台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

改札を越えて

 2011年7月12日 台南

 台南を初めて訪れたのは、初めて台湾を訪れたときだった。台北の次に行くところは台南と決めていた。理由はないけど、台湾の北が台北であれば台湾の南は台南であると思っていた。

 私の飛行機はいつも松山空港に着いた。そのため台北には必ず行く。台北はやっぱり大都市だったし素敵な魅力が満載の大都会だった。だからその対極にある台南は南部を代表する魅力的な都だった。

 台北のホテルで、台南に行く方法を調べていたら、台北駅から高鐵(新幹線)で行くのがいちばん早くて快適だと書いてあった。

 ビジネスの思考にすっかり染まっている私は、時間はお金で買うものだという窮屈な観念が刷りこまれていたので、すっかりその意見に同意した。

 高鐵で移動すれば、台北から台南までは、2時間程度で到着するという。でも本当の台南は、高鐵の駅からさらに台鐵(在来線)で30分ほど先の台南駅からはじまる。

 高鐵を降りた私は、台鐵に乗り換えるため、頭上の案内板を頼りに、在来線にあたる沙崙駅のホームを目指した。

 まだ見ない南部の空気の中には、晴れやかな好奇心と、少しの心細い気持ちが浮いていた。

 他の客は慣れている足取りですいすいと歩いている。私は初めて対面する地にそわそわしながら前を行く客の後ろについていった。

 しばらく歩くとこれから乗ることになるはずの列車がしかるべき位置で停車しているのが見えた。しかし、早歩きで乗り込む客の歩調に合わせるように、列車は今にでも走り出そうとしていた。

 台鐵に乗るのは初めてであった。台北では、MRT(地下鉄)ばかり乗っていたので、初めて来る台南の地で、初めての試みとなった。

 昔からずっとあるような青い四角の券売機には、 台南 の文字が描かれたボタンが乗っかっている。しかしそのまわりには見たこともない文字、繁体字の組み合わせがふんだんに乱舞していた。



・・・「一張」 「二張」 「三張」 「四張」・・・


   ・・・「自強」 「莒光」 「復興」 「電車」・・・
  

           ・・・「全票」 「孩童」 「老障」・・・




 この中で理解できたのは「電車」の文字それだけだった。電車に乗るのだから電車を選ぶことに間違いない。しかし、その他の文字は急ぐ頭の回路で意味を想像することができなかった。


出発の時間は刻一刻と迫っていた。


 とにかくお金を入れないことには始まらないと考え、小銭入れに指を突っ込んでみるが、手に触れる硬貨の感触でその価値をすぐに識別することがでない。平たい鐵の塊は革の中でただ冷たい金属音を響かせるだけだった。

 この列車を逃したら後の観光に支障がでるのではないか。慌ててお金を取り出そうとするが、行き先の値段に見合う硬貨は現れず、慌てる手をいっそう慌てさせた。

 たとえこの列車を逃すことになったとしても、30分後には次の列車がやってくるのである。しかし、無駄にできる時間を作らないというビジネスの論理に洗脳させられている頭には、次を待てばよいという柔軟な発想はやってこない。

 そんなとき、改札の向こうの、列車の扉の前に立っていた車掌さんが、意外な言葉で私に叫んだ。




  あとー!あとー!




 日本語のように聞こえた。 そんなこと(切符を買うこと)はあとでいいよ と言っているように聞こえた。むしろそのように言っているとしか考えられなかった。


 私は少し自分の耳を疑ってみたけれど、アクセントに少しのなまりがあるだけで、特にこれといった違和感は感じられなかった。


 それどころか、その力強い声には、どこか懐かしい響きすら匂わせていた。



 あとー!あとー!



 車掌さんはなおも続けた。自分が生きるよりも前から続いている、遠い故郷を思わせるような、全てを包み込んでくれる安心感を、言葉の奥にしっかりと捕らえた。


 車掌さんは、今にでも閉じられる列車の扉を押さえたまま、空いている方の手で、早く乗れと手招きしている。


 もう時間がなかった。今すぐに走らなければ、この列車は行ってしまう。


 私は思い切って、切符も持たずに、目の前の改札を走り抜けた。



 あとー!あとー!




 言葉自体に特別の意味が含まれているわけではない。どこでも聞かれる簡単で平凡な言葉だった。


 それでも、扉を開けたまま、最後まで温かい目で見守っていてくれた車掌さんを思い出すと、今でも、聞こえることがある。


(終着の台南駅では高鐵から来たと伝え乗車区間の料金を支払い改札を通過した)



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台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
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