フンキコの弁当喰い

 午前中に阿里山から奮起湖へ移動した。嘉義県にある標高1403mの奮起湖は、ドーム型をした白い雲にすっぽりと覆われて、ちかくの山の木々の茂みからは濃厚な霧がモクモクと吹き降りていた。地上にいた時とくらべると肌に触れる空気がまったく違うものに変わっていてむしろ寒いくらいだった。そして湖はない。

 あたりには老街とよばれる古い町並みがひろがり、土産屋とそれを往来する人びとでひしめきあっていた。路上にまだ泥がついたままの生わさびがそのままの姿で売られていたりする。そんなにぎやかな老街を通り過ぎて小道の脇の階段を降りる途中にある1軒の飯屋にはいった。

 阿良鐵支路便當という店の品書きにはいくつかの食べ物の名前がならんでいたが、そのどれもは弁当のようだった。なかでもほどよい色合いをした120元の紅糟排骨便當を注文することにした。

 店内はけっして広いほうではなかったが、みんなが相席で座るテーブルはどこもかしこも満席で、弁当を待っているあいだにも、空いたテーブルからすぐに人でふさがっていった。奮起湖は奮起湖駅があるから、ここでは駅弁ということになる。それであっても、はるばる列車に乗ってさびしい旅情ただよわせる腹をすかせた乗客が通りすがりついでに駅弁を、といった風情はなく、ここに弁当を食べに来ることを本来の目的としているような雰囲気が、人びとの観光然とした風体からしっかりただよってきているようだった。

 いたいけない四角に色とりどり食材がぎっしりと詰め込まれた弁当は、お互いがケンカをするでもなく、あるいは無理やりに主張するでもなく、それぞれが相手を尊重しあい、調和し、自分の役割を自分の領分のなかでうまく果たしているようにみえて、なんだかうれしいものがあった。だから、白い飯のうえには、いくつかの肉切れと、付け合わせの野菜がのっかっているだけでもう充分だった。

 阿里山烏龍茶で骨まで煮込んだ鶏もも肉と、香辛料の効いた揚げたて骨付き豚と、地元でつくった採りたて野菜と、米どころの台東のを、噛むところは噛んで、あとは飲み込んだ。

 「たりなひ」

 「足りなひ」のである。すっかりすべてを平らげしまってからの印象は正直に「足りない」というただその一言だったのである。

 台湾にいるときの胃袋は常になにかしらの有機物が詰めこまれている状態で過ごしていることがおおく、東京にいるよりも空腹の時間が極端にすくない傾向にあるのだが、足りないものはたりなひのである。

 いっしょに食べていた向かいの友人は、そんな刹那的な所業の一部始終を観察して「おおいっ」と目をまるくして、食べかけの鶏もも肉をテーブルの上に落とした。自分はというと、少しぬるめに落ちついたタケノコスープをズビビと飲み干し、使いおわった割り箸をバキリとへし折り、弁当箱にいれると、ふたをして、輪ゴムでパンして、これでおしまい。

***お昼どきの奮起湖で***


フンキコの弁当喰い




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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

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