食べ頃の仙草ぜりぃ

 2012年6月24日 台中

 目的のお店に到着したころにはすでに夜の10時をまわっていた。今まさに降ろされようとするシャッターに向かって友人は言った。


 二人だけど!まだあるか?


 お店の兄ちゃんはあるよあるよと快く承諾し、閉店したにも関わらず再びシャッターを全開にして、僕たちを温かく受け入れてくれた。これには、どうしても美味しい仙草ゼリーを食べてみてほしいという、友人の好意があった。

 台中を訪れたのは、台湾の旅を始めてから、意外にも後のほうになる。北と南は行ったことがあったけれど 中 は通り過ぎるだけで今まで行く機会がなかった。どういうわけか真ん中にあるものは損をするようだ。これは 中 が持つ、特有の悩みに思えてならなかった。

 観光客に媚びること知らない店の中は、茶色い染みのついた看板が適当に転がっていて、使い古したテーブルから、地元客でにぎわう日常の光景を思い浮かばせた。

 お店の兄ちゃんは、使い込まれた大きなステンレスの容器にお玉を入れて、少しかき回してから、うごめく黒いゲル状の物体をぼよんと紙のお椀に落とした。

 出されたゼリーは、狭いお椀の中で、たぷんたぷんとたゆたう汁の上から妖しい光を放っていた。

 スプーンですくったひとくちを口の中に入れた。

 張りがある柔らかな弾力が、気取らない自然の甘さの汁の中を、ゆっくりと泳いだ。噛もうとする歯を優雅にすり抜ける様は、自身から発する艶やかな甘さで誘惑しながら、ひなたの仙草の香りをほのかに残した。やっとのことで捕まえようとするが、こちらの攻撃に決して逆らわない弾力が、歯で押し込む力を寛大に包み込む。食べる闘士が脱力感とともにそぎ落とされる。ゼリーが、必死で追いかけようとする思いを、あざけり笑っているかのようだった。


 それはまるで別種の生き物だった。


 テーブルの前で必死の攻防戦を繰り広げていた僕に向かって、友人がこれを使えと言ったころ、我に返った。渡されたのは小さなプラスチックの容器に入ったクリームだった。いつもコーヒーに入れるクリーム、まさにあのクリームであった。

 純白のクリームがぷかぷかと浮かびあがると、黒い悪魔が、妖艶な光をさらに妖艶にして黒光りした。ぶよんぶよんの黒いブヨンのような悪魔は、依然として、ぷにゅぷにゅとした肉質を簡単には掴ませてくれない。ゼリーそのものが生きていた。噛もうとする歯から逃げようと意思すら感じる。その意思が、まるで生きているかのように、口の中で、必死で絶命せんと抵抗しているかのようだった。ようやくその一辺を歯で捕まえると、今度は、噛んだ反動をもってゼリーが歯茎まで一気にぷよんと押し寄せる。

 時間をかけてじっくりと作りこまれた仙草は、食べ物の領域を超え、もはや超生物の境地に君臨していた。僕はこのときに初めて、今まで食べてきたゼリーは、噛むとぼろぼろと歯の断面を残して崩れる食べ物だったという事実を知った。

 黒と白のぶにゅぶにゅで、口の中をいっぱいにしていたが、最後はやっぱり妥協して飲み込んだ。


食べごろの仙草ぜりぃ



ブログランキング・にほんブログ村へ
台湾ちんほうちゃ日記

コメント

非公開コメント

みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

最新記事一覧

渓頭往きのバスが満席だから 2018/06/20
プラットフォームは向こう側 2018/06/13
たおれるくらいの酒の量 2018/06/08
昌平路のガチョウめし 2018/06/01
台中追分途中下車 2018/05/27
風景区の止みきれないさびしさ 2018/05/21
ながれながれて新店線 2018/05/18
象山から、シーンをつなげ! 2018/05/12
巡りあわせと選択のなかで、記録をとめない 2018/05/06
車輪のいいわけ 2018/04/30
屋根にキリンがいないころ 2018/04/22
1/13サヨナラノート 2018/04/15
地下の誠品R79 2018/04/08
夜がおわるまで 2018/04/01
高は高雄の高 2018/03/25

Twitter

ブログ村

メールはこちらから☆

mvcos.infini@gmail.com

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR