崖下のへび

 午前中に太魯閣長春祠を散歩してからその足で清水斷崖に向かった。

 清水斷崖というのは、聞くところによると清水山という標高およそ2,400メートルの山のてっぺんから、4,000メートルほど進んだところでストンと海に落っこちる、いわゆる断崖絶壁のことをいうそうだ。

 数字だけみてもあまりピンとこないがこれは結構すごいことらしい。というのも、中学校のときに社会科の地理の教科書でノルウェーのフィヨルドというのがあったけど、そんな有名どころでもせいぜい1,000メートルあるかないかの高さというから、どうもこれはほうってはおけないということになった。

 チョウさんの運転するバイクは、今日もとばし過ぎずのゆっくり過ぎずのポポアな感じだった。あっ、ポポアは台湾語で「まあまあ」って意味ですね。

 台湾東の宜蘭花蓮を南北につなぐ蘇花公路という国道をひたすら走った。道路はクネクネと曲がりくねりながらつづいて、大型トラックやダンプカー、それにたくさんの観光客を乗せたバスが、排気ガスをぶんぶん吹きちらしながら隊列を団子にしたり離したりして、日本の原付とさしてかわらない僕ら二人乗りのバイクといっしょに、おたがいに伸縮をくりかえしながら進んでいった。

 長春祠を発って30分くらいそうした風景がつづいていたんだけど、やがてトンネルを抜けでるときがあって、視界にふたたび白い光がもどってきた。それと同時に、左方面には黒々とした鋭い崖が、右方面には陽光をいっぱい浴びた水色の海があらわれた。

 海は崖の下にあって、いま走っている道路こそ水平を保っていたものの、崖は左上の山から右下の海岸まで、そのままの傾斜でいっきに切れ落ちる絶え間ない連続だった。海岸では激しい波が岩にぶつかり、白い泡となって砕けているのがみえた。

 バイクを降りたらひさしぶりの地面の固定感にホッとしてかるく伸びをした。ちかくには清水斷崖とかかれた案内石があった。ついでに太魯閣國家公園も併記されて、これも太魯閣の一つであるんだなとこのときはじめてわかった。

 ちょっと気になったのでスマホで現在地を調べてみたら電車でも来れることがわかった。最寄りは崇徳駅で各駅停車しか停まらないんだそうだ。さらに駅を降りて蘇花公路を歩いくとあったので、僕はとっさに大型トラックやダンプカーや観光バスがひっきりなしにビュンビュン走るあの国道を思いかえした。

 これは小心に小心を重ねたうえでココロして挑まないと、ちょっとした油断の欠落でいったい自分の身にどんな災難がふりかかって来るかわからないぞ。あっ、ちなみに小心は「気を付けろ」のことですな。

 チョウさんは「あんたね、ここはまだほんとうの清水斷崖じゃあないんだよ。実はこの先に取っておきのところがあるんだからね」と言った。「えっ!?ここが清水斷崖じゃあないっていうんかい?はい、そうかい、わかりました。でも僕にとってはこれでもう十分すぎるほど断崖絶壁じゃないのかよ。するってえとあれかい?オソロシイにもほどがあるじゃあないか!」僕はチビりそうになった。

 チョウさんは無言のまま、崇徳隊道の崩れかけたトンネルの脇にある石ころだらけの未舗装のけもの道へ歩いていった。そして赤いDANGERの文字との絵がはいった立入禁止の札がついたロープを何もなかったようにひょいと飛びこえて、藪に包囲された傾斜をぐんぐん登っていってしまった。チョウさんはうしろを振りかえることはなかった。僕はただもうだまってチョウさんのあとについていくしかなかった。

***清水断崖へ***


崖下のへび




ブログランキング・にほんブログ村へ
台湾ちんほうちゃ日記



コメント

非公開コメント

みのりおん

台湾の街とか田舎とか飯屋をウロウロとあるきまわる無気力無思考無頓着なタワイモナイ日々をなけなしの写真とバカな文章でただひたすら書きつづけます。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味。

最新記事一覧

渓頭往きのバスが満席だから 2018/06/20
プラットフォームは向こう側 2018/06/13
たおれるくらいの酒の量 2018/06/08
昌平路のガチョウめし 2018/06/01
台中追分途中下車 2018/05/27
風景区の止みきれないさびしさ 2018/05/21
ながれながれて新店線 2018/05/18
象山から、シーンをつなげ! 2018/05/12
巡りあわせと選択のなかで、記録をとめない 2018/05/06
車輪のいいわけ 2018/04/30
屋根にキリンがいないころ 2018/04/22
1/13サヨナラノート 2018/04/15
地下の誠品R79 2018/04/08
夜がおわるまで 2018/04/01
高は高雄の高 2018/03/25

Twitter

ブログ村

メールはこちらから☆

mvcos.infini@gmail.com

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR