きょうも道草くってます

 またやっちまった、と気がついた頃には、さっきまで乗ってきたバスは、下り坂のずっとずっと先のカーブの影に徐々に飲み込まれつつあるのであった。

 なんてことか。目的地の一つ手前で降りてしまった。このときの現実を見失ってしまったかのような不安な気持ちは、一瞬で具体的な不快な感情にかわり、またいつもそうであるかのように、たちまちのうちにあきらめの心持に落ち着いていくのであった。

 停留所の表示板を見上げると、次のバスは今から1時間と少し後でふたたびやってくることが分かった。停留所のすぐ近くに少し小高い緑の芝生地帯があって、ほぼ等身大といっていい姿カタチをした、牛のオブジェみたいなものが突っ立っていた。その白と黒のまだら模様の背中には、緑や青のペンキで初鹿牧場歡迎と案内板のように書かれてある。

 ここでバスを待っていても仕方がない。小雨が染みこんだ歩道に沿って、その牧場というところの中心に向かって歩いてみることにした。

 雨が降っているせいか、観光客と呼べるような人はほとんどいない。もっともこんな雨の日に牧場に好き好んでやって来るような人はいるわけがない。それでも今は夏休みのためか、たまに傘をさした親子連れが歩く姿があった。

 途中で、赤や青などの原色にペインティングされた牛が現れたりする。歩道から外れたところに牧場のような草原地帯が広がっていて、ここにも白と黒のいたってまともな牛から、原色きらきらモウやめてくれよと言わんばかりの牛までが、ところどころに転がっている。うーむと頷くしかない。
 
 さてこれからどうしたものかと考えていたところで雨脚が強くなってきた。道のちょうど突き当たりに、小さな土産物屋があり、その軒先に木のベンチがあるのが見えた。そこでしばらくやり過ごすことにした。
 
 ベンチに座り、ガイドブックで今いる場所を調べる。はじめから来る予定がなかったところだから、今から調べるのである。雨はザアザアと降っている。庇から跳ね返る雨のしぶきが、手もとのガイドブックのページにいくつか色の濃い部分をつくっていた。

 そんなとき、背後から、正確には土産物屋の入口の奥から、心地のいい音楽が流れていることに気がついた。歌詞の内容はわからなかったが、民族音楽のようである。少年少女が歌うその旋律は楽しく元気で躍動感があり、それなのにどこか哀愁を含んだメロディーが全体を包みこんでいるような、力強さと湿り気の入り混じったふしぎな音色をもっていた。

 店に入ってすぐのレジのところに太った兄ちゃんがいたので、今流れている音楽は何かと尋ねてみると、兄ちゃんはレジカウンターの下から、泰武國小古謠傳唱 歌開始的地方という題のCDを取り出した。兄ちゃんはそのCDについて何か説明をしてくれているようだったが、言葉が分からない私に対しては焼け石に水だったようでなんかだ申し訳ない気持ちになった。440元の値札があって、当時でだいたい1,300円くらいだった。ザックから財布を取り出し額面どおりの金額を渡したら、兄ちゃんはニッと笑って40元を戻してきた。
 
 店を出た頃は、大粒だった雨はふたたび霧状の小雨に変わっていた。土産物屋の近くにフードコートらしき建屋があり、広い店内の白い大きなテーブルには、ぽつりぽつりと散らばるように、何人かの客が食べたり飲んだりしていた。

 初鹿鮮乳という名の飲み物が、入口のカウンター上のメニューボードに、ひときわ大きく描かれていた。しぼりたての新鮮な牛乳が飲める、ということらしい。客たちはみんな、メニューにある簡易プラスチックの牛乳カップを持っていた。

 中学生くらいの頃まで頻繁に飲んでいた牛乳を、持て余した時間のなか久しぶりに口にしてみると、こうやって道草を食ってみるのも案外いいものだな、と過ぎ去った懐かしい日を思い出して思った。同時に、スマホの時刻から、あと10分後にやってくる来るバスのことも思い出した。それから、あと10分、あと10分と、頭のなかで何度も何度も反芻した。

***台東~雨の牧場で***


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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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