海までついでに切り取って

 福康大飯店で借りた自転車の、やや左に傾きかけたハンドルさばきも、自分で言うのもヘンだけど、なかなかイイ感じに様になっている。ほんの気まぐれついでに、鯉魚山のてっぺんから見た海をめざして、自転車は、ふもとから続くサイクリングロードを、風をきって、すいすいと走った。

 自転車と平行するように線路がとなりに走りだして、だんだんだんだんとプラットホームが盛り上がってきた。ホームに立っている台東とかいた駅名標のすぐ後ろに、グレーと黄色の短い車両がうすい日差しにキラリと光った。今は使われなくなった旧台東駅舎にも、むかしは、列車に乗る人と列車から降りる人が同じ数だけあって、せわしなく入れ替わる人びとを背に、列車は、時刻表をまもりながらもけたたましく日々往来していた、というような風景だった。

 上半身に受ける遅い午後の風は、いつでもシャツのまわりの熱をかき消して、くび元からすそに向かってパタパタと流れていった。その風のなかに、ちょっとずつだけど、潮の気配が混ざりはじめていた。そして、空が大きくひらかれ、迎曙之濱と朱色で掘りぬかれた道標のその向こう側に、でっかい海が、ワッハッハと大笑いするかのようないでたちで、遠く、遠くに広がった。

 道の端に自転車をとめて、ところどころに流木がころがる砂浜に下りていった。近くで見る海は、茶色がかった砂混じりのうすい青色で、そのわずか自転車10台分くらい向こうの海は、連続する同じ海にもかかわらず、くっきりと濃い藍色に境界線を鋭く縁取られて深く沈んでいた。砂浜のうえでは、夕涼みをする人たちがポツリポツリとあいまいな間隔を空けて、静かに海を見ていた。泳ぐ人はだれもいない。

 道なりに車輪をゆっくり転がした。両脇にはやわらかな草原が快くなだらかに広がり、すわったり寝そべったりできるように、親しげに人を誘っている。ペダルをこぐのをやめ、自分の足の長さよりも高い位置にあるサドルに引きづられるように、つま先を地面にピンと突き立てて、思わず大きく深呼吸した。

 道の先のほうから、太って足の短い正体不明の動物が人を引っ張ってトコトコと歩いてくるのが見える。なんだなんだ、と思って近づいてくるのを待っていると、やがて、うすいブルーの帽子に黒とモモの色をした豚ちゃんが、ブヒブヒと鼻先を伸縮させて、うれしそうに草の匂いをかぎながらやって来た。豚ちゃんは、短いしっぽをクルリとまるめて、お姉さんの小麦色の腕にひかれて通り過ぎた。その短いしっぽ姿は、だんだんと小さくなっていった。
 
 そんな台東海濱公園の一角に、地面に斜めに突き刺さったフォトフレームがあった。天気のいい日はフレームの向こう側に緑島が見える、というけれど、今はうすくかかる雲の向こうにあるようだ。あたりは、西に沈みゆく夕日を受けて、黄金色へと移り変わろうとしていた。

 一日のなかで、人や風景が、もっとも美しくかがやく瞬間がある、ということを思い出した。あと少し経てば、それほど時間もかからないうちに、その瞬間は、きっと必ずあらわれるはずだった。そんな時があるのなら、いっそのこと、斜めに傾いたフォトフレームから、切り取ってみたい、と思いながら、ペダルに張りついているつま先は、やっぱり、森林公園に続くサイクリングロードを、西に向かってこぎだしていた。

***台東の海の見える公園で***


海までついでに切り取って




ブログランキング・にほんブログ村へ
台湾ちんほうちゃ日記

コメント

非公開コメント

みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

最新記事一覧

風景区の止みきれないさびしさ 2018/05/21
ながれながれて新店線 2018/05/18
象山から、シーンをつなげ! 2018/05/12
巡りあわせと選択のなかで、記録をとめない 2018/05/06
車輪のいいわけ 2018/04/30
屋根にキリンがいないころ 2018/04/22
1/13サヨナラノート 2018/04/15
地下の誠品R79 2018/04/08
夜がおわるまで 2018/04/01
高は高雄の高 2018/03/25
おでん屋のマナー 2018/03/18
金魚れもん 2018/03/11
排骨と飯と午後の予感 2018/03/04
アタマのコンクリとけだした 2018/02/25
風の方向に帰ります 2018/02/18

Twitter

ブログ村

メールはこちらから☆

mvcos.infini@gmail.com

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR