高台球飛翔の幻想

 台東縣鹿野高台行きのバスが、山線總站という台東市街のバスターミナルから午前の10時半に出ることがわかっていたから、朝から活気のある市場に近い飯屋ですこし遅めの朝めしを食べていた。アサリと野菜がのっかる麺で、店の愛想のいいおばちゃんともあいまって心なしか身体にやさしい味がした。

 バスターミナルにもどる途中にテイクアウトの軽食屋を見かけて、まだすこし胃袋に物足りなさを引きずっていた僕は、なんとなくパンを一つと店の看板商品らしい何がしかのお茶を買って、バスに乗り込んだ。
 
 バスは団体の観光客が集団で乗るような立派で大型なそれだったけれど、出発時間に近くなっても僕ひとりをおいて他に乗り込んで来る客は誰もいなかった。

 いちばん前の座席を選んだのは、どこで降りればいいかわからなくなったときに、すぐに運ちゃんに声をかけて確認することができるという過去の辛い経験則に基づくものであった。

 左の手すりから簡易テーブルを引っ張り、パンとお茶を置いてから、170元で買った縱谷鹿野線一日券の裏面のルートをあらためてみると、鹿野高台はルートの終点になっていた。とにかく何も考えずに乗っていればいつか確実に終点に停まるのであって、今回ばかりは降りるところを間違える、という事態にはならいことがほぼ約束された。
 
 完全にひとり貸し切り状態になった車内はたえず日本のポップソングが流れていた。以前もこんなシチュエーションがあったなと思って、パンをかじると中から勢いよく肉汁が飛びだしてきて、買ったパンはただのパンじゃなかったことにこのときはじめて気がついた。

 鹿野高台に到着したのは、もうお昼になりかかろうとしている頃だった。バスを降りてすぐ目の前が高台になっていて、いく人かの先客が斜面の先に広がる景色を眺めていた。

 ねずみ色の空の下に碁盤の目のような畑や村が広がって、その向こうに絵に描いたような山脈が続いている。日本でも見たことがあるような、どこか懐かしいような風景があった。

 ポツリポツリと雨が降りだしてきた。ザックから折り畳み傘をとりだし開いたついでに後ろを振り返ると、金色で福鹿山と書いた石碑が立ち、さらにその後ろには、飲食店のような土産物屋のような建物があったけれど、どちらにしても自分には用がないものだった。僕はそれまでバスが上ってきた坂道を戻るようにして下った。

 途中、ゆるやかに傾斜する芝生の一帯があった。ところどころ土肌の露出した運動場のような広がりは、ただ広いだけで、そのなかを歩いている人は誰もいなかった。雨露で湿った広大な芝生を横切り、その芝生を囲うように走るアスファルトの道路に出ると、ここにも土産物屋があった。軒先に、電球にしては人の顔ほども大きい電球の形をした色とりどりのちょうちんがぶら下がっていて、よく見るとそれは気球をデフォルメしたものらしいことがわかった。

 鹿野高台はとりわけ熱気球で有名なところで、毎年夏になるとおびただしい数の気球が集まる地であると知ったのは、日本に帰ってだいぶ経ってからのことであった。熱気球は6月から2か月の間だけという話だから、僕がいたのはちょうど閉幕したばかりの頃ということになる。

***台東鹿野の高台で***


鹿野高台





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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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