台湾ちんほうちゃ日記

~ガイドブックにない無目的が目的の究極のひまつぶし~

山の上の高い空

 西子湾駅の交差点をとおりすぎて、壽山のうす暗い山道を、タイワンイヌをかわしながらうねうね駆け上っていくと、ふいに木立がひらけ、外灯の明かりが照りつける車だまりにでた。

 すでに停まっていたバイクとバイクの間に、自分たちの乗ってきたバイクを押しこんでから、リブヲと僕は石段を登った。

 登りきると、そこにはちょっとした展望台があって、テレビドラマか何かにでてきそうな洒落た電飾のまわりには、何組かのカップルたちが、スマートフォンで自撮りや他撮りなどをして、涼しい夜をすごしている姿が目に入った。

 「なんてこった。デートスポットじゃないかよ、おい。まったくなんてこったあ」

 僕がはじめて高雄忠烈祠に来たのはもう6年も前のことになる。まあ、それ以後もこうして何度か来ていていたわけだけど、リブヲと来るのは今日がはじめてだったので、なんとなくそんな言葉が口からでた。

 「そういえば最初に来たときはLove景點なんてもんあったかなあ。でも2年前に来たときはあったかもしれないな。いやそのときは確かにあったぞ。やはりこれも最近の変化というやつなんだろうか」などと、ひとり思い出しては意味もなく納得していた。

 「むかし高雄神社があった。いまは壊された。もうないな」

 展望台の木の階段を上りきったところで、リブヲは腹の底から力をこめるようなひくい声で言った。

 「仕方ねえよ。でも、そういうのは別にここだけの話じゃないだろ。台北だって、花蓮だって。どこだって時代は入れ替わっていくもんだ。それよりもこんなところにいい年した男が2人で来るなんてよう。でもこれはこれで、もしかしたらロマンチックなんじゃあないのかおい。本当はまんざらでもないんだろう。ヒヒヒヒヒっ」

 本気と受け取ったか冗談と受け流したかわからなかったが、リブヲは、ぼんやりとしかし力強く点灯する高雄の街のかがやきを、だまって見ていた。

 そういえばリブヲは来月から高雄に帰ってしまうんだな。ふとそんなことを思って、なんだかすこし寂しいような気持ちになった。ふもとから吹いて来るのか、ふもとへ吹いて行くのか、闇の光のなかで風がよく通りぬけた。

 高雄忠烈祠は当時の建物こそなくなってしまったものの、リブヲの言うとおり、そのむかし高雄神社だったというだけあって、石灯籠や狛犬がいくつか残っていた。ここに来る途中で見た門も、色や形は変わってしまったものの、基本的な鳥居の型をまだその枠組みの中に留めているようだった。

 「メシ食うか?」

 僕らにとって、これ以上の長居は不要だと思ったのか、それとも僕の腹の減り具合をするどく見抜いたのか、リブヲは階段を下りはじめ、僕はその後につづいた。

***高雄忠烈祠-Love景點***

高雄忠烈祠-1

高雄忠烈祠-2


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蒼のうわがき

 「バイクに乗りかえてくる」

 そう言い残すと、リブヲは自宅のある方角に向けて、ブイーンと車を走らせて行ってしまった。

 リブヲの話によれば、常に駐車場を気にしていなければならない車よりも、小まわりのきくバイクのほうが高雄の街歩きにはるかに適している、ということだった。

 ホテルの前にひとり降りた僕は、チェックインのためにフロントに向かった。受付のお姉さんにパスポートを見せて、部屋のカードキーと、おそらくは使わないであろう明日の朝食券を受け取って605番の部屋にはいった。

 今晩泊まるホテルは高雄秝芯旅店という、ところどころにファンシーな趣きがあるホテルだった。値段のわりに部屋が清潔なので、空きさえあれば高雄に来るとたいていここに泊まることにしていた。

 リブヲが迎えに来るまでのあいだ、すでに死にかけていたスマートフォンを充電器にかけて、シャワーで汗をながした。

 約束の時間きっかりに、部屋の呼び鈴がなった。

 リブヲは日本に8年も暮らし続けていたためか、変に日本的に気をつかうところがあって、たとえば時間というものに対して妙に正確であった。僕はこの男のルーツが本当に台湾であったのか、いささかではあるがそんな疑惑をいくどか心もとなしに感じたものだった。

 バイクの後部座席は、並走するおおくの車が吐きだす排気ガスのにおいをのぞけば、ほぼ全身に風が吹きつけてくるので、開放的でかなり気持ちのいいものだった。

 僕らは駁二藝術特区で降りた。ここはかつて港湾の倉庫が建ち並ぶ地域であったが、現在は一新して、素人玄人ありとあらゆる人びとの芸術作品を集めたとりわけ広大な展示地区になっている。

 ちかくに自転車専用道路があり、整備された小道をよく自転車が走ってくる。西臨港線鉄道の跡地だった。芝生のあたりまで歩くと、線路に沿って犬と散歩している人の姿が見られた。ここは高雄市民の憩いの場なのであった。

 自分はもう何度も訪れていたから、とりたててめずらしいと思えるものは何もなかった。

 今までの思い出を上書きするように、ただ写真を撮っていった。あの頃はたしかスマートフォンのカメラで撮っていたはずで、今はコンパクトデジタルカメラになっている。違いがあるとすれば、その程度のものだった。

 太陽はすでに西に傾きかけていた。もっとも今日は曇っていたためか、強烈な黄金光線こそないものの、濃密な蒼が風景のなかに深くはいり込んできていた。その蒼に呼応するように、オレンジ色のあかりがいくつもくっきりと浮かびあがっていた。

***たそがれどき駁二藝術特区***

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ときどき静かに漂流する

 「ここから、高雄な。おい」

 ひだりの運転席からリブヲの声がしているのに気がついた。

 「あ、う~。なんだよもうかよ。まだ早いじゃないかよ」

 ちょうどうとうとしかけていたところだったので、どことなくやる気なさそうな言葉がふいに口をついた。

 台湾の南部には玉山から台湾海峡にかけて高屏渓という大きな河がながれ、河に架かる高屏大橋屏東県高雄市をむすぶひとつの境界になっている。

 リブヲの話によると、このままあと30分も走っていれば高雄市の中心部までたどり着くということだった。

 橋の下の底の浅そうな河には、途切れたりかたまりになったり、かさかさした灰色の中州がはてしなく横たわっているのが見えた。

 特に行きたい場所があるわけでもなく、かといってホテルに帰るにはまだ早すぎたし、晩飯までにかなりの時間があったので、僕らは、なんとなく通りかかった大東文化藝術中心で車を降りることにした。

 敷地内は自由に歩くことができた。案内板には演芸場、展覧棟、芸術図書館などがあり、そういった文化的な施設を複合的に集約したような場所みたいだったけど、月曜日の今日は閉館日にあたるためそのどれもが閉まっていた。

 噴水のまわりは、まだ小学校に上がる前の子供たちが裸足で走りまわっていた。そのすぐ頭上には、気球を模した造形があり、僕らはちかくのベンチに腰を下ろして、屏東で買って飲みかけのもう氷が溶けてぬるくなったお茶で休息した。

 「月曜日は、休みが多いんだな」

 「そだ。みんな仕事する。だから月曜は休みだ」

 そうか今日は休みであったのか。僕は会社の休暇をつかってはときどきこうして台湾を歩いている。だから台湾にいて仕事と曜日の感覚を意識することはほとんどなくなっていた。
 
 ふいに、心の奥のほうで欠落のそれに似た空洞のような寂しさがぽっかりと口を開いているのを感じた。ふと、自分はいったい何をしているんだろう、と思った。それから、今自分は人生のどの位置にいるんだろう、と思った。

 これまでいったい何をしてきたんだろうか。これからいつまで続けていくつもりなんだろうか。その先にはいったい何が待っているというのだろうか。自分が望んでいたことだったのだろうか。このまま後悔はしないのだろうか。

 だろうか、だろうか、ときて、もういったいなんなんだろうか。そうした思考が縦にも横にも混ざりあって、とりとめのない不安な気持ちが胸のなかで奇妙にふわふわとゆれ動いている心持がした。

 それから、そろそろ人生の折り返し地点に来ているのかもしれないな、と思った。

 四十にして惑わず、と言う。自分は二十ぐらいのときからすでに惑っていた気がする。三十のときも同じように惑っていた。そして四十をこえた今でも惑い続けている。これからもきっとそうなるだろう。五十になったとき、自分は天命を知っているとは思えない。

 右往左往する思考をかかえたまま、ベンチに座る母親のまわりをキャーキャーと無邪気にかけまわっている子供たちを遠くに眺めて、僕はリブヲとともに車のある駐車場へかえっていった。

***高雄の大東文化藝術中心で***

大東文化藝術中心




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屏東、午後の真ん中に

 台湾メシ食いたい。屏東メシ食いたい。とにかくなんでもいいから食わせろ!

 すきっぱらなのに山登りをしてしまった引きかえに僕らが支払った代償は、とにかくもう死にそうなくらいの腹の減りぐあいだった。リブヲの運転する車のなかは、とうに昼をすぎた15時をまわっていた。

 「屏東觀光夜市にいけばメシが食える。まってろ」

 リブヲは高雄人ではあるけれども、同じ台湾南部にある屏東の地元民でもないので、慣れない屏東の街の道路のつくりの方に、ひそかに手こずっている様子であった。

 屏東觀光夜市はさすが観光と書いてあるだけあって、ちかくに思ったとおり商業的でがっつりひろめの駐車場が併設されていた。

 夜市、とはいったものの、僕たちはまだまだ午後のまんなかくらいの時間に夜市ストリートを歩いて、メシが食えそうなところを物色した。そのなか、カウンターの奥からもくもくと湯気があがっている店があったので、とりあえずその軒下にはいった。

 鷄肉飯の店のようだった。お茶碗くらいの器にメシと鶏肉の割いた肉をのせたものをふたつ注文して、さらさら食ってしまった。

 「足りないよな」
 
 「うむ、足りない」

 台湾の夜市では、はしごメシをすることが日常茶飯事だから、僕らは当然のごとく2軒目に入っていった。碗粿(ワーグイ)という食べ物で、これはこまかくすりつぶして蒸した米に、けっこう濃そうな茶色いタレをかけたものだった。そいつをスプーンでほじくったら、なかから肉がでてきたので、プリンのようなデザートを想像していた僕にとっては、その極端ぶりに驚くべきものがあった。

 「ところで、あした面接なのにこんなところで遊んでいて、大丈夫か?」

 僕はすこし気にかかっていたことをリブヲに聞いてみた。

 「あまり遅くならなければ、だいじょぶ」

 リブヲは当たり前のことを当たり前のように返した。

 「ところで君、今回の転職で何社目なんだい?」

 「9社目だな」

 「ブフォッ。
おい、いくらなんでもそれはちょっと多すぎじゃないのか」

 僕はテーブルに噴きこぼした
碗粿を、予備に残しておいたティッシュで拭いた。

 「少ないほうだな。10社は当たり前だな」

 日本の企業は転職の回数が多いとあまり良い印象をもたれない、なんてことが当たり前のように言われているが、台湾の企業は、そのような考え方はまったくないみたいだった。日本でも最近になって転職回数が4、5社の人たちがぽつりぽつりと増えてきているような気もする。しかしまだまだ台湾のそれには遠くおよばない。
 
 「だからといって、9社はけっこう多いだろよ。そういうものなのか」

 「いつでも条件がいいところにいく」

 スプーンで4回、5回すくって、碗粿はなくなった。

 遅い午後のメシは、昼飯だか晩飯だか、どちらに寄せればいいのかなんだかわからない。僕らはこの後に待っているであろう晩飯をなるべく侵食したくないと考えて、メシは一旦おしまいにした。

 最後に、飲み物をテイクアウトして帰ろうと、お茶スタンドに寄った。すでに出来上がっているお茶をただコップに注ぐだけだからすぐにできるだろうと思っていたのに、気がついたらできあがるのをしっかり待っていた。簡単そうに見えてちょっと時間がかかるところが、どこか本格的だった。

 ストローでお茶を飲みながら、僕らは高雄に帰るために車の停めてある駐車場に戻った。

***屏東觀光夜市の遅い午後***


屏東觀光夜市-11

屏東觀光夜市-2

屏東觀光夜市-3

屏東觀光夜市-44


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涼山瀑布、そのざわめき

 つぎに車を降りたのは瑪家遊客中心という観光案内所に隣接する駐車場だった。僕らの他にも何台か車が停まっていたことから、どうやらこちらは休業ではないようだ。

 案内所は、どこか民家を模した造りになっていて、ところどころに原住民族の文化を思わせる色とりどりの装飾がしてあった。

 リブヲが案内所のお兄さんに何かを聞いている横で、僕は、カウンターに並んだパンフレットを無作為に取ったり戻したりして眺めていた。パンフレットには屏東瑪家といった文字が印字されてあって、今いる場所が屏東県瑪家郷であることがわかった。

 「これから1キロ。山道を歩く。いいか」

 扉を出るとき、リブヲはくるりと振り向きなんとなく不安そうな顔をして言った。

 「おい、本気か?こんな暑い日にそんな山道なんか歩かなくったっていいだろ。それにしても、その先にいったい何があるっていうんだい」

 僕はちょっと嫌だなあと思いつつも、しかしリブヲのことだから何かおもしろいことでも企んでいるのかもしれないと思って聞き返した。

 「滝がある」

 暑い日に山道を歩くのはそれなりの体力と汗まみれになる覚悟が必要だ。しかし、着いた先で滝の水にあたることができれば、それはそれで涼しくて気分がいいんじゃないかと考えた。

 「なるほど。そうだな。せっかくここまで来たんだから。いこうか」

 山道とはいっても、ところどころに木の歩道が整備されていて、けっして足場が悪いというわけではない。それでも、階段と登り坂をいつ果てるともなく繰り返していればいつかはへたばってくるものだ。

 リブヲは山歩きとはほど遠いいかにも休日用サンダルをひっかけて、先へ先へとどんどん歩いていった。その後ろ姿は、故郷にもどり、これから本来の台湾人に着々とかえっていこうとする意思の表れに重なって見えた。

 僕は途中で何度か立ち止まっては写真を撮りつつ歩いていたが、そのうちに、写真を撮るのは言い訳で、じつは休憩をするために立ち止まることが多くなっていた。

 眼下には山の斜面につづく水のながれがあった。ときおり、せき止められたように水がゆるやかな場所があり、水遊びをする子供たちの姿があった。透明な水は、何よりも冷たそうに見えた。

 そんな風景を幾度か通り過ぎていると、ふいに歩道が途切れ、かわりにゴツゴツしたむき出しの岩が現れた。岩と岩とのあいだは、水があふれざわめきたっている。

 最初に作ったままその後ほとんど手入れをしていないようなゴム製のかたいロープが岩壁の先に向けて打ち付けてあった。僕はカメラをカバンにしまい、カバンを体に固定した。そして、自由になった両手でロープをつかむと、水に落ちないようにゆっくり岩場を登っていった。

 岩場を越えるとザーという間断のない音のなかに、小さな滝があった。こまかい水のかけらが露出した腕と顔に何度もとんできた。

 僕らはちょうどいい感じの石を見つけて、お互いすこし離れて座った。さっきまで地表からこみ上げていた熱も、ここでは休止していた。滝の音の隙間から鳥の声が聞こえた。

 それから、リブヲに教えてもらった涼山瀑布という滝の名前と写真を、僕らが同時にいた証としてSNSに記録した。

***屏東県瑪家郷の涼山滝***

涼山瀑布2


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プロフィールです。

みのりおん

Author:みのりおん
台湾はちんほうちゃな食べ物であふれている。でもそこで出会ったのは、食べ物ばかりでなく、美しいシゼン、よく眠るイヌ、そしてとても優しいヒトビトだった。そのどれもが、明るくて、のんきで、楽しくて。そんな「ちんほうちゃ」な出来事を、とりためた写真の隅っこから、いつもニヤニヤしながら切り取っているんです。
※ちんほうちゃは台湾語でとても美味しいの意味です。
※本ブログの登場人物は基本的にすべて仮名を使用させていただいております。

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