Takao記念日

 店を出てさあこれから何をしようということになった。隆君は、ぼくが何をしたいのか、どこに行きたいのか知りたいようだった。ぼくは何をしようなんてまったく考えてこなかったし、そのうえ高雄は今日はじめて来たのだから、どこに何があるかなんて分からない。「うーん。うーん」とぼくがモゾモゾはじめると、隆君はなんだか困ったような顔になって、頬の内側あたりを「チッ」とならした。

 隆君は、どうやら物事が思いどおりにいかなかったり、もどかしいような局面にぶつかると、よく「チッ」と舌打ちをした。たとえばぼくに自分の言いたいことがなかなか伝えることができないと「チッ」。自分でもよく分からなくなってスマホなどで調べなくてはならなくなると「チッ」。はじめ怒っているのかと思っていたけれどどうやらそうでもないらしい。というのも、どうも台湾人はちょっと行き詰って考えごとをするようなときに、みんなほぼ慣習的に「チッ」とやる、ということがずっと後になって分かったからだ。

 隆君は急に思いだしたように「ズーペンがある」と言ってあるきだした。高雄駅は高雄車站と書いてあるけど、もうひとつ高雄車站と書いてある建物があって、こっちはなんだかどうも古い。なんでも1940年に建てられたもので、こっちが旧駅舎ということだった。隆君がズーペンと言ったのは、ズーペンは日本という意味だから、むかしの日本時代の建物に案内してくれたのだ。

 高雄には高雄車站のほかに高雄捷運という地下鉄もはしっていて、隆君とぼくはプラスチックでできた青いコイン型の切符を買って、それに乗った。地下の通路やホームはひろいうえに人がすくなくて快適快適と思っていたけれども、よく考えればそれは設備の規模にたいして利用客がすくないということになる。ぼくは、せっかくこんな便利なものなのに、ちゃんと利益をあげているのかいささか心配になってしまった。

 西子湾という海がちかくにありそうな駅で降りて、しばらく高雄の街並みを見物しながらあるいた。そしたらこんどは渡船頭海之冰というカキ氷屋さんがあったので、ぼくと隆君は、洗面器ほどの皿に盛られたバナナと抹茶のカキ氷をふたりして食べた。

 しかしどうにもこう落ち着かないのは、店の中の壁やテーブルの一面に、もうとにかくいろんなデカ文字チビ文字カオス絵による混合体が無慈悲に落書きされているからだった。とくに書き尽くされ過ぎてもうなすすべもないといった壁にいたっては「ワシ、こうみえて、むかし純白だったですねん」とでも言いたげに、乱舞する文字の向こうに前世の面影をかすかに残すくらいに衰退していた。隆君は「オレたちの出会いの記念に書くぞ!」と、どこから持ってきたのかいきなり青ペンをとりだした。前のひとのなまえに重ね書きすることは必然だったけれど、かろうじて自分のなまえが文字として判別できる程度に隆君とぼくは今日の日付となまえを食べ終えたテーブルのすぐちかくの壁に書き込んだ。

 店のなまえが渡船頭海之冰というだけあってちかくには船渡しならぬフェリー乗り場があった。その鼓山輪渡站に着くまで、どこかからグオングオンと地鳴りのような低い音がしているのに気がついた。それから猛獣のようなエンジン音がけたたましく響いたかと思うと、おびただしい数のオートバイのタイグンが、上からも下からも折り重なるようにしてブイブイと走ってきた。

 「なんだなんだ?!いったいなにがおこったんだ!!!」

 ぼくは隆君の背後でうろたえながら、オートバイのタイグンに追われるような格好で、いつのまにか排気ガスのまみれるフェリーのなかに乗り込んでいた。

***西子湾からフェリーへ***

隆君のこと




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台湾ちんほうちゃ日記

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みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
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