僕たちは山の入口にある派出所、いわゆる管理所のようなところで300人以下という入山制限の枠組みからあっさり外れてしまって、今日はそのリベンジの日となった。昨日と同じ派出所で、入山許可書に必要事項を記入して提出する。僕は外国人だからパスポートも添えて入山許可を待った。午前7時前であった。
 
 近くにひとり困っていそうな男がいた。チョウさんは彼に近づいて話しかけると彼の顔はみるみると安心したような顔になった。チョウさんは花蓮のいたるところに散在する自然地帯を知り尽くした大ベテランだった。彼女のFacebookでは、アウトドアな仲間たちと岩山での登山や滝の下でのダイビングなどといった数々のアグレッシブな写真を見ることができた。彼女いわくそのすべてはここ花蓮で体験したものである、ということだった。すっかり安心しきった彼の名前はファンニンと言った。会社を休んでマレーシアから遊びに来たと言う。僕はふたたびチョウさんのバイクにまたがり、三人と二台のバイクは川の上流に向かって走り出した。

 慕谷慕魚は馨憶精緻民宿のおじさんから聞いていたとおり、ほとんど観光地化が進められていない様子だった。太魯閣渓谷のように大型バスの排気ガスや観光客の喧騒というものがほとんどというかまったく存在しない。あきれるくらいに自然をむきだしにしたところだった。

 奥地に進むにつれ、見下ろす川の色が次第に青色にかわってきた。どちらかと言えばターコイズブルーのような青さで、それはまるで自然が作ったプールのようだった。それだけ透明度が高いということなんだろう。赤色の鉄橋を通り過ぎ、しばらく進んでから路肩のように少し広がりのある場所で僕たちはバイクを停めた。

 小雨に湿った岩に何度も足を滑らせそうになりながら川岸に下りた。僕は大理石の岩の上に座り、靴と靴下を脱いでからその足を水に浸した。キュッとつめたい感覚が伝わり、足の先に気持ちのいい流れを感じた。水の中には石と同じ色をした魚が何匹も群れになって泳いでいる。頭からしっぽにはしる黒色のストライプが遠くからくっきり見えた。岩の上に吹く風が新鮮な冷たい空気を運んで、チョウさんもファンニンも僕も、真夏であることをすっかり忘れた。

 途中で車一台がやっと通れるくらいの細い道がいくつもあった。車どうしすれ違いざまに運転席から顔を出しているおっさんなどをよく見かけた。お互いに声を張り上げながら譲り合っている。台湾ではこうした緊張するシーンに出くわしても、お互いに気を使わなくてもいいというようなゆるやかな空気が全体に流れている感じがあっていい。

 お昼近くに休憩所のようなところが見えたので、僕たちはしばらく休んでいくことにした。雨にぬれてところどころ変色した木の看板には烤小米麻糬山豬肉香腸があったので、それぞれ三本ずつ注文した。烤小米麻糬は、きな粉をまぶした餅に串をさしたもので、噛んだら中から少し甘くてとろりとしたミルクがとけだした。新感覚の意外な組み合わせだったがこれがなかなかいける味だった。山豬肉香腸はその名前のとおり猪肉のソーセージであったが、僕は見事にビールが飲みたくなった。ほとんど野外のような造りの店内からは、風鈴の音と、雨露に濡れてざわめく山々の音が聞こえた。
***花蓮の渓谷で***


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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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